従業員の生産性向上や情報漏えい対策などのために従業員監視ソリューションを導入する企業がある。どの程度の企業が導入しているのだろうか。監視される側はどのように感じているのだろうか。
テレワークや在宅勤務の普及とともに、生産性の向上や労務管理、情報漏えい対策などの観点から従業員監視に踏み切る企業が増えている。その一方で、導入目的とは裏腹に監視される側に不満が生じて生産性の低下やプライバシー問題に発展するケースもある。
そこでキーマンズネットの「内部不正と従業員監視に関する読者調査」(実施期間:2023年8月31日〜9月14日、回答件数:218件)の結果を基に、後編では、企業における従業員監視の実態を探る。
はじめに、従業員監視ソリューションの導入状況を調べたところ「導入済み」は15.1%で「導入予定」(4.6%)を合わせると、全体の2割が導入に前向きな姿勢を見せる(図1)。
「導入する予定はない」とした割合は37.2%にとどまり、かえって逆効果となる恐れもあるためか、約半数は「分からない」との回答だった。従業員規模別で特徴的だったのは1001人以上の企業だ。導入済みと導入予定の割合が約3割であったのに対して「分からない」が50.5%と過半数を占めた。従業員の多さから監視ニーズは一定ありつつも、現状導入判断を決めかねている様子見企業も少なくないのだろう。
従業員監視ソリューションによる監視対象は「全従業員」が約8割と大多数で、次いで「特定の部門の従業員」(12.1%)、「テレワーク中の従業員」(9.1%)だった(図2)。
国土交通省が2023年3月に公表した「令和4年度 テレワーク人口実態調査」*1によると、2022年度の雇用型就業者に占めるテレワーカーの割合は全国で26.1%だった。2021年度から0.9ポイント減少しているものの、首都圏においては2021年度と同様の約4割の水準を維持しており、テレワークを継続している企業が少ないとはいえない。
*1 テレワーカーの割合は、昨年度からわずかに減少もほぼ同水準を維持! 〜令和4年度のテレワーク人口実態調査結果を公表します〜
オフィス出社とテレワークを柔軟に選択しながら働くハイブリッドワークを採用する企業もあり、監視対象をテレワーク中の従業員のみとするのではなく、全従業員にせざるを得ない背景があるのかもしれない。
続いて、導入済みの従業員監視ソリューションの満足度を調査したところ「満足している」(27.3%)と「どちらかと言えば満足している」(45.5%)を合わせ72.8%と、高い結果が得られた(図3)。
「満足した」と回答した人に対してその理由をフリーコメントで聞いたところ「マルウェア感染経路が特定しやすい」や「不正予防効果」「紛失時の迅速な対応」など情報漏えい対策に効果的だという声が目立った。
他にも「業務実績が実態通り申告される」ことで、労務管理や人事評価に生かすことができたり、パフォーマンスの改善につなげられたりするなど、生産性の向上に役立っているという意見があった。
一方、従業員監視ソリューションに対して不満に感じるポイントをフリーコメント形式で尋ねたところ、3種類の意見にまとまった。
1つ目は「プライバシーの侵害」に関するコメントだ。情報漏えい対策の一環として、ファイル操作状況やWebサイト閲覧履歴などのログを収集する企業もある。これらのログにはプライバシー性を有する情報が含まれているため、従業員への配慮が重要になる。就業規則などの社内規程で、貸与デバイスのログを収集する目的や範囲を規定したり、定期的な周知を促進したりすることが対応策になるだろう。
2つ目は「信頼されていないと感じる」や「単に不快に感じる」のような、管理者との信頼関係を悪化させてしまう懸念だ。テレワーク中の離席管理や常時カメラをオンにすることを義務付けるなど、過度に監視することで従業員にストレスを与えてしまい、生産性の低下を誘発してしまうケースも耳にする。また監視にリソースを割き過ぎて管理者自身の生産性が低下する恐れもある。信頼関係の構築や監視リソースのバランスも考慮した上で、監視体制を構築することが肝要だ。
3つ目は「PCの動作が遅くなる」といったPCの性能低下に関する声だ。環境によってはログ収集や監視時に一定リソースを取られることで、会議中の画質や音質が悪くなったり、基本機能に一時的にアクセスできなくなったりするなど業務に支障を来すケースがあるようだ。
以上、企業における従業員監視ソリューションの導入状況について調査結果を紹介した。生産性の向上や情報漏えい対策につながることで満足度の高いソリューションだという一方で、監視される側からは不満も少なくないのが実情だ。特に管理者と従業員の信頼関係に影響し、従業員のモチベーション低下を誘発することで被る生産性低下は大きな組織課題となり得る。従業員監視を取り巻く今後の動向に注目したい。
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