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突如到来したWithコロナ時代で、あらゆる企業が対応検討を迫られた「テレワーク」。オフィスで直接対面する従来のワークスタイルから離れつつ、これまでと同水準またはそれ以上の生産性を目指すチャレンジは、デジタル化を前提としたビジネスに移行するDX(デジタルトランスフォーメーション)の実践とも大きく重なっている。
コロナ禍という災いを転じ、DX推進の好機とするために、いま押さえておくべきポイントは何だろうか。本稿では、代名詞となったRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)導入支援よりも前から約20年に渡り、大手企業の業務改革に携わってきた安部慶喜氏(アビームコンサルティング株式会社 戦略ビジネスユニット 執行役員 プリンシパル)が登壇した「DIGITAL WORLD ONLINE 2020 SUMMER」(2020年8月26日開催)の模様をダイジェストで振り返る。
安部氏はセッションの冒頭、欧米、アジアなど99カ国の企業が回答した2020年3月の調査で「テレワーク実施済み」との回答が9割近くだったのに対し、同時期の日本企業は過半数が「テレワークの予定なし」としていたことに言及。その直後、全国で緊急事態宣言が出された4月には国内企業の約7割がテレワークを初めて実施したとの調査結果にも触れ「紙ベースの業務が残り、なお出社を要するといった状況の中でも、国内ではコロナ禍を契機に、テレワークが極めて急速なペースで普及してきた」と確認した。
加えて同氏は、今回のCOVID-19に限らず感染症の世界的大流行が今後も周期的に生じうることから、リアルな対面の場を重んじてきた日本のビジネスシーンも、バーチャルなコミュニケーションへ不可逆的に移行していくと予測。その上で、テレワークに関する企業の習熟度を以下の4段階に分類し、「現在多くの日本企業はレベル1と2の間。これをレベル3まで引き上げることが、短期的に最重要の課題だ」と述べた。
慣れないテレワーク下でチームをまとめることになった管理職の悩みとしてしばしば話題に上る「勤務態度が見えない」「コミュニケーション量が減った」といった課題について、安部氏は「今まで皆がオフィスに集まっていたので、何となく管理できている気になっていただけ。そもそも管理の仕組みが整っていない」と解説。テレワークでは1人ひとりが離れた場所で別々に仕事を進めるため、対個人の評価は最終的な成果から定量的に行うほかなく、そのため担当業務や評価の尺度、到達度の確認方法を明確化する必要が生じた結果、成果との関連があいまいな勤怠管理や人事評価を長年放置してきた不備が顕在化してきたとの認識を示した。
日本において成果主義に基づくマネジメントが立ち後れている理由として、同氏は、労働基準法が1947年の制定以来、労働時間ベースで勤怠を管理するという大枠を変えていない点に代表される、法制面の遅れを指摘。テレワーク推進を当面の課題とする企業側としては、労務管理・制度設計・業務管理・人事評価を、そろってテレワーク前提の仕組みにアップデートしていく対応が欠かせないと説いた。
安部氏は続けて、労務管理・制度設計・業務管理・人事評価の各面から、場所に依存しないマネジメントを確立していく具体的方法を説明。このうち労務管理については、前日の労働時間と当日の体調を申告する従業員向けWebフォームへの誘導や、回答の督促、集計結果とPCの動作履歴との照合などを自動化したソリューションを動画で示した。
「この程度の機能であれば数日で実装できる」と簡便さをアピールした同氏は、時間ベースの勤怠管理のような法令上の要請は極力自動処理しつつ、管理職は各メンバーの声色に注意を向けるなど、対面時より難しくなった変調の早期察知に努めるべきだとした。
また、成果主義へのシフトに対応した制度設計については、初めて真剣に取り組む企業が大半であることから、「(ある支援先企業の実績で)制度づくりに約2年、定着までさらに1年がかり」と、相当な時間が掛かることを強調。各従業員の業務内容、ならびにその定量的な評価指標を明文化していく地道な取り組みの中で、「後輩の指導育成」のような複数社員に共通する役割も、個人単位の評価項目に忘れず盛り込むようアドバイスした。
さらに、日々の業務管理とメンバーへの評価においては、場所を共有しないテレワークの弱点を意識的に補完する努力が必要になることも指摘。デジタルツールを活用して各自のタスクを可視化・共有するだけでなく「勤怠管理を兼ねた始業時・昼間・終業時の声掛け」「達成へのプラス評価と要改善点のフィードバックを、ともに言葉に出す」「1on1ミーティングの定期開催」「経営層から全社に向けたメッセージの発信」などでコミュニケーションの充実を図ることが肝要と説いた。
企画立案、意志決定、営業、同僚への支援など、あらゆる企業活動を支えるコミュニケーションの重要性を確認した安部氏は、テレワーク下における情報伝達での留意点を「会議」と「社員間コミュニケーション」の各シーンに分けて解説した。
このうち「Teams」「Google Meet」「Zoom」などのツールで行うオンライン会議について同氏は「気軽に招集・参加でき、録画機能で議事録を取る手間を省けるといったメリットがある反面、対面時に比べて視覚情報の量と質が落ちる」と分析。円滑な進行のためには
といったオンライン独自の工夫をするとともに、デジタルツールならではの機能をフル活用し、録画へのリンクや決定事項、次回までの課題を集約しておくことを推奨した。
また、招集・参加しやすいオンライン会議の乱立や多人数化を避ける観点から、「会議を通じて“化学反応”が起きるか」「参加者の行動につながるか」という2つの判断軸を提案。いずれも「否」となる、情報共有だけを目的とした会議は廃止の方向で検討すべきだとした。
さらに同氏は、テレワークによって非対面化した社員間コミュニケーションについて、「同僚と何気ない会話の機会を持てた出社時に比べて孤立しやすく、メンタルヘルスへの悪影響が懸念される一方、ちょっとした励ましで心が安らぐケースも多い」と指摘。そのため会社としては「前後の文脈を離れて言葉が独り歩きしやすい」といったオンライン環境への注意喚起に並行して「部署・チーム単位の雑談スペースをオンライン会議ツール上に設定」「オンライン飲み会への補助」といった社内コミュニケーション促進策の積極展開が効果的だとした。
第3のポイントとして安部氏は、紙の原本を保管するオフィスへの出勤を最小限に留めるためのペーパーレス化に着目。まずペーパーレスを実現する狙いでデジタル化に取り組めば、その延長で広範なDXの実践につながることを確認した。
ここで言う「デジタル化」は、以下の3段階に分類できる。
この3段階について、同氏は、自身が所属するアビームコンサルティング社内で、請求処理を自動化した事例をもとに詳説した。
コロナ禍を機に同社が取引先への協力依頼を進めた「紙の郵送からPDFのメール添付への切り替え」は、アナログ媒体をデジタルで置き換える「デジタイゼーション」に該当する。また、AI-OCRでテキストデータに変換後、RPAを用いて社内データと照合するといった一連の業務プロセスが可視化・自動化されたことは「デジタライゼーション」の一例という。
さらに、工数の8割が自動化されたこの新たなプロセスで、従業員は「受領したPDFの所定アドレスへの転送」と「基幹システムに自動登録される前の最終確認」を除く全作業から解放されたため、主たる担い手を人からデジタルへ移行させるDXも達成されたという。
このように、紙の原本を扱うための出社を不要とする取り組みを、VDI(デスクトップ仮想化)、VPN(仮想専用線)などセキュリティが担保された通信環境の整備と同時並行していくことで、テレワークを起点としたDXを円滑に進めていくことが可能だと安部氏は結論づけた。
併せて同氏は、コロナ後の国際的な人的移動制限に伴って、内外の賃金格差を利用したコスト削減の途が封じられたことから、DXを社内コミュニケーションの域に留めず、早期に対外的業務にまで及ぼして徹底的な生産性向上を図ることが急務だと強調。「デジタルレイバー主体で処理する仕事を人間が補完するスタイルにいち早く移行し、従来を格段に上回る生産性を実現できた企業がニューノーマル時代の勝者になる」と予言し、セッションを締めくくった。
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