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Microsoft 365の投資効果の高め方 カギは「つまみ食い文化」と「スポンサーシップ」

Microsoft 365の導入企業で起こりがちな「積極的に使いたい社員 vs. 制限したいIT部門」の論争。これを解決しなければ、いつまでたっても投資に見合った効果は得られないだろう。

» 2023年04月11日 07時00分 公開
[太田浩史内田洋行]

 「どうやらウチの会社ではその機能は使えないみたい……」

 企業の担当者さんから「Microsoft 365」活用について相談される時によく聞く声です。ここ何年かで、IT部門以外の従業員がMicrosoft 365ツールへの関心度が高まり、活用法をご相談いただく機会が増えました。当然ながら、働き方変革やDX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈でITは切っても切り離せないものであり、Microsoft 365もその一つです。

 ですが、IT部門の担当者さんは「うちの従業員にはあまり多くのサービスは使わせたくない。できるだけ利用範囲を『Microsoft SharePoint』や『Microsoft Teams』(以下、Teams)に絞りたい」と言われるのです。理由としては、従業員のITリテラシーに不安があったり、サポート人材や知識が足りなかったりなどが挙げられます。

 第3回となる本稿では、こうした「Microsoft 365」の利用を限定すべきかどうかという議論に対して筆者の個人的な見解をまとめ、活用の促進とガバナンスを両立させる方法を紹介します。

機能やサービスの“つまみ食い”を前提とした現在のMicrosoft 365

 そもそも、Microsoft 365のアプリやサービスの数がこれほどまで増えた背景には「集約型」から「分散型」へと切り替えたMicrosoftの方針転換があります。

 現Microsoft 365は「Microsoft Business Productivity Online Suite」(BPOS)という名称で2009年に一般提供が始まり、リリース当時に提供されていたのは「Microsoft Exchange Online」と「Microsoft SharePoint Online」「Microsoft Office Communications Online」(後の「Skype for Business」)の3つのサービスだけでした。そして、社内ポータルやファイル共有、チーム作業、タスク管理、Wiki、ブログ、アンケート、BI(Business Intelligence)、ソーシャルネットワーキングなど、多くの機能がSharePointに集約されていきました。しかし、Microsoftは2013年頃から1つのサービスに多くの機能を詰め込むのではなく、機能ごとに個別のサービスを提供する方針に転換しました。

 Microsoft 365に含まれるサービスの数は、全てを把握しきれないほど増え続けました。SharePointに実装されていたソーシャルネットワーク機能は「Microsoft Yammer」に、アンケート機能は「Microsoft Forms」、BIは「Microsoft Power BI」、チーム作業はMicrosoft Teams、タスク管理は「Microsoft Planner」と、多くの機能が分散されるようになりました。その結果、機能を組み合わせたり、応用しやすくなったり、一部の機能を途中で使うのをやめたりなど、利用面での柔軟性が高まりました。

 現在のMicrosoft 365はさまざまなクラウドサービスの集合体であり、提供されるサービスや機能を“つまみ食い”することで利用メリットを得られるものになっています。どれか一つを使えば全てが実現できるというサービスではなくなったのです。

Microsoft 365の歴史(出典:太田浩史氏作成の資料)

 そこで、ユーザーに大きな問題が生じます。クラウドサービスの集合体であるMicrosoft 365の全てのサービスや機能、使い方を把握するのは非常に難しくなりました。複数のサービスや機能を組み合わせて利用するのは、面倒で分かりづらいというマイナスの側面もあります。

 そこで2017年に登場したのがTeamsです。タブやアプリなどの機能を使ってTeamsをインタフェースとして、Microsoft 365で提供されるさまざまなサービスにアクセスできるようになりました。ユーザーはTeamsによって、より多くのことが実現可能になりました。しかし、それはMicrosoft 365で提供されるそれぞれのサービスを利用しやすくしただけであり、「Teamsだけを使えばいい」というわけではありません。やはりユーザーはMicrosoft 365のさまざまなサービスや機能、使い方を把握する必要があります。

M365「つまみ食い文化」定着に不可欠なスポンサーシップと責任

 Microsoft 365の利用メリットを最大化するには、“つまみ食い”の考え方が必要なのです。多くの機能やサービスを組織全体で使いこなすには、従業員同士で教え合う組織文化や環境づくりが非常に重要です。たとえその機能の使い方を知らなくても、他の人に教えてもらう機会があれば大きな助けになります。そうした従業員サポートを担うコミュニティーを持つ企業も増えています。Yammerを活用して情報を共有したり、従業員の相談にのったり、実際に集まって話し合ったりすることもあります。IT部門のメンバーも有識者として参加し、利用部門と一体になって悩んだり機能を試したりするなどしています。より詳しい社外パートナーにも頼ってアドバイスを受け、他社での利用例などを教えてもらうのも効果的でしょう。

知の共有の仕組みづくり(出典:太田浩史氏作成の資料)

 このようなコミュニティー活動が成功している企業の多くには、ある共通点があります。それは、社長や役員などの強力なスポンサーシップがあることです。Microsoft 365活用の目的は仕事の効率化ではあるものの、それ自体が本来の仕事ではありません。興味ややる気があっても、普段の仕事に多くの時間と労力を割いてしまうのは仕方のないことです。組織のスポンサーシップがあることで、活動への上司の理解を助け、従業員の業務目標や評価指標とするのを後押しします。業務の目標は、月や四半期、半期ごとと短期スパンで設定されるものが多く、学習やスキル習得といった長期にわたる活動は評価されにくい傾向にあります。間接的ではあるものの、組織に貢献するコミュニティー活動が目標、成果として認められれば、上司と従業員の双方が業務目標の一つとして考えやすくなるでしょう。

 IT部門は、「何か問題が起きた時の尻拭いが自分に回ってくるのではないか」という不安を抱きがちです。操作がよく分からない、誤操作でおかしくなった、間違って消してしまったなど、従業員からの問い合わせでIT部門の業務が圧迫されてしまうことも不安要素の一つでしょう。ですが、コミュニティーが手助けをして、従業員同士で相談し合えば解決できることも多くあります。また、よくある質問をFAQとして整理しておくのも効果的です。そして何より、IT部門と利用部門との間で責任をきちんと決めておくことが大切です。利用部門にとっても、できることはできるだけ自分で行うとすることで、現場の自由度が高まるはずです。

IT部門が担うべきはM365のお守りではなく情報やデータの保護

 Microsoft 365で共有される情報やデータの保護はIT部門の責任範囲です。「Microsoft 365 E3」やE5など、上位のプランになればなるほどセキュリティやコンプライアンス機能は強固になりますが、IT部門にとってはそれらの管理周りの機能を把握するだけでも大変なことです。セキュリティに関する専門的な知識も必要ですから、自社だけで対応できない場合は社外のパートナーに相談するのも一つの手でしょう。また、ポリシーを決めた後の運用を引き受けてくれるベンダーも増えています。人手が足りない場合は、一部をアウトソースすることを検討してもいいかもしれません。

社内データの統制と保護(出典:太田浩史氏作成の資料)

 使える機能が制限されることに不平を抱く従業員と、利用できる機能を広く開放することで問い合わせ対応が増えるのではと懸念するIT部門。両者には、それぞれの主張や考えがあります。しかし、確実に言えることは、使える機能を制限するとその分得られるメリットも限られるということです。Microsoft 365の効果を最大化するには、むやみに利用を制限するのではなく、ユーザー同士で相談し合えるコミュニティーを作るなど、運用の工夫が必要です。そして、コミュニティーを最大限生かすには、代表や役員など組織のスポンサーシップが欠かせません。

 こうして従業員同士で学び合いながら自発的に利用を促すとともに、利用に伴う責任も理解してもらうことです。こうしてIT部門の負担を軽減することで、IT部門が本来担うべきセキュリティやコンプライアンス、データ保護など、重要な役割に時間と手間がかけられるようになるのです。

著者プロフィール:太田浩史(内田洋行 ネットワークビジネス推進事業部)

2010年に内田洋行でMicrosoft 365(当時はBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Microsoft 365の導入から活用を支援し、Microsoft 365の魅力に憑りつかれる。自称Microsoft 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。


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