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ERP導入では約半数が予算オーバーする 9つの“見落としがちなコスト”

ERP導入においては見落としがちなコストが複数あり、約半数の企業が予算をオーバーするという調査結果がある。本記事では、よくある“目に見えないコスト”を9個紹介する。

» 2024年01月31日 12時00分 公開
[Mary K. PrattTechTarget]

 ERPはほぼ全ての企業でITスタックの基盤であるため、レガシーシステムをクラウドERPなどに移行するニーズが高いことに不思議はない。

 一方で、多くのCIO(最高情報責任者)はERPプロジェクトの設計から導入、運用まで進めるに当たり、想定外のコストに見舞われていると指摘する専門家もいる。

 想定外のコストになるのは、ERP導入プロジェクトに伴う作業を過小評価していたり見落としたりしていることに原因がある。米国の調査会社Panorama Consulting Groupが公開した調査報告「2023 ERP Report」では、47%の企業でERPの導入コストが予算を超過したことが明らかにされている。

ERP実装のコストが高額になる理由

 同社のレポートによると、回答した企業183社のERP導入コストの中央値は62万5000ドル(約9200万円)、年間収益の中央値は15億ドル(約2200億円)だったという。

 この高額なコストはERPの複雑さを反映している。

 ERPは企業のほぼ全ての業務プロセスをサポートするため、ITスタックの中でも特に複雑なソフトウェアの1つだ。ERPには会計や財務、人事、顧客関係、調達、サプライチェーンなどの機能がモジュールとして備わっている。ERPは業務プロセスの効率化や自動化をするのが一般的だ。

 しかし、企業の全事業部門とそのプロセスを単一のシステムにまとめるには、ERPを他のシステムに接続し、データをシームレスに移動できるようにするといった多くの作業が発生する。

 実際、新たにERPを稼働させるのにかかるコストの大半を占めるのはその技術の料金ではない。むしろ、自社のニーズの把握や接続するシステムのマッピング、データの処理、従業員へのトレーニングに必要な作業によって発生するコストの方が大きい。

 「前もって適切な計画を立てなければ、目に見えないコストや予算超過に見舞われる可能性が非常に高い」。そう話すのは、米国のプロフェッショナルサービス企業Withumでクラウドソリューションおよび経営コンサルティングプラクティス担当のシニアマネジャーを務めるウォーリー・マーカス氏だ。

ERP実装の目に見えないコスト

 こうした助言があるにもかかわらず、ERPの実装で予想外の請求を突きつけられる企業は多い。よくある“目に見えないコスト”としてIT部門の責任者が挙げるのは以下の9項目だ。

1.ソフトウェア自体の最終的な価格

 最初に驚かされるコストの一つがライセンス料だ。「実装作業を始める際に、計画に正確さや細かさが足りなかったことを思い知らされる企業は多い」と話すのは、米国のコンサルティング企業Protivitiでマネージングディレクターを務めるジョン・ハリソン氏だ。

 「詳細に計画できていないと、当初は含まれていなかったコストが隠れている可能性がある。そのため、設計が進むにつれて必要なモジュールが増え、瞬く間にソフトウェアのコストが膨れ上がる恐れがある」(ハリソン氏)

2.選定ミスに伴うコスト

 自社のプロセスを正確に把握していないと、ニーズに合わないERPを選択する可能性がある。「間違ったアプリケーションを選ぶ企業は多い」とマーカス氏は語る。ニーズに合っていなくてもプロジェクト全体が駄目になることはないかもしれないが、新しいソフトウェアをニーズに合わせるための追加作業が必要になり、想定外のコストが生じる。

3.システム連携の過小評価や見落とし

 新しいERPに接続する必要があるシステムの数を過小評価することがある。その結果、そうしたシステムの統合を実装するため人件費や技術などの要件に関する新しいコストがかかる。

 ハリソン氏自身もこうしたコストが企業に忍び寄るのを目にしてきたという。同氏は例として、データを新しいERPに大量に送り込んだ結果、ミドルウェアのサブスクリプションコストが増加したことを挙げる。

4.高額になるカスタマイズコスト

 自社独自のワークフローに合わせてERPを調整する場合も想定外のコストに見舞われる。最新のERP製品、特にマルチテナント型のクラウドERPは業界のベストプラクティスを満たすプロセスに対応し、そのプロセスを最適化および自動化して、業務効率を高めている。しかし、業界をリードするプロセスを採用していない、または採用を予定していない企業がこうした新しいERPを導入し、既存のワークフローに合わせてシステムをカスタマイズすると、それに伴うコストに衝撃を受ける可能性がある。

5.カスタムコードの運用コスト

 「導入コンサルティング企業の多くは、顧客からカスタマイズを求められればそれを受け入れる。そのカスタマイズについて顧客に請求するのはコードをカスタマイズするコストだけだ」とマーカス氏は話す。

 その後にカスタムコードの運用コストが発生する。そのカスタムコードを所有し、全ての更新作業やメンテナンスを実行するのはベンダーではなく、購入した企業だ。

 「長期的に見れば、そのようなカスタマイズには高いコストがかかる」(マーカス氏)

6.実際の人件費

 「ERP実装計画に誤りがあり、想定外の人件費が発生する企業は多い」。そう語るのはテクノロジー、マネジメント、デジタルトランスフォーメーションサービスのプロバイダー米ElevatIQでプリンシパルコンサルタントを務めるサム・グプタ氏だ。

 企業の責任者はERPの作業に必要なスキルを過小に見積もり、自社従業員の専門知識を過大評価することが多い。その結果、ERP導入プロジェクトが目標を達成するまでに必要な人材が大幅に不足する。

 責任者は従業員の稼働状況を過小評価することも多く、通常の業務をこなしながらERP導入プロジェクトにも取り組めると考えてしまう。その想定が甘ければ、実装作業を支援する追加要員や、従業員の通常業務を補う穴埋め要員のコストを負担することになる。

7.データの取り扱い

 「ほぼ全てのERP実装プロジェクトにおいて最大のコストになるのがデータ作業に伴うコストだ」と話すのは、米国の戦略的テクノロジーコンサルティング企業Taffet Associatesで経営パートナー兼CIOを務めるグレグ・タフェット氏だ。

 ERP実装を進める際にレガシーERPがデータ管理の妨げになることもあり、自社のデータを適切に取り扱えない企業は多い。さらに、実装前に細心の注意を払ってデータ計画を立てなければ、データのクリーニングや管理、新しいERPへの移行に驚くようなコストがかかるとタフェット氏は説明する。

8.仕事を失いビジネスチャンスを逃す

 企業が直面する目に見えない人件費は、ERP実装作業に移る従業員の穴埋めに伴う予想外のコストだけではない。通常業務から離れるスタッフをカバーする穴埋め従業員の経験不足が原因で、仕事完了までの時間が長くなったり、仕事が手付かず状態で放置されたりするとハリソン氏は指摘する。その結果、生産性のレベルが低下し、ビジネスチャンスを生かす能力にも影響する可能性がある。こうしたコストはどちらもERP導入プロジェクトの目に見えないコストになる。

9.変化への抵抗

 新しいERPシステムは強化というよりも変革に近く、特に古いERPシステムに慣れていた従業員には、新しい働き方が求められるとタフェット氏は語る。

 「実際、従業員の考え方を変える取り組みが必要になる」と同氏は語る。

 だが、そのような変革にどれだけの努力が必要かを事前に察していない企業はあまりにも多い。そのため、トレーニングの予算や職場の変化に必要な時間を過小評価してしまう。

 こうした企業はその計算ミスの代償を払うことになると同氏は述べる。従業員が混乱すれば生産性が落ち、変化にどうにかついていこうとするとトレーニングコストが増える。あるいは従業員がERP移行によって発生する新しいプロセスの導入に抵抗し、回避しようとすることもある。そうなればERPの価値は下がる。

目に見えないコストの発生は予想でき、回避も不可能ではない

 ERP実装ではコスト超過が頻発していることが調査で示されており、専門家もそれを立証している。

 しかし、目に見えないコストは避けられないものではないとグプタ氏は言う。

 データの準備や移行に伴うコストなど、ERP実装作業には事前に突き止めるのが難しいコストもあることを同氏は認めている。また、ERPの実装はそれほど頻繁に行われないため、正確なコストの予測に苦労している企業も多い。

 それでもコストを引き上げる要素は事前に包括的な計画を立てることで減らせるとグプタ氏は話す。

 「どんなモデルであれ、目に見えないものをなくす唯一の方法は計画を細分化することだ。何が見え何が見えないかを把握するには、実装計画を細分化しなければならない。プロセスレベルやデータレベル、テクノロジーレベルで詳細に計画を評価することが必要だ」(グプタ氏)

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