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「投資対効果」ではない DXに効く自動化対象業務の選び方

RPA(Robotic Process Automation)を適用する業務を選ぶ際に「投資対効果が高い大規模な業務を選定すべき」というのが定説だが、DXを見据えて自動化プロジェクトを推進するならば別の視点が必要だ。

» 2022年02月14日 10時00分 公開
[元廣妙子キーマンズネット]

 2020年に幻滅期の底を脱して普及期に移行したとされるRPA。RPAを導入済みの企業の中には、既にAI(人工知能)などのテクノロジーと組み合わせて部門横断の業務を自動化し、既存のビジネスモデルの変革に成功している企業が存在する。一方でRPA導入のプロジェクトが頓挫してしまう例も珍しくない。RPAの運用を軌道に乗せ、DXを成功させている企業とそうでない企業の違いとして、「自動化対象業務の選び方」がある。「投資対効果が高い大規模な業務を選定すべき」というのが定説だが、DXを見据えて自動化プロジェクトを推進するならば別の視点が必要だ。

 2022年1月25日に開催されたRPA総研主催のイベント「オンラインイベントリレー 2022 WINTER」に日立ソリューションズのエバンジェリスト松本匡孝氏が登壇し、業務選定の新たな常識を語った。

日本のDXが失敗する理由

 DX先進国であるアメリカと日本は、システム導入やIT投資について決定的な違いがある。

 日本はスクラッチ開発をしたり、パッケージ製品のカスタマイズをしたりして、業務にシステムを合わせる傾向がある。部門ごとにシステムを導入した結果、社内に多種多様なシステムが散在しがちだ。現場が強く、部門内や個人の業務を自動化すべきという考え方が根強い。バックオフィスの現場でExcelマクロが多用されているのがそのよい例だ。

 アメリカはパッケージ製品をそのまま利用し、システムに業務を合わせることが通常だ。全社規模で業務を標準化し、システムを全社導入する傾向にある。自動化プロジェクトをトップダウンで実施し、全社業務を部門横断で改革する。クラウドサービスやAI(人工知能)、iPaaSなどの新しいテクノロジーの導入にも積極的だ。

 特に重要なのが投資への考え方の違いだ。IT予算はアメリカ・日本共に増加傾向にあるが、用途は異なる。アメリカは、「ITによる顧客行動・市場の分析強化」や「市場や顧客の変化への迅速な対応」といった受注拡大を目的とした投資に重きを置いている。日本は、「働き方改革の実践」や「ITによる業務効率化」といったコスト削減を目的とした投資を重視する傾向にある。

 松本氏は、「アメリカがITを企業戦略と捉えているのに対し、日本はコスト削減の手段と捉えています。そのため日本ではITに対する大規模な投資が難しく、小規模な投資にとどまりがちです」と語る。

いま一度見直したい自動化対象業務の選定

 松本氏によれば、ITに対する捉え方が日本のDXを停滞させているという。ITを企業戦略として捉え直す必要がある。同氏は、DX推進につながるRPA活用という視点から、自動化の対象業務を以下の3つにすべきだと指摘した。

 1つ目は、目的を達成する、あるいは課題を解決することで経営にインパクトを与え、業績に直結すると考えられる業務だ。2つ目は、システム開発の必要なく、RPAやAI-OCRなどのテクノロジーだけで迅速に自動化できる業務。そして3つ目が、実現することで社会的課題を解決できる業務だ。社会貢献ができることで、従業員が自動化に取り組むモチベーションが高まる。本業に関わる業務であれば業績にも直結するため、結果が自分たちの報酬となって返ってくる可能性もある。

RPAによるDX推進事例

 松本氏は、RPAによるDX推進事例を紹介した。ある物流会社は、新型コロナウイルスの影響によって物流量が飛躍的に増加し、慢性的なドライバー不足に悩んでいた。雇用促進対策として給与の即日払いを実施した結果、全国で約3万人分の即日給与支払いに関する事務処理が必要になり、残業及び休日出勤が横行した。RPAを使って一連の業務を自動化した結果、データ登録時のミスがなくなり、月当たり最大で約100時間分の人件費を削減した。即日支払いによってドライバー不足も解消し、物流量を大幅に増加できたという。RPAは単なるコスト削減のための手段ではない。

 住宅ローン会社の事例もある。住宅ローンの申し込み手続き処理には膨大な時間と手間がかかり、マーケティングや営業活動などの業務を逼迫(ひっぱく)しがちだ。そこで、住宅ローン申込書の記載内容をチェックし、審査システムに転記入力する業務をAI-OCRとRPAで自動化した。その結果、各店舗で約1時間をかけていたシステム処理を10分で完了できるようになっただけでなく、人手を増やすことなく約2倍のローン申し込み手続きを実施できるようになった。

 あらかじめ住宅ローン申込書と審査に必要な証明書一式をPDF化し、AI-OCRを用いて文字データをCSV化している点がポイントだ。申し込み用紙の記入が最低限で済み、書類作成の省力化と審査期間の短縮が実現した。顧客の満足度も大幅にアップし、業界トップのシェアを誇るようになったという。

ITの位置付けがDXの成否を分ける

 DX成功の手掛かりとなるRPAだが、導入面や運用面での課題は多い。RPA導入前には「RPA製品の選定が難しい」、導入後は「ロボットが停止する」「ロボット開発スキルの不足」「ロボットの管理・運用が煩雑」「自動化対象業務が増えない」などの課題がある。評価の面では「導入効果(ROI)が分からない」、テレワークの実施に関しては「テレワーク環境への対応」などの課題が挙げられる。

 松本氏はこれらの課題のうち、導入後の4つの課題をAutomation Anywhereの「Automation 360」や「IQ Bot」の他、日立ソリューションズの「RPA業務支援BPOサービス」や「RPA運用支援クラウドサービス」などで解決する方法を示した。

 DX推進につながるRPAの活用には、導入面や運用面での課題克服が必須だ。ITをコスト削減のための手段として捉えていると、課題克服のための時間や労力が割に合わないと感じるかもしれない。しかしITを企業が成長していくための手段として捉えれば、課題の克服は企業にとって必要な投資になる。ITを企業戦略の一つとして位置付けられるかどうかが、DXの成否を分けるポイントと言えそうだ。

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