変化の速いビジネス市場において、IT資格の取得目的や活用シーンに変化が生じている。本稿では過去5年間にキーマンズネットが定期的に調査してきた「IT資格の取得状況」のデータを比較した。今、求められている人気資格と今後の注目資格、急速に変化しつつある学習方法のトレンドを取り上げる。
キャリアやスキルを考える際、IT資格がどのように役立つのかを検討したことがあるだろう。IT系の技術関連職であれば、国家資格の「基本情報技術者」を取得済みの方が多く、次の資格を検討しているところかもしれない。
キーマンズネットは毎年、読者を対象としたオンライン調査「IT資格の取得状況」を実施している。本稿ではこのうち、2021〜2025年の5年分の調査結果から、個人のキャリア、スキル戦略としてIT資格がどのように変化してきたのかを紹介する。
はじめに「IT関連資格の保有状況」の推移から傾向を分析したところ、何らかのIT資格を「保有している」とした回答は2021年の62.9%から2024年の72.4%まで右肩上がりに増加していた(図1)。最新調査である2025年11月時点では高止まりの兆候があったものの5年間で9.5ポイント増と、7割以上がIT関連資格を保有している現状が明らかになった。特に2022年から2023年にかけては増加幅が大きく、当時、政府主導で進められた「教育訓練給付金の拡充」や「DXリスキリング助成金」などのリスキリング支援策の促進影響が大きそうだ。
IT資格保有率の増加と合わせ、実際に「IT資格を保有していて役に立った」と感じる割合もこの5年間で増加傾向にある。2021年には69.4%が「役に立ったことはない」と回答していたが、2024年以降は逆転して過半数が「役に立った」と回答した(図2)。
役立ったシーンの上位3位に大きな変動はなかったものの「就職、転職に有利に働いた」や「入りたいプロジェクト、案件に参加できた」が「給与が上がった」と比して増加傾向にあった。資格取得の目的が社内業務に役立てるためから、個人の価値向上、すなわち、転職や市場価値向上へとシフトしたと言えるだろう。自身のスキルを公的かつ客観的に証明するものとして資格を捉え直しているのかもしれない。
次に、社内評価や昇給、転職において有利になるIT資格を、役立つシーン別に紹介しよう。
基本情報技術者と「応用情報技術者」を比較すると、前者は昇進、後者は昇給につながる傾向が強いことが分かった。
これ以外の資格で昇給に寄与する割合が高かったのは「ネットワークスペシャリスト」や「データベーススペシャリスト」「ITサービスマネージャ」のような高度試験が挙がった。「情報処理安全確保支援士」(登録セキスペ)や「CISSP」などのセキュリティ資格も該当する。特に登録セキスペは2024年以降、昇給や転職への貢献度が最も高い伸び率を示しており、現在かなり市場価値の高い資格と言えるだろう。
就職や転職、プロジェクト参画への貢献が高かったのはAWS(Amazon Web Services)の「AWS認定各種」や「Microsoft Azure認定各種」などのクラウド系資格だ。特に「今後取得したい(取得予定の)IT関連資格」では5年連続で「AWS認定各種」が1位であり、2023年以降は取得層が一巡した影響か割合が少し落ち着いていることから、このような目的があるのなら「持っているのが当たり前」のフェーズに入ったようにも見て取れる(図3)。
| 順位 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | AWS認定各種(24.0%) | AWS認定各種(30.2%) | AWS認定各種(19.3%) | AWS認定各種(19.2%) | AWS認定各種(21.5%) |
| 2位 | 基本情報技術者(13.2%) | 登録セキスペ(19.2%) | 情報セキュリティマネジメント(16.4%) | 登録セキスペ(18.5%) | 登録セキスペ(17.0%) |
| 3位 | Microsoft Azure認定各種(13.2%) | Microsoft Azure認定各種(18.4%) | ITパスポート(14.8%) | Microsoft Azure認定各種(15.8%) | 生成AIパスポート(16.6%) |
| 4位 | 登録セキスペ(12.4%) | 応用情報技術者(15.9%) | 登録セキスペ(14.3%) | ITパスポート(15.8%) | G検定(13.9%) |
| 5位 | Google Cloud認定各種(11.6%) | ネットワークスペシャリスト(14.3%) | ネットワークスペシャリスト(13.9%) | 情報セキュリティマネジメント(15.1%) | 基本情報技術者(13.9%) |
| 6位 | 情報セキュリティマネジメント(10.7%) | 情報セキュリティマネジメント(13.9%) | 応用情報技術者(13.1%) | ネットワークスペシャリスト(15.1%) | 情報セキュリティマネジメント(13.0%) |
| 図3 今後取得したい(取得予定の)IT関連資格(過去5年推移) | |||||
前述の登録セキスペや情報セキュリティマネジメントは常に上位に挙がっており、サイバー攻撃の激化を背景に高度なセキュリティ人材へのニーズがあるようだ。
2025年からは過去の調査で下位にあった「G検定」や「生成AIパスポート」といったAI系の資格が上位に急浮上した。生成AIの普及に伴い、今後はAIモデルへの攻撃やデータ漏えいのリスクも予測されることから、AIガバナンスも視野に入れてAIをどう実務に組み込むかを問う資格の取得ニーズが増す可能性があるだろう。
IT資格を考える際、取得していることが当たり前だと捉えられるものと、現在の業務やキャリア戦略を考えて選ぶものに二分できるだろう。
取得していることが当たり前だと考えられているのは、基本情報技術者や「ITパスポート試験」、応用情報技術者などの国家試験だ。常に回答の上位に挙がり、根強い人気を見せている(図4)。
| 順位 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | 基本情報技術者(44.1%) | 基本情報技術者(48.6%) | 基本情報技術者(48.6%) | 基本情報技術者(48.0%) | 基本情報技術者(47.9%) |
| 2位 | ITパスポート (26.1%) | ITパスポート(27.4%) | ITパスポート (30.2%) | ITパスポート (33.5%) | ITパスポート (34.6%) |
| 3位 | 応用情報 技術者(25.5%) | 応用情報 技術者(23.6%) | 応用情報 技術者(27.0%) | 応用情報 技術者 (29.5%) | 応用情報 技術者(32.9%) |
| 4位 | ネットワークスペシャリスト(14.3%) | 情報セキュリティマネジメント (20.5%) | 情報セキュリティマネジメント(22.2%) | 情報セキュリティマネジメント(20.5%) | 情報セキュリティマネジメント(27.1%) |
| 5位 | ITIL各種(13.7%) | AWS認定各種(12.3%) | ネットワークスペシャリスト(16.1%) | ネットワークスペシャリスト(17.0%) | 登録セキスペ(15.7%) |
| 6位 | 情報セキュリティマネジメント(13.7%) | ネットワークスペシャリスト(11.6%) | 登録セキスペ(14.5%) | 登録セキスペ(14.5%) | ネットワークスペシャリスト(14.3%) |
| 7位 | 登録セキスペ(11.8%) | ITIL各種(11.6%) | AWS認定各種(7.4%) | ITIL各種(10.0%) | AWS認定各種(11.1%) |
| 8位 | MCP(Microsoft認定プロフェッショナル)各種(10.6%) | Microsoft Azure認定各種(10.6%) | プロジェクトマネジャ試験(6.8%) | PMP(8.0%) | G検定(11.1%) |
| 9位 | AWS認定各種(7.5%) | 登録セキスペ(10.6%) | Microsoft Azure認定各種(6.4%) | Microsoft Azure関連以外のMCP(7.5%) | ITIL各種(8.9%) |
| 10位 | ITコーディネータ(7.5%) | MCP(Microsoft認定プロフェッショナル)各種(7.5%) | ITIL各種(6.4%) | AWS認定各種(7.0%) | MOS各種(8.9%) |
| 図4 保有しているIT関連資格(過去5年間の推移) | |||||
特に基本情報技術者は約半数が保有しており、ITの基礎体力を証明する登竜門として位置付けられている。基幹システムのクラウド移行が進み始めた2022年以降は、AWSやMicrosoft Azure関連のクラウド系資格の保有率が増加した。2024年頃からはサイバー攻撃の高度化やランサムウェア被害の拡大を受けて登録セキスペなどのセキュリティ系資格が、DX推進を背景にG検定や生成AIパスポートといったAI系資格への需要の高まりも見て取れた。
このような兆候から、今後、人気のIT資格はより実務に直結する専門領域で有用性が発揮されるものにシフトしていくと考えられる。
最後に少し角度を変え、IT資格取得のための学習について変遷を見ていきたい。まず受験までの勉強時間は「3カ月以内」の短期学習が過半数だった。5年スパンで見ると「7カ月以上」で長期学習する傾向との二極化が緩やかに進んでいる(図5)。
| 期間 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3カ月以内(短期) | 50.3% | 50.7% | 51.1% | 44.5% | 50.7% |
| 4〜6カ月(中期) | 34.8% | 28.1% | 35.0% | 34.5% | 31.4% |
| 7カ月以上(長期) | 14.9% | 21.2% | 13.9% | 21.0% | 17.9% |
| 図5 資格試験の学習時間(過去5年間の推移) | |||||
学習方法は「参考書を購入し独学で勉強した」が常に約8割と根強く支持されているものの、2025年の最新調査では初めて「無償のWebサイトや無料アプリ」や「動画(YouTube)」「AI活用」などの”学習方法のデジタル化”への意見が多数寄せられ、学習リソースの多様化が垣間見えた(図6)。
| 順位 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | 「参考書を購入し独学で勉強した」(84.5%) | 「参考書を購入し独学で勉強した」(86.0%) | 「参考書を購入し独学で勉強した」(85.9%) | 「参考書を購入し独学で勉強した」(85.0%) | 「参考書を購入し独学で勉強した」(85.4%) |
| 2位 | 「通信教育やe-ラーニングを受講した」(14.9%) | 「通信教育やe-ラーニングを受講した」(22.6%) | 「通信教育やe-ラーニングを受講した」(21.9%) | 「通信教育やe-ラーニングを受講した」(20.5%) | 「通信教育やe-ラーニングを受講した」(27.9%) |
| 3位 | 「社内外の勉強会や学習サークルで学んだ」(9.3%) | 「社内外の勉強会や学習サークルで学んだ」(12.0%) | 「社内外の勉強会や学習サークルで学んだ」(9.6%) | 「社内外の勉強会や学習サークルで学んだ」(10.0%) | 「勉強はしていない(受験したら合格した)」(7.9%) |
| 図6 資格試験の学習方法(過去5年間の推移) | |||||
長年2位につけている「通信教育やe-ラーニングを受講した」も年々割合を増してきていることから、今後は動画学習とAI活用を組み合わせる手法が、いわばタイパ(タイムパフォーマンス)の良い学習方法として主流になっていくと予測できそうだ。
後編では企業側から見たIT資格について紹介する。企業の支援制度の考え方や資格を取得した従業員への「還元」はどのように変化してきたのだろうか。
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