2025年末以降、PC向けメモリやSSDの供給不足を背景にパーツ価格が高騰し、業務用・個人用を問わず在庫切れも発生している。アナリストへの取材を基に、今後の価格変動を見据え、値上げを前提としたPC調達サイクルの見直しを考える。
PC向けメモリやSSDなど、PCを構成する半導体部材を中心にパーツ価格が急激に上昇し始めたのは2025年11月半ばのことだ。コロナ禍をきっかけとし2020年後半にPC需要が急増した後、これら半導体の価格は一時落ち着き、緩やかな上昇にとどまっていた。しかし2025年末頃から状況は一変し、異例ともいえる価格高騰が起きている。
とりわけ深刻なのがメモリ市場だ。DDR4メモリの欠品が相次ぐ他、DDR5を含むメモリ全体の価格が従来の3倍から4倍にまで高騰しているという。こうした動きはSSDにも波及しており、さらにCPUについても大きな影響を受けるとの見方が強まっている。
この価格上昇は日本国内に限ったものではなく、世界的なトレンドだ。2026年の国内PC調達においては、2026年4月以降、価格のさらなる上昇に加え、納期の長期化も避けられない可能性が高い。本稿では、IDC Japanのアナリストである東直子氏への取材を基に、PC価格上昇の背景や今後の見通しについて整理する。
今回の急激な価格高騰の背景にあるのは、半導体供給における優先順位の変化だ。現在、半導体メーカーが最も注力しているのは、生成AIブームを背景に急拡大するデータセンター向け需要への対応だ。
生成AIサービスを支えるデータセンターには、国内だけでも数千億円〜数兆円規模の投資が行われており、新設ラッシュに加えて既存システムの増強需要も高まっている。これらのデータセンターでは、高性能なCPUやGPUに加え、広帯域メモリ(HBM)や大容量・高耐久SSDが大量に必要とされる。
こうした分野は半導体サプライヤーにとって需要規模が大きく、かつ利益率も高い。各社がデータセンター向け部材の供給を優先した結果、ミドルレンジ以下の企業向けPCに使われる半導体部材の供給力が相対的に低下しているのが現状だ。
一方、国内法人PC市場は2025年に「歴史的特需」と呼ばれるほどの活況を呈した。背景には、「Windows 10」のEoS(サポート終了)に伴う更新需要がピークを迎えたこと、さらにGIGAスクール構想が2024年度から第2期に入り、やや高スペックなPCへの更新需要が重なったことがある。
PCディストリビューター各社は早期から在庫確保を進め、全体として出荷数量が落ち込むことはなかった。しかし、特需の反動により2026年にはPC出荷台数が減少することが以前から予想されていた。
IDC Japanは、国内のWindows 10 EoS対応需要は2025年9月までにピークに達したと分析している。その反動により、2026年の国内法人PC市場は20〜30%規模で縮小する可能性があるという。
事態をさらに深刻化させているのが、CPUとメモリの世代交代が同時期に進行している点だ。主要DRAMメーカーによるDDR4メモリの生産終了の表明、DDR5やHBMへの集中、そしてCPUの世代交代が重なり、供給構造が大きく転換する局面を迎えている。
DDR4からDDR5への移行が進み、インテルCPUも第14世代(Raptor Lake Refresh)から、第15世代にあたる「Core Ultra」シリーズ(Meteor Lake、Arrow Lake)への集中が始まっている。メーカーは新製品の普及を促すため、旧世代製品の供給を意図的に絞る傾向があり、この過程で旧世代製品の欠品が発生しやすくなる。
この供給の「谷間」は2026年中に解消する兆しはなく、少なくとも2027年半ばまでは続くと予測される。仮に2027年半ば以降に価格上昇の勢いが弱まったとしても、需給が本格的に回復するのは2028年になる見通しだ。2026年〜2027年にかけて、PC向け半導体価格の上昇基調が止まる可能性は低いといえる。
こうした半導体の争奪が続く状況は、企業向けクライアントPCの価格や納期に直接反映される。加えて、海外製の部材や完成品については為替レートの変動も注視したい。ベンダー各社は為替変動リスクを織り込んだ価格設定を行っており、おおむね6〜7%程度の為替変動を前提にしているという。
これら複数の価格上昇要因を踏まえ、IDC Japanは2026年4月以降のPCの価格動向を次のように見通している。
また、PCの発注から納入までに要する期間についても、2026年〜2027年にかけては「3カ月〜半年」程度の納期バッファーを見込む必要が生じる可能性がある。従来、1カ月前後での納入を前提に運用計画を立ててきた企業にとっては、調達・購買モデルそのものの見直しが求められる局面となりそうだ。
10%を大きく上回る可能性のある価格上昇トレンドが続くということは、少なくとも2028年頃までは、時間の経過とともにPC価格が上昇していくということだ。これは、大量のPCを一括導入・一括更新する購買モデルを採ってきた企業にとって、IT予算の見直しを迫る深刻な要因となる。では、予算への影響をできるだけ抑えるための打ち手はあるのだろうか。
一つの希望材料として挙げられるのが、PC業界では毎年需要のピークとなる3月期(年度末)を前に、ベンダーやディストリビューターが在庫調整や需要の先取りを進めている点だ。メモリやSSDのサプライリードタイムはおおよそ2カ月。CPUは約1カ月とされるが、PCベンダーとディストリビューターは3月までの需要予測に基づいて部材や完成品を確保している。この範囲の在庫品については、価格や納期に深刻な混乱が生じる可能性は低いと見られている。
もっとも、全ての製品が例外というわけではない。特に欠品が懸念されているのは「GIGAスクール構想」向けのローエンドCPU搭載モデルで、既に欠品や入札辞退が発生しているケースもある。一方、スタンダードクラスのCPUモデルについては、2025年12月時点では需給バランスの著しい悪化は確認されておらず、3月までは一定程度の需要をカバーできる見通しだ。
企業向けの大規模PC導入案件では、納入の3カ月前までに価格が提示されるケースが多い。そのため、3月までに納入される案件については、価格面・納期面共に大きな問題は生じにくいと考えられる。逆に言えば、PC調達における本格的なリスクが顕在化するのは2026年4月以降だ。
つまり、まさに今のタイミングで迅速に購入契約を結ぶことが重要になる。特に新入社員向けPCの調達については、早期に動くことが強く勧められる。社内稟議などで契約のタイミングを逸すると、4月以降に価格改定が行われ、想定以上のコスト増に直面する可能性がある。可能な限り早期の契約締結を目指すべきだろう。
また、価格上昇幅が特に大きくなりやすいのは、ハイエンドなメモリやSSDを搭載したモデルになると予想される。全てのPCを一斉に早期発注することが難しい場合には、こうしたハイエンドモデルを必要とする部門の購入契約を優先することが、現実的かつ効果的な対応策となるだろう。
PCの調達手段としては、購入の他にリースやレンタル、DaaS(PCaaS)といった選択肢も一般的だ。しかし、いずれの方法においても課題となるのは、事業者が企業のニーズに合致するモデルをどれだけ在庫として確保しているかという点だ。多品種・大量の在庫を抱えることはコスト増につながるため、各社とも在庫には限りがある。その結果、ユーザーが希望するモデルを適切な価格と納期で調達することは、今後さらに難しくなるとみられる。
価格面では、リースやレンタルが購入より有利になる可能性はあるものの、2026年4月以降は納期の長期化や欠品といった問題が、購入の場合と同様に深刻化する恐れがある。
リースやレンタルでは、既存PCについて契約期間を延長するという対応策も考えられる。旧世代のPCを継続利用する必要はあるものの、短期的にはコストを抑えられる点がメリットだ。ただし、新入社員向けなど新規導入が必要なケースでは、この方法を適用することはできない。
DaaS(PCaaS)についても、初期投資を抑えられる点では有効な選択肢となり得るが、納期遅延や欠品のリスクは基本的に他の調達方法と変わらない。加えて、DaaSはPC本体の調達コスト削減よりも、運用管理コストの低減を主目的とするサービスであるため、PC本体に対する料金体系は相対的に割高になりやすい。IT部門の運用管理能力が高い企業では、既存の体制に管理コストが上乗せされる形となり、価格上昇や納期遅延への直接的な対策としては効果が限定的になる可能性が高い。
PCコスト上昇の要因の一つとして、生成AI機能をローカルで実行可能なNPUを搭載した「AI PC」の登場が挙げられる。代表例である「Copilot+ PC」は、Microsoftの要件に基づき、1秒間に40兆回以上の演算性能を持つ高性能NPU(40TOPS以上)を搭載している点が特徴だ。こうした高性能コンポーネントの採用により、AI PCは結果としてハイエンド価格帯に位置付けられるケースが多い。
比較的処理能力を抑えた(40TOPS未満のNPU搭載)モデルは以前から存在しているが、最近では同クラスのAI PC製品のラインアップも着実に増えている。これらも含めて「AI PC」という市場ジャンルが広がっており、価格を抑えたモデルも登場するなど、用途やニーズに応じた選択肢が拡大している。
IDC Japanの調査における国内法人市場のAI PC導入動向を見ると、日本市場は世界市場と比べて普及のスピードと内容の両面で差があることが分かる。
世界の法人市場では、すでにPC全体の3割超がNPU搭載のAI PCが占め、2027年には65%まで拡大すると見込まれている。一方、日本の法人市場では現時点でAI PCの比率は2割に満たず、2027年にようやく半数程度に達すると予測されている。
また、NPU搭載PCの中身にも違いが見られる。世界および日本ともに2029年までにPCの約8割がNPU搭載のAI PCになると見込まれているものの、世界の法人市場では40TOPS以上のハイエンドNPUを搭載したPCが4割を超えるのに対し、日本の法人市場では3割程度にとどまる見通しだ。高性能NPUへの移行は、日本では世界より緩やかに進むとみられている。
日本市場でAI PCの普及が世界に比べて遅れている背景には、2つの要因がある。一つは、日本市場においては一定のシェアを持つ国内ベンダーが存在し、これらのベンダーでAI PCの投入がやや遅れた点だ。その結果、市場全体でAI PCの選択肢が広がるまでに時間を要した。
もう一つは、国内ユーザーのITリテラシーの違いが影響している点だ。コロナ禍で緊急的にテレワークが導入された際、日本のIT環境が国際的に出遅れたと指摘される場面もあった。こうした背景から、日本ではデジタル環境に十分慣れていないユーザーが比較的多く、新しい技術の導入に慎重な姿勢が、AI PC普及のスピードを鈍化させているとみられる。
ただし、今後はAI PC全体では徐々に世界市場に追い付く形で普及が進むと予想される。一方で、40TOPS以上のNPUを搭載したハイエンドモデルについては、世界市場と比べて導入の進み方が緩やかで、将来にわたって普及の遅れが続くとみられる。
先に述べたように、ハイエンドPCの価格上昇幅はスタンダードPCより大きくなる可能性が高い。一方で、スタンダードPCでもインターネット経由で生成AIサービスを利用する上で大きな制約はなく、現時点ではNPUの搭載が必須となる「キラーアプリ」やサービスは、動画・画像生成など特定業務に限られている。そのため、NPU非搭載の比較的安価なモデルに対する需要はいまだ高い。
現状でAI PCが導入されているケースの多くは、後継機種として自然にNPU搭載モデルが選ばれたという受動的な理由によるものだ。だが、今後は40 TOPS未満のNPU搭載モデルの価格が平準化し、スタンダードPCとして広く受け入れられることが見込まれる。この時点では、社内リソースを横断して安全に生成AIを活用する業務スタイルも一般化するだろう。PCの耐用年数を踏まえ、値上がり前に導入PCの一部を調達しておくことには、戦略的な意義がある。
以上を踏まえると、PC調達におけるコスト上昇と納期遅延のリスクに対応するため、IT部門が今考慮すべきことは明確だ。まず、2026年3月末までの値上がり前在庫を狙い、ベンダーやディストリビューターと早期に購入契約を締結することが重要だ。また、既存PCを継続利用したり、リースやレンタル契約期間を延長したりすることも、短期的なコスト抑制策として有効だ。さらに、導入や運用管理も含めたDaaSの活用も検討するといいだろう。
新規購入に当たっては、スタンダードPCで5〜15%、ハイエンドPCで10〜20%と見込まれる価格上昇幅を考慮し、予算を設定する必要がある。加えて、PC納期については3カ月から半年のバッファーを見込んで導入・運用計画を策定することが求められる。
加えて、事前の対策としてPCの要求性能や仕様を必要最小限に抑え、従業員1人当たり複数台を使用している場合は1台に制限することも有効だ。また、各部署にある余剰PCを調査し、可能であれば不足している別部署で再利用することで、全体の調達負荷を軽減できる。
PC調達の逼迫は、2026年4月以降確実に訪れる。PC調達難民とならないためには、今のうちから具体的な対応策を検討し、早期に行動に移すことが重要だ。
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