キーマンズネットのWindows 11への移行調査においては、アップグレードが進まない状況を報じてきたが、2023年末の調査においては、企業の移行状況や意識に変化が見受けられた。
キーマンズネット編集部は2024年に注目すべきトピックスとして「セキュリティ」「SaaS」「コミュニケーション/コラボレーション」「生成AI(人工知能)」「システム運用/内製化」「データ活用」「Windows 11」の7つのトピックスを抽出し、読者調査を実施した(実施期間:2023年11月〜12月8日、有効回答数424件)。企業における2023年のIT投資意向と併せて調査結果を全8回にわたってお届けする。第8回のテーマは「Windows 11」だ。
Windows 11が、Windows 10の後継として2021年の10月にリリースされてから早くも2年以上がたった。新OSへの移行は多くの工数がかかる上に、業務アプリケーションとの互換性の問題なども出てくる。過去には、「Windows 8」にアップグレードせず、Windows 10を導入した企業もあったように、様子見で判断を引き延ばしてきた企業もあるだろう。
キーマンズネットの調査においては、過去2回にわたってWindows 11への移行調査を実施し、アップグレードが進まない状況を報じてきた。ユーザーからは、新機能への興味関心よりも安定稼働を望む声が上がっている。一方で、今回の調査では、企業の移行状況や意識に変化が見受けられた。
Microsoftはリリース当初からWindows 11への移行促進に取り組んできたが、状況はどれほど進んだのだろうか。アンケート回答者の勤務先におけるWindows 11への移行状況と移行方針を尋ねたところ図1のような結果になった。
前回の調査においては、「移行が完了した」とした割合は全体の5.4%で、「一部の部署、部門で移行が完了した」(11.2%)と合わせて、移行作業を進めている企業は16.6%だった。一方、今回の調査では「移行が完了した」企業は全体の11.8%で、「一部の部署、部門で移行が完了した」とした企業は全体の22.9%、合わせて34.7%の企業が移行作業を進めていると分かった。前回と比較して、約2倍に増えていることが分かる。
また、前回は32.9%が「利用しているOSのサポートが終了するまで移行はしない」としたが、今回は22.2%まで減っている。
Windows 11のリリースから2年以上がたち、多くのメディアでアップデートのメリットが強調されている他、無償提供期間が永続的ではないという公式コメントの後押しもあり、重い腰を上げる企業が増えていることが見て取れる。
現時点では、Windows 11へのアップグレードは無償で提供され、対応機種であり、かつ「Windows 10」がインストールされているPCならば、Windows 11を使い始めることができる。しかし、Microsoftは2023年10月時点で「無償期間はいずれ終了する」とくぎを刺したかたちで予告した。さらに、2025年10月14日はWindows 10のサポートが終了する予定で、その前後の駆け込みでハードウェアの供給が追い付かなくなるのではないかという懸念もささやかれている。そうした背景が移行を後押ししているとも考えられる。
企業規模別に結果を見ると、「移行が完了した」「一部の部署、部門で完了した」を合わせた数字は、5001人以上で最も多く41.6%、次いで100人以下の企業で33.5%だった。501〜1000人の中堅企業ではこの数値が最も低く、24.5%だった。また、「利用しているOSのサポートが終了するまでは移行しない」とした企業は、101〜500人の企業で最も多く、30.2%だった。
機動力のある100人以下の小規模の企業と、アップデートをしないことによる影響が大きいであろう大規模な企業の両極で移行が進んでいることが分かる。
Windows 11へのアップデートが徐々に進んでいる状況を見てきたが、その理由の一つにはMicrosoftによる移行促進の取り組みがあるだろう。Windows 10ユーザーに対して、ハードウェアの要件を評価するためのツールやMicrosoft アカウントを使ったファイルやデータの移行手段の提供の他、ユーザーに対してWindows 11のアップグレード案内を表示するといった工夫をしている。
特に、Windows 10ユーザーへのアップグレード案内においては、スタート画面でアップグレードを勧める画面が定期的に表示され、ユーザーはこれに同意することでWindows 11をすぐに使い始められる。便利な一方で、この仕組みに対して不満を持つユーザーもいるようだ。以下のようなコメントが集まった。
中には、間違ってWindows 11にアップデートしてしまい、情報システム部門に問い合わせがくるといったトラブルにつながったケースもあるようだ。
Windows 11に「移行する予定はない」「利用中のOSのサポートが終了するまでは移行しない」とした回答者にそう判断する理由を尋ねた。
最も回答が集中したのが「アプリケーションの互換性調査が煩雑なため」で40.8%、「急を要することではないため」「移行メリットを感じないため」が同率で37.7%となった。前回調査と同様に、これらが移行をためらう理由のトップ3となった。
Windows 10のアプリケーションはWindows 11でも動作するように設計されていて、Microsoft社内のテストでは99%以上の互換性があるという結果が出ている。一方で、特定のセキュリティ要件を持つアプリケーションや、特定のビジネスや業務用にカスタムビルドされたアプリケーションは、Windows 11への互換性を保証するために調整が必要になることもある。
また、アプリケーションの互換性を検証する工数も大きく、対象アプリがインストールされているPCの特定や、アプリ周辺ドライバの互換性確認などチェック項目が広範囲にわたる。一度に社内展開するのではなく、ITリテラシーの高い部門から徐々にアップデートを進め、都度フィードバックを受けながら適応を進める必要があることから、互換性調査が大きなハードルになっているとみられる。
「現時点ではWindows 11に移行しない」理由として「要件対応のためにPCをリプレースする必要があるため」とした割合は17.5%だったが、「Windows 11を全社、または一部の部署部門で移行した」とした回答者に対して「インストール要件対応のためにPCをリプレースしたか」と尋ねたところ、「一部のPCをリプレースした」が55.1%、「全てのPCをリプレース」するが29.3%、「リプレースはしない」が15.7%となった。
Windows 11はパフォーマンスの向上やセキュリティの強化、Androidアプリのネイティブサポートやスナップ機能による操作性の向上、「Microsoft Teams」との連携など、Windows 11の特徴としているが、これらの変化についてユーザーはどのように捉えているのだろうか。アンケート回答者に対して「今後のWindows OSに求めること」をフリーコメント形式で募ったところ、さまざまな意見が集まった。
最も多く寄せられた回答が「革新的な機能追加は不要なので、安定稼働に注力してほしい」といった意見だった。
全体として、面白い機能だと思うが業務利用ではWindows 10で十分という声や、今の業務アプリがきちんと稼働するかどうかが重要という意見も多かった。Windows 10のサポート終了まで残された時間は約1年半だが、ユーザーにとってどのようなメリットがあるのかという点よりも、移行の工数をどのように抑えられるのか、移行しないとどのようなデメリットがあるのかということを強調する方が移行を促すストーリーとしては有効のようだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製品カタログや技術資料、導入事例など、IT導入の課題解決に役立つ資料を簡単に入手できます。