西武ライオンズの広報部は、増え続ける業務の管理方法に頭を悩ませていた。最終的に同社は“あるツール”を導入し、業務の可視化やナレッジ、ノウハウの蓄積、共有が進んだという。どのような意思決定や経緯があったのか。
プロ野球球団「埼玉西武ライオンズ」を運営する西武ライオンズの広報部は、増え続ける業務の管理方法に頭を悩ませていた。広報チームの業務は多岐にわたり、社内外とのやりとりも多い。従来は「Excel」でこれらのタスクを管理していたが、限界を感じていたという。
タスクやプロジェクトを管理するためのコラボレーションツールは数多く存在するが、ITリテラシーが高い従業員ばかりではない中、操作や設定が複雑なツールを使うわけにはいかない。最終的に同社は“あるツール”を導入し、業務の可視化やナレッジ、ノウハウの蓄積、共有が進んだという。どのような意思決定や経緯があったのか。広報部マネジャーの服部友一氏に聞いた。
西武ライオンズは、パシフィック・リーグ所属のプロ野球球団として有名な「埼玉西武ラ イオンズ」の運営会社だ。同社の広報部は、メディア向けPRやSNSの運用などを手掛ける「事業広報」、ビジターゲームにも帯同してメディア対応などを担当する「チーム広報」、公式サイトなどの制作を行う「Web」、ブランド管理や出稿などを担当する「ブランドデザイン」、そして「庶務」という5チームに分かれている。
数年前のメンバー数は全部で6〜7人だったが、ファンやメディア向けのコミュニケーションを強化するために人員を増強。現在は広報部長およびマネジャーである服部氏を含めると、19人で膨大な業務をこなしている。
「各メンバーが抱えるタスクは多いですし、内容も複雑です。例えばWebチームで球団の公式サイトを制作しているメンバーは、選手やチームに関する最新動向はもちろん、球場内外で行われるイベント、ファンクラブや『ライオンズアカデミー』と呼ばれる野球を始めとしたスクール事業、スポンサー企業などの情報をまとめ、ニュースとして発信しなければなりません。また、『ファン感謝祭』といった特別なイベントのためにランディングページを用意したり、サイトに掲載するバナーを制作したりする仕事もあります。当然、やりとりする部署や企業は多岐にわたりますし、業務を進める手順やタイミングもバラバラです」(服部氏)
従来、特に組織改編で人数が増える前こうしたタスクを、Excelを使って管理していたこともあった。しかし、「各自が抱える業務が増えると、タスクの抜け漏れが増え、マネジメントをする立場としても、メンバーが増えたことで全員に目配りすることが難しくなっていました」と服部氏は振り返る。
そこでタスクの可視化を実現し、スケジュール管理の正確性を高めるツールとして2020年にプロジェクト・タスク管理ツールの「Backlog」を導入することに決めた。これは、タスクやプロジェクトを登録して作業状況を可視化し、さらに他のメンバーと共有できるツールだ。西武ライオンズで最初に導入したのは、多数の公式グッズの企画、デザイン、製造、販売を手掛けるMDチームだったという。
「私は前職でBacklogを使っていましたから、使い勝手の良さやメリットについては分かっていました。また、広報部はベンダーやWeb制作会社など社外とのやりとりが多いのですが、そうした方々を招待してBacklogでやりとりできる点もメリットだと感じていました。そうした中、MDチームがすでにBacklogを導入し、成功していることを情シス部門から聞かされ、ぜひ広報部でも使いたいと思ったのです」(服部氏)
同社のMDチームがすでに利用をしていたことで、導入時の社内のハードルはあまりなかったという。ITリテラシーの観点から、全てのメンバーがスムーズに使いこなせるかという点は少し不安だったものの、BacklogのUIが分かりやすいこと、MDチームでも問題はなかったと聞いていたことも相まって、導入に踏み切ったという。
服部氏が広報部でのBacklog導入を決めたのは2022年1月のこと。新たなプロジェクト、タスク管理ツールの導入をメンバーに打診したところ、拒否するような反応はほとんどなかった。初期設定は、前職でBacklogを使い慣れていた服部氏は一人で実施した。
「『カスタム属性』に当社のやり方にあった項目を追加したくらいでしたから、おそらく30分くらいで済んだと思います。また、メンバーが進めていたタスクの中でExcel管理されていたものは、私が全てBacklog上に転記。こちらは数百件分あったので、確か丸一日分の作業になりました。さらに、導入の直前期に私からメンバーに30分ほどのレクチャーをした上で、利用を始めました」(服部氏)
当初は、個人にしか関わらない小さなタスクも登録していいのか、それとも全メンバーに共有すべきタスクだけに絞るべきか迷うメンバーが多かったという。また、Backlogに記入すべきタスクを、面倒がって登録しないケースもあった。そこで服部氏はまず、不慣れなメンバーの代わりにタスクを記入したり、週1回の定例ミーティングで自らBacklogを使って会議を進行したりして、メンバーの意識を統一するよう努めた。そうして徐々にBacklogの更新や会議の進行役をメンバーに任せるようにしたという。1カ月もすると、タスクを記入する習慣がメンバー内に根付いていった。
「1週間くらいで完了する業務は1つのタスクとして、もっと長期的な業務は親課題と子課題に分けて登録するようにしています。新たなツールに対し、腰が重くなる人もいました。ただ、それほど面倒な作業が必要なわけではないし、使いこなせれば仕事がグッと楽になるとていねいに説明したので、大きな問題は起きませんでした」(服部氏)
服部氏がお気に入りだという機能は、締切日を過ぎたタスクに炎のアイコンが示される機能だ。スケジュールへの意識を高める仕掛けが施されている。
導入から3年以上が過ぎた今、Backlogは広報部の業務にとってなくてはならない存在となった。服部氏は全メンバーにカスタマイズの権限を与えており、時にはメンバーが自発的に新たな使い方を提案してくるという。また、Backlogを使う習慣もすっかり定着した。
「出社時にBacklogを見て、現在のタスク状況と、すぐに取りかかるべきタスクを確認してから仕事を始める人もいます。それから、Backlogを更新してから退社する人も増えました。その日にこなしたタスクを振り返り、自分なりに整理しているのでしょう。また、それらを上司や同僚と共有することで、ある種の『業務日報』のような機能も果たしているのではないかと思います」(服部氏)
Backlogの導入効果としてまず挙げられるのは、週1回行われている定例ミーティングの時間が短くなったこと。以前はメンバーごとの進捗確認に時間をとられ、1回あたり1〜2時間程度かかっていた。しかし、今はBacklogを開けばすぐにタスクの進捗状況が分かるため、30分ほどで終えられるようになった。1人あたり週1時間半短くなったということは、1カ月に換算すると6時間余り。これが15人分なので、広報部全体のミーティング時間が月約100時間減った計算になる。
もう1つの大きなメリットは、スケジュールの抜け漏れが激減したことだ。
「以前はやるべきことをうっかりして忘れ、期限を迎えてから慌てて対応することが少なからずありました。でもBacklogを導入してからは、そういったケースはかなり減ったと感じます。締め切り日などが明確になったこと、そして、自分の業務が遅れると誰にどのような悪影響が出るのか可視化されたことで、メンバーの意識が高まったことが大きいのではないでしょうか」(服部氏)
さらに、Backlogはナレッジやノウハウの蓄積・共有にも役立つと服部氏は指摘する。
「Backlogには検索機能があり、過去の類似タスクを簡単に探し出すことが可能です。ですから、例えば新たに配属されたメンバーは、過去に先輩が登録したタスクを見れば『この仕事はこういう手順で進めればいいのか』と学べるのです。一方でベテランメンバーも、以前は何となく進めていた業務をBacklogに登録する過程で、自分の仕事の進め方を整理できます。結果として、業務の属人化を避けられるようになりました。もちろん、メンバーを管理する私たちマネジャーも、仕事がずいぶんとやりやすくなったと感じます」(服部氏)
部門内コミュニケーションの改善にも、Backlogは一役買っている。広報部では「Microsoft Teams」と連携させているので、遠征先などでも自分宛の共有情報をリアルタイムで受け取れるのが便利。また、コメントや「スター」で連絡を取り合う仕組みも、メンバー同士の意思統一やちょっとした気持ちの共有などに役立ってそうだ。
「私はどちらかというと、部下の動きをしっかりと見ておきたいタイプのマネジャーです。まだ未登録のタスクなども見られるので、忘れず登録してほしいという気持ちがあります。場合によっては、各メンバーのToDoリスト代わりにBacklogを使ってもいいと思うのです。
今後期待しているのは、ChatGPTなど生成AIとの連携です。タスクを登録するやり方は人によってさまざまで、長々と詳しく記載してくれるメンバーもいれば、あっさり書きすぎるメンバーもいます。でも、そのあたりをAIに支援してもらえれば、記載内容のレベル感をそろえられるのではないでしょうか。また、メールやチャットでのやりとりをそのままコピペし、AIに要約してもらってタスクに登録してもらうことができるかもしれません。そうして、Backlogがもっと使いやすく進化すればいいですね」(服部氏)
「Backlog」を提供するヌーラボの前田 カトレーナ 琴美氏(広報事業部)は、「ヌーラボでは、ツール導入のキーパーソンとしてタスクを分解、整理し、役割を明確にして、計画的に管理、実行するスキルを持つ人を『バックログスイーパー』と呼んでいます。西武ライオンズさまでは、服部さまがバックログスイーパーとしてツールの導入や普及をけん引されたことが成功の要因の一つだったと感じています。ヌーラボでは、チームメンバーが効果的に協力し、目標を達成するための『チームワークマネジメント』を支えるツールを提供できるよう目指しています。西武ライオンズさまは、服部さまを中心に、チームワークマネジメントを通じて組目標達成のためのプロセスを改革された素晴らしい例だと思います」と語った。
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