メディア

今後テレワークは継続か縮小か? 調査から見る企業の意向

新型コロナウイルス感染症の影響によって多くの企業でテレワーク環境の整備が進められている。今後はどんな展開が予測されるのか。テレワーク環境の今後について概観する。

» 2021年09月22日 10時00分 公開
[浅野浩寿IDC Japan]

アナリストプロフィール

浅野 浩寿(Asano Hirotoshi):IDC Japan PC,携帯端末&クライアントソリューション シニアマーケットアナリスト

国内PC市場、主要ベンダー製品別動向、World Wide PC Trackerなどを担当。国内PC家庭市場、ビジネス市場の分析及びレポートの他、Top 10 Predictionsの執筆メンバー。様々なマルチクライアント調査、カスタム調査も実施。


急拡大したテレワーク、働き方改革の推進で2025年まで堅調

 2020年初頭から世界的な広がりを見せている新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の影響で、企業における働き方は大きく様変わりした。政府、自治体からの外出制限(緊急事態宣言)が発出される中で、要請や国家及び自治体による補助金の影響も手伝って、2020年には多くの企業がテレワーク環境への移行を進めた。

 IDCによるアンケート調査を基にした推計を見ると、テレワークを実施した企業数は2019年の62万社から2020年には161万社にまで拡大し、テレワーク実施率については2020年で42.6%(2019年は16.3%)にまで広がった。2019年以前から「働き方改革」が叫ばれていたこともあり、2017年ごろからテレワーク実施率は微増傾向にあったが、COVID-19の影響により2020年には大きく躍進する結果となった。

2019から2025年までの国内テレワーク市場 テレワーク導入企業数予測(出典:IDCの調査資料)

 IDCは、2021年のテレワーク実施率は2020年に比べて1.0%ほど低くなると見ており、2022年はワクチン接種が進んでCOVID-19が収束すると仮定した上で、テレワークを実施する企業は全体の38.1%になると予測する。

 調査では、COVID-19収束後には従業員規模1000人未満の中堅中小企業の10.5%、大企業の7.7%の企業がテレワークを廃止する見込みであり、テレワークを縮小すると回答した企業は、中堅中小企業で41.1%、大企業で42.9%に達した。

 現在テレワークを実施している企業の約半数は、COVID-19収束後にはテレワークの縮小を考えていると回答していることからも、2022年におけるテレワーク導入企業およびテレワーカーは、いったん減少すると予測する。前述した通り、2022年にCOVID-19が収束したという前提での回答であり、2021年9月の感染状況から判断すれば、おそらく2022年は微減程度でほぼ横ばいの実施状況になると見ている。

 2025年までの状況については、継続的な働き方改革の取り組みによってテレワークの実施はある程度は続く見込みで、多様化する働き方に対応できる環境づくりは、今後企業が生き残っていくためには必要不可欠だ。一度テレワークを経験した企業は、生産性を維持または向上させるためのインフラ整備の勘所やマネジメント手法もある程度つかんだだろう。

 また、テレワークによってオフィスを借り受けるための家賃や出張旅費などの経費が大幅に削減できた企業もあり、そうしたメリットが得られると考える企業は、引き続きテレワークを推進していくだろう。

テレワークでの3つの働き方

 テレワークの形態は幾つかのパターンがあり、それぞれを組み合わせながら運用している企業も多いはずだ。

 自宅で作業する「在宅型」、特定の施設で業務を進める「施設利用型」、そしてWi-Fiルーターなどを持ち歩いて図書館やカフェで仕事をする「モバイルワーク型」の3つだ。これが一般的な形態となっている。

 現在は在宅型を選択するテレワーカーが多いが、施設利用型テレワーカーの方が今後の伸びしろは高いだろう。施設利用型は、コワーキングスペースや自社の別拠点などで働く形態だ。特にコワーキングスペースを提供する事業者の参入が相次いでいることからも、市場が今後伸びる可能性は十分に考えられる。最近では、JRや私鉄などの鉄道事業者をはじめ、不動産事業者やカラオケボックスなどのアミューズメント事業者などが参入しており、需要の高まりを受けて市場が活性化している。なお、自社の別拠点でのテレワークとは、例えば、都心に通勤していた従業員が、自宅近くの拠点で働くといったイメージだ。

なぜ「テレワークを縮小したい」と考えるのか

 今回の調査では、将来的にテレワークを縮小すると回答した企業も少なくない。

 背景にあるのは、テレワークのデメリットだ。テレワークが人流の抑制に大きく貢献したものの、オフィスと自宅など業務環境の違いから、従業員間のコミュニケーションが取りにくくなるなどのデメリットを実感しているケースなどが多く見受けられる。

 Web会議システムなどのコミュニケーションツールが多くの企業で導入されているが、業務に必要な全てのコミュニケーションがデジタルツールだけで完結できないケースもあり、オフィス回帰が望まれるのも当然だろう。

 数年前に従業員間のコミュニケーション不足が課題となり、テレワークを推進しない決断をした海外企業もあったほどだ。この企業は、仕事以外のコミュニケーションがアイデアや最終的なプロダクトを生み出す重要なファクターだと判断したためだ。テレワークを縮小すると考えている企業の中には、「Face to Face」のコミュニケーションを重視する企業もある。

 また、時間をかけてテレワーク環境を整備してきた大企業と違い、急ごしらえでテレワーク環境を整備した中堅中小企業は、テレワークインフラの整備が間に合っておらず、その結果として働きづらさにつながったケースも少なくない。

 本来であれば、社内の情報を社外でも安全に取り扱える仕組みや、社内システムへのアクセスに必要なネットワーク環境を整備することで、従業員の生産性を高めることも十分に可能だ。

 しかし、短期間での環境整備によって「テレワークは効率が悪い」と勘違いしてしまい、結果としてテレワークを縮小すると判断する企業もある。もちろん、経費書類や請求書などを出社せずに処理できるようなデジタル化が進んでいない企業もあり、そうした面の環境整備が十分でなければテレワークの継続が難しいケースも出てくるだろう。

 一方で、テレワークを中心とした働き方への転換を進める企業では、オフィスを縮小、統廃合したり、家賃の下がった都心部にオフィスを移転するといった動きも出てきている。テレワークの実施と関連して、物理的なオフィス環境の変化も注視したいところだ。

テレワークの促進要因と阻害要因

 今後のテレワークの促進要因として、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が考えられる。ペーパーレス化が進むことも、テレワークの促進要因として考えられるところだ。

 また、2020年は国や自治体などが主体となってテレワークに関する補助金や助成金の制度を整えたことで、多くの企業がテレワークに取り組みやすい環境となった。厚生労働省による「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」や中小企業庁などで予算化した「IT導入補助金」、内閣府が進める「地方創生テレワーク交付金」などがあり、この他にもまだテレワーク関連の補助金制度がある。こうした制度の拡充もテレワークの促進要因になるだろう。

 一方で、テレワークの阻害要因として考えられるのが、情報セキュリティに起因するリスクだ。従来はオフィスに閉じた環境で情報が扱われてきたが、社内の情報をUBSに保存して自宅のPCで作業するといったことが可能になると、情報漏えいにつながる得る。

 そもそも企業におけるセキュリティ対策の根本は、従業員が持つセキュリティリテラシーが大部分を占める。だからこそ、セキュリティ意識の啓蒙(けいもう)活動も含めてどれだけ意識改革ができるかどうかが、テレワーク環境を維持できるかどうかの重要な要素になってくるはずだ。もちろん、デスクトップ仮想化などのテクノロジーを駆使するなど、セキュリティやガバナンス強化に役立つ技術がどれだけ安価で導入できるかどうかも、中堅中小企業のテレワークに必要な要素だ。

 また労務管理の面も、テレワーク推進の阻害要因になる可能性はある。

 従来はオフィスの入退社時にタイムカードによって労働時間が記録可能だが、オンラインとなると労働時間を正確に把握することが難しく、オフライン時に業務を続けてしまうことで“シャドー残業”が横行するケースも考えられる。従業員の健康管理を管轄する人事総務部はテレワークの弊害と捉え、テレワーク継続の是非につながる可能性もある。

知っておきたいテレワーク推進の勘所

 今後本格的にテレワークを進める企業においては、まずはきちんと業務の切り分けを実施し、テレワークに向き不向きな業務を整理しておくことが重要だ。これはテレワークを推進するかどうかに関わらずやるべきことではあるが、テレワークに向く業務かどうかの見極めだけではなく、自動化できる業務かどうかといった視点も踏まえて、業務の仕分けを実施したい。

 緊急事態が今後発生した場合でもテレワークに切り替えやすく、業務の仕分けによって最適な対処方法が明確になってくる。いずれにせよ、業務の仕分けとともに、業務のロードマップをしっかり作成しておきたい。

 すでにテレワークを実施済みの企業においては、現状課題となっている部分をあらためて見直す必要がある。その結果、テレワークを縮小もしくは廃止するのであれば、原因がどこにあるのかを見極めておきたい。

 例えばテレワークによって生産性が低下するのであれば、テレワークをやめるのではなく、その原因として考えられるネットワーク遅延や不十分なシステム連携などを解消することで、生産性の向上につながる可能性は十分あり得る。テレワークそのものが向かない企業ももちろんあるが、テレワークが悪いと決めつけるのではなく、社内の制度や風土、環境などに目を向けた上で、テレワークの是非を考えていくべきだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

会員登録(無料)

製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。