IT資格について従業員の学習意欲は高まっている。しかし、企業側の支援制度が追い付いていない。従業員の確保が次第に難しくなっている現在、これは機会損失につながるだろう。
IT資格の取得に熱心な従業員が一定数いる一方で、そのスキルを企業が十分に活用できているのかについては、立ち止まって考える必要がありそうだ。今回の調査では、IT資格の取得支援制度を設けている企業の割合が、全体として緩やかな減少傾向にあり、とりわけ従業員規模の大きい企業で低下が目立つ結果となった。一方、中小企業では資格取得を人材育成や採用競争力の向上につなげようとする動きが見えた。もちろん、こうした数値だけで企業の姿勢を一概に評価することはできない。だが、企業の支援制度が従業員のキャリア観や現場のニーズとスレてはいないだろうか。
本稿ではIT資格の取得に関する過去5年分のアンケート結果を基に、その背景と課題を探っていく。
はじめに、企業が従業員に対して資格の取得を後押しする「支援制度の設置率」について経年比較したところ、全体としては2021年の55.5%から2024年には47.6%へ減少していた。2025年は50.6%と微増したものの、全体としては減少傾向にあることが分かった(図1)。
それでは全ての企業が支援制度に後ろ向きなのかというとそうではない。従業員規模別に数値を見ると、はっきりした傾向が現れた。
まず、大企業で支援が急減する傾向だ。DX人材の育成やリスキリングの必要性が叫ばれる中逆行した動きを取っている。5001人以上で75.0%から59.7%へ15.3ポイント、1001〜5000人で72.9%から63.8%へ9.1ポイント減少していた。
資格取得に支援をしない理由として考えられるのは、まずコストが挙げられる。費用対効果が見えにくいことも、理由の一つと考えられる。また、OJTやプロジェクト経験、社内研修など既存の育成施策が充実している場合、必ずしも資格取得が重視されるとは限らない。結果として、資格取得支援は人材育成戦略の中で優先度が低く位置付けられている可能性がある。
これとは対照的に、従業員100人以下の中小企業では、資格支援制度の設置率が2割台から3割近くへと上昇している。限られた人員で競争力を維持するため、資格を即戦力化の手段やスキルを可視化する手段とし、人材確保や育成に結び付けようとする姿勢が読み取れる。
資格取得の支援策にはさまざまなものがある。受験料や教材費の補助、合格報奨金、資格手当の支給、学習時間の勤務時間化、教育休暇制度、人事評価制度との連動などだ。
次に支援制度による「補填(ほてん)内容・範囲」の推移を見てみよう。
「受験料の全額・一部負担」は合格時の支給が2021年の66.9%から2025年の53.0%へ上下しつつも減少傾向にある(図2)。
| 補填の内容 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 受験料の全額・一部負担(合格時) | 66.9% | 53.7% | 57.8% | 63.1% | 53.0% |
| 受験料の全額・一部負担(合否を問わず) | 23.2% | 30.6% | 28.0% | 24.4% | 25.5% |
| 合格報奨金(一時金) | 45.8% | 43.1% | 48.6% | 48.1% | 46.9% |
| 研修・講座受講料の補助 | 15.5% | 17.3% | 17.0% | 21.4% | 17.3% |
| 参考書・書籍代の補助 | 15.5% | 18.2% | 12.8% | 14.5% | 16.8% |
| 図2 資格支援制度の補填対象や範囲(過去5年推移) | |||||
合否にかかわらず費用を負担する企業の割合は3割弱で推移しており、大きな変化は見られない。この点から、受験機会を広く提供する支援よりも、合格につながる取り組みを重視し、結果を意識した支援へと軸足を移しつつある様子がうかがえる。
こうした傾向は、約半数の企業が「合格報奨金(一時金)」を継続して設けている点からもうかがえる。資格取得の結果だけでなく、そのプロセスを通じたスキル人材の育成に、一定の価値を見いだしている企業は少なくないようだ。
資格学習を補助するツールとしては「参考書・書籍代の補助」が安定的に補助対象となっている一方で、2024年には「研修・講座受講料の補助」が一時急増した。2025年には落ち着きを見せたが、今後も増加傾向が続くかどうかは、引き続き注目する必要がある。というのも「Udemy」や「YouTube」といったサービスを介した学習動画が拡大しており、企業としても安価で効率的なデジタル教材での支援にシフトすることで、教育コストの最適化を図る方向に動く可能性があるからだ。
こうした環境の変化を踏まえ、資格取得支援制度を検討する際に注意したい点がある。それは、アンケートで寄せられた従業員の不満や課題を無視しないことだ。実際の声を基に、現行資格支援精度の課題を見ていく。
過去の調査で寄せられたフリーコメントには、「合格した場合に受験料を1回分負担してほしい。合格するまでの受験料は自己負担」「資格維持や更新にかかる費用補助がない」といった声が多く寄せられた。従業員にとっては、仕事に必要な出費を自己負担するのは納得し難いという不満が背景にあるのだろう。
IT分野では必要な技術が次々と変化し、それに応じて新しい資格も誕生している。だが、企業の資格支援制度がそれに追い付いていないとの不満が聞かれる。具体的には、支援対象となる資格の範囲が狭いことや、資格更新への対応が不十分なことへの声だ。フリーコメントでは、「業務に直結する『Amazon Web Services』やGoogle関連の資格なのに補助がない」「新しい資格の報奨金を決める担当者が判断に追い付けていない」「支援対象資格の選定理由が明確でない」といった声が挙がった。
支援にきめ細かさが足りないという指摘もあった。
「難易度無関係に額が一律」や「配属部署で資格手当が変わるが、どの部署でも資格手当を支給してほしい」「社内資格制度とバッティングしており、どちらを取るべきかわからない」といった制度のばらつき”に対する不満も多い。
こうした企業の支援制度に見られる「経済的インセンティブ」「技術トレンド」「制度の公平性や納得感」の3つのズレが、リスキリング促進やジョブ型雇用の潮流に応じた個人のキャリア観と合わなくなってきているのだと考えられる。
一方で企業の立場になって考えると、前編で触れたようにIT資格が新設・改定されたり資格保有者が増加している中、その都度難易度の評価や査定、更新費用を負担し続けることによる「管理コストの増大」や、資格手当を手厚くし過ぎることによる「既存の賃金体系とのバッティング」、ニーズの高い資格取得を支援した結果取得後に転職されてしまう「転職リスクへの恐怖」など、踏み込みにくい事情があるのも確かだ。
前編でIT資格を保有して役立った理由の1位に「就職、転職に有利に働いた」(19.6%)が挙がっていたこともあり、今後企業は人材育成を促進しながら、人材流出を誘発しない支援施策を考えていかなければならない。つまり単に支援の金額を増やす、減らすといった単純な結論にはならないだろう。
検討にはさまざまな方向があるだろうが、フリーコメントに寄せられた不満からヒントを見いだすとすれば「資格で取得したスキルを生かす場がない」や「資格を取得するだけで案件に役立てられていないことがあり、資格をとったらやめてしまう場合がある」のように、資格を生かすことのできる機会や役割を提供することが必要だ。
資格取得を個人の自己研さんの範囲で留めておくのではなく組織の力として還元させられる道を探らなくてはならない。企業として従業員のリスキリングをどう支援していくのか、どのように企業成長に生かしていくのか、本稿を参考に在り方を検討いただきたい。
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