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村田製作所が模造紙と付箋からの脱却 デジタル化推進の秘策とは?

村田製作所では、ブレストや思考整理の手段として模造紙や付箋を使った共同作業を全社的に実施していたが、テレワークの導入を機にそのプロセスの見直しが必要となった。テレワークにマッチした新しい手段として “あるツール”を導入したところ、業務のデジタル化が一気に進んだという。

» 2023年07月28日 08時00分 公開
[平 行男合同会社スクライブ]

 コンデンサーをはじめとする電子部品メーカーとして知られる村田製作所。素材から製品までの一貫生産体制を強みとして、電子部品を構成する素材の開発や事業化にも力を入れている。

 同社では、ブレストなどの共同作業や個人の思考整理に模造紙と付箋を使っていたがテレワークの導入によって、従業員が同じ場所に集まる機会が減ったことで、この作業の方法を見直す必要が出てきたという。

 共同作業のためのコラボレーションツールは数多く存在するが、模造紙の自由度や大手企業ならではのセキュリティを兼ね備える代替手段を探すことは容易ではなかった。しかし、最終的に“あるツール”を導入することで、一部のチームが模造紙と付箋の文化を手放し、業務のオンライン化が大きく進むことになった。

 どのような試行錯誤や意思決定があったのか。ツール導入を指揮した村田製作所の岡村 一太朗氏(技術・事業開発本部 マテリアル技術センター 材料プロセス開発部)に経緯を聞いた。

模造紙と付箋を使ったブレスト文化が転換期を迎える

村田製作所 岡村 一太朗氏

 村田製作所では、チームでコミュニケーションを取りながら課題を明確化する“課題ばらし”という作業を日常的に実施している。この課題ばらしは、同社内の多くの部署で、期末や期初、開発テーマの立ち上がりといった節目などに実施する共同作業だ。取り組み内容によっては週次レベルでタイムリーにPDCAを回すために課題ばらしを行うこともある。同社では従来、この課題ばらしに、A0サイズの模造紙と付箋を使ってきた。

 まず、各チームメンバーが思い付いたアイデアや課題を付箋に書き込み、模造紙に貼る。模造紙の上で付箋を移動させながら、課題を整理したりグルーピングをしたりする。課題に対する施策も同じように付箋に書いて整理する。最終的にはそれらをスケジュールも含めて計画に落としこみ、取り組み内容と結果を可視化して進捗を管理する場合もある。

 「新素材の開発や事業化を担当する私のチームは、近年、透明でビニールのように柔軟でありながら伝導性を兼備する新素材『電気を通す透明膜』の事業化に力を入れています。そのアイデア出しなどにも模造紙を利用しています」

 模造紙や付箋は、課題ばらしだけでなく個人の思考整理や開発案件のスケジュール作成など、さまざまな場面で活用される。まさに、村田製作所の文化として定着していたツールといえるが、その文化はコロナ禍で大きな転換点を迎えた。

 「テレワークが増え、それまで社内で模造紙と付箋を使って実施していたような作業が難しくなりました。特に、ブレストなどの共同作業については、チームのメンバーが一箇所に集まることが少なくなったことで、模造紙に代わる手段を探す必要が出てきたのです」(岡村氏)

 模造紙と付箋で実現していた作業をテレワークでもできるようにするにはどうすればよいのか。岡村氏は早速調査に乗り出したが、模造紙の自由度や、村田製作所の求めるセキュリティレベルを備えたツールを見つけることは簡単ではなかった。

模造紙を用いた課題ばらしの方法(提供:村田製作所)

2カ月間かけてツールの調査を実施、最終的な決め手は?

 同氏はまず、PCに標準機能として入っていたオンラインホワイトボードに注目した。しかし、多人数が同時接続すると画面が落ちたり、起動が遅かったりといった問題が発生した。そこで、機能も豊富で安定性の高いオンラインホワイトボードの導入を進めようとしたが、今度は情報システム部門から待ったがかかった。IPアドレスごとにアクセス制限できる機能がなく、社内のセキュリティポリシーに引っかかったためだ。

 そこで、あらためて自社に合うオンラインホワイトボード探しがはじまった。岡村氏は数社のツールを自ら試用し、比較した結果をまとめて上長とシステム課へ提案。今度は無事に申請が通り、グッドパッチが開発、運用を手掛ける「Strap」を導入することが決まった。こうした製品選定の作業は通常業務と並行して実施していたため、調査を含めて約2カ月の時間がかかったと岡村氏は苦労を振り返る。

 最終的にStrapを採用した理由は、安全性や機能性、操作性、そして価格の視点で最もバランスが優れていると評価したためだ。

 「Strapは、IPアドレスによるアクセス制限や監査ログ保存など、当社の求める安全性の要件を満たしていました。また、当社がよく使う振り返りツールであるKPT(Keep・Problem・Try)のフレームワークがテンプレートとして入っていたので、機能性も“良し”としました」(岡村氏)

 岡村氏が特に注目したのは操作性だ。比較したツールはどれも直感的に操作できるものだったが、じっくり使ってみると違いが見えてくる。

 例えば、付箋に入力している文字数が増えた時に、付箋のサイズが大きく変わってしまったり、文字サイズがバラバラになってしまったりして可読性が落ちるツールもあるが、Strapは付箋と文字サイズを均一のまま収められる。また、ボードの広さにも制限がなく、気兼ねなくアイテムを追加できる。そうした細々とした違いから“使いやすさ”を感じると岡村氏は話す。

 「当社ではオンラインホワイトボードを複雑な方法で使用することはあまりありません。付箋に文字を書いてボードに貼って、それを構造化するといった基本的な操作をスムーズにできるかどうかは重要なポイントでした。Strapは細かい部分の操作性にもこだわりが感じられて、ストレスなく利用できます」

Strap導入時に、複数社のオンラインホワイトボード製品を比較した表(提供:村田製作所)

模造紙のアナログの限界を超えて、思考の整理を効率化

 村田製作所ではまず30人分のアカウントを購入し、主に岡村氏のチームで利用しはじめた。このうち20アカウントは、Strapを日常的に使いたいチームメンバーに付与して、残りの10アカウントは、共同作業に参加する頻度が低いメンバーに割り当てられる利用枠とした。

 Strap導入後、岡村氏のチームでは模造紙を使う機会がほぼゼロになり、模造紙と付箋で実施していた作業をオンライン化するという当初の目的を達成できた。その他にもさまざまな副次的効果を感じているという。

 まず岡村氏が感じたのが、模造紙の保管の手間を減らせるというメリットだ。村田製作所のメンバーがよく利用しているA0サイズの模造紙は約84センチ×約120センチの大きさで、四つ折りにしてもA4用紙4枚分の面積を取る。この模造紙を畳んで保管するにはそれなりのスペースが必要だ。メンバーの引き出しには直近で利用する模造氏が10〜20枚程度入っている他、過去に作業した模造紙は別の場所に保管している。これらは機密情報に当たるため、破棄する場合は専門の業者に依頼する必要もある。

 今回、Strapによって模造紙での作業をオンラインに移行したことで、長期的には保管場所の削減や保管工数の低減につながると岡村氏はみている。

 その他、デジタルならではの「データへのアクセスのしやすさ」「複製のしやすさ」も気に入っているという。模造紙と付箋を利用していた時は、紙に書いた内容を後から活用するために、写真を撮って画像データとして保管したり、Excelなどに手打ちで入力したりする必要があったが、Strapであればそうした手間なしにすぐに情報にアクセスできる。ブレスト時に「同じ内容の付箋をあちこちに移動させたい」場面でも、オンラインホワイトボードであれば各要素を簡単に複製できるので、効率的に思考を整理できるようになったと岡村氏は話す。

「Strapを使えば、書き込んだ付箋をいったん構造化した後、それをコピペして別の形で構造化するといった試行錯誤も簡単にできます。思考の過程を残せることはデジタルツールのメリットです」

Strapを用いた構造化事例(提供:村田製作所)

 さらにStrapならではの機能がコラボレーションに役立つ場面も多いという。

 「オンラインホワイトボードを複数メンバーで見ている時に、“追いかけ機能”を使って、あるポイントにメンバーの視線を集めることができます。ホワイトボードに多くの要素が入力されていたとしても、“私は今ここの話をしていますよ”と呼びかけができるので、とても重宝しています。これは、Strapの開発元であるグッドパッチに要望として伝えていたところ、他社からの要望も多かったようで機能として追加されました。非常に便利に使っています」

 岡村氏のチームでは、生成されたホワイトボードの内容をメンバーが自由に閲覧できるようにしている。ワークスペース内のホワイトボードをクリックすれば、議論の過程をすぐに確認できるので、模造紙を使っていた際には得られなかった気付きもあるという。

 「Strapによって議論の場にいなかったメンバーにも思考の過程や結果を共有しやすくなりました。他にも、メンバーが個人の思考の整理のために利用したホワイトボードをのぞき見ることで、何らかのヒントを得ることもあるかもしれません」

 村田製作所では、岡村氏のチームでのStrap活用が話題を呼び、他の部署でも次々に「自分も使いたい」と希望する声が挙がった。これを受けて、現在はアカウントを追加し、50のアカウントを運用している。今後も、場の要望に応じて適用範囲を拡大する考えだ。

 「社内ユーザーが増えたので、より柔軟かつセキュアな管理ができるような機能や権限を拡充してほしいとグッドパッチさんにフィードバックとしてお伝えしています。今後、より幅広い部署への導入につながると考えているので、期待しています。模造紙の利点も理解していますが、Strapがさまざまな面で便利なことは間違いありません。今の働き方に模造紙と付箋が合っていないと感じている従業員がいれば、ぜひ使ってもらいたいです」(岡村氏)

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