社内外に点在する構造化・非構造化データ。東京センチュリーは抜本的な情報基盤の改革に踏み切った。煩雑なNASの運用から脱却し、ガバナンス強化と生産性向上、さらには生成AI活用を視野に入れた取り組みの推進を決めた。
国内リースとオートモビリティ、ファイナンスサービス、国際事業、環境インフラの5つの事業を中核に事業を営む東京センチュリーは、2027年までの中期経営計画においてデジタルトランスフォーメーション(DX)を基本方針に掲げている。その第一歩として、同社は社内情報の統合管理に着手した。プロジェクトの立ち上げから現在に至るまでの道のりを東京センチュリーの檀ノ原 浩氏(IT ・事務部門スペースIT推進部長)が語った。
東京センチュリーでは、基幹系・情報系システムからコミュニケーションツール、ファイルサーバに至るまで多様なシステムが稼働しており、ネットワークアクセスは社内外にまたがり、複雑な構成を取っていた。社内には構造化・非構造化データが混在し、NAS(Network Attached Storage)と「Google Drive」「Box」、各種業務システムなど複数の保存先に分散していた。コンテンツ保管場所の散在と情報共有手段の乱立が効率的な情報検索を妨げるとともに、セキュリティリスクを高める要因となっていた。
2017年頃まで利用していたNASはすぐに容量が逼迫(ひっぱく)し、その都度容量の追加やファイル整理を繰り返していた。仮想化ストレージや重複排除機能を備えたNASに切り替えることで一時的な改善を図ったが、根本的な課題解決には至らなかった。
NAS運用における課題は大きく分けて4つあった。第一に、コストや業務継続性に関する懸念。第二に、情報セキュリティおよびガバナンスの強化が求められる点。第三に、生産性・業務効率の改善効果が限定的であること。そして第四に、イノベーションの創出とスピーディーな業務の遂行に対応しにくい点だ。
こうした課題を背景に、東京センチュリーは運用が煩雑なNASから脱却し、情報の一元管理とファイル共有・コラボレーションの抜本的な改革に踏み切る決断をした。
基本方針として掲げたのが、社内外を問わずファイルの共有とコラボレーションを高度化し、モバイル環境にも対応可能な柔軟な業務基盤を構築すること。加えて、精度の高い全文検索による情報アクセス性の向上とセキュリティ対策やガバナンス強化を重視した。情報資産の保全においては、データの保管先を国内に限定し、安全性とコンプライアンスの両立を図ることも重要だった。
これらの条件全てを満たすツールを見つけるのは容易ではなかった。
考える要件を満たすソリューションとして同社が着目したのが「Box」だ。既に全従業員の約4分の1が利用していたことから、スムーズな全社展開が可能だと判断した。最終的に「Box Enterprise Edition」プランの採用を決定した。同社はこの全社展開を起点に、業務基盤の強化と将来的なイノベーション創出に向けた取り組みを本格的に始めた。
Boxの導入に当たって、同社は次の5項目を重点的に検討した。
NAS運用における主なコスト要因は、ストレージの増設とリプレース、そして移行作業だ。前述した通既にNASの容量は逼迫(ひっぱく)しており、ハードウェアの保守サポート終了に伴う対応も避けられなかった。また、バックアップメディアの管理も煩雑化し、保存期間の管理負荷も増大していた。加えて、NASの移行にはIT部門のみならず業務部門にも相応の工数が発生することも課題だった。
一方、Boxは容量無制限であるため、コンテンツを一元化しても追加費用が発生しない。確かにデータ移行時には一定の工数を要するが、そのプロセスにおいてコンテンツの統合や運用フローの標準化も同時に実現できるため、結果的には全体としてのコスト削減が可能となる。
情報セキュリティとガバナンスの強化は、DX推進における不可避の課題であり、Boxへの移行に際して東京センチュリーは複数の対策を検討した。
まず、データの保管場所については、「Box Zone」を活用することで日本国内でのデータ保管をかなえ、法令順守と安全性の確保を実現した。次に、情報漏えいや持ち出しリスクへの対応として「Box Shield」を導入し、スマートアクセス管理や脅威検出によるセキュリティ強化を図ると同時に、「Box Governance」を使ってリテンションポリシーを設定し、文書の適切な保管とライフサイクル管理を行った。さらに、Boxのレポート機能を活用することで、アクセスログの監視や不正検知も容易になった。
ランサムウェア対策についても、Box ShieldとBox Governanceの組み合わせにより、文書保全と復旧対応が可能だ。保存年限の管理や監査対応に関しても、Box Governanceとレポート機能によってガバナンスを強化した。加えて、PCやモバイル端末でのデータレス運用については、Boxのテナント設定に加え、外部のサードパーティー製ソリューションとの連携によって、安全性と利便性を両立した運用体制を構築した。
生産性や業務効率の面では、ファイルの所在が分かりにくく、必要な資料を探すのに時間がかかるという声が社内から多く寄せられていた。加えて、契約書をはじめとする紙書類の多さも業務の非効率化につながっており、大きな課題だった。さらに、生成AIの活用を検討するに当たっても、データが社内のあちこちに分散している状態では十分な効果を引き出すことができない。
文書の検索性は、Boxによる一元管理で検索対象を統一し、情報の所在を明確化した。加えて、「Box Hubs」を利用することで文書の要約や分類、目的別のナビゲーションが可能となり、必要な情報へスムーズにアクセス可能になった。
また、ペーパーレス化の推進においても、コンテンツをBoxに集約することで紙文書の削減を実現した。さらに、「Box Sign」による電子契約や「Box Relay」を活用した業務ワークフローの自動化により、契約業務の効率化とトレーサビリティーの確保が可能となった。
イノベーションと俊敏性の向上においては、生成AIの活用、既存システムに散在するデータの効果的活用、そしてシステム間のファイル連携の拡張性が重要な課題だった。「Box AI」を導入することで、RAG(Retrieval-Augmented Generation)を含む高度な生成AI活用が可能になる。さらに、コンテンツをBoxに一元化することで、既存システムとの連携を容易にし、データ活用の効率化と柔軟な連携体制の構築を推進できる。
Box ZoneとBox Governance、Box Shield、Box Hubs、Box AIは、同社が従来利用していたBusiness PlusプランやEnterpriseプランではオプション料金が発生し、フル機能が使えなかったため、Enterprise Plusプランへのアップグレードを決めた。段階的にオプションを追加するよりも、初めからBoxの全機能を最大限に活用することで、DX推進の効果を高めることが狙いだ。
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