今やBIソリューションは、データ活用において欠かせないソリューションの1つだ。中でもMicrosoftの「Power BI」やGoogleの「Looker Studio」は多くの企業で利用されているだろう。本稿では基本的なBIソリューションの選び方や違いについて解説する。
企業は自社固有のシステムやSaaSをはじめとしたクラウドサービスを活用し、日々の業務に役立てていることだろう。そして、それらのシステム内に蓄えられたデータを活用して新たな気付きを得るために、多くの企業がBIソリューションを導入し、データを可視化するケースもあれば、高度な予測でこれまでにない新たな価値創出につなげているケースもあるだろう。今やBIソリューションは、データ活用において欠かせないソリューションの一つであることは疑いようがない。
これらの中でもMicrosoftの「Power Platform」ソリューションの一つとして提供される「Power BI」やGoogleの「Looker Studio」は多くの企業で利用されているだろう。本稿では、基本的なBIソリューションの選び方をはじめ、Power BIとLooker Studioの違いなどついて、BI導入支援を手掛けるパーソルビジネスプロセスデザインに聞いた。
まずはPower BIとLooker Studioの特徴について整理していきたい。大前提として、Looker Studioは「Google Cloud」のサービスで、クラウド環境のみで利用できるサービスだ。Power BIはオンプレミスでも利用できる点で大きく違いがある。
データ活用においては、データを取得・蓄積して分析に必要な形に整形し、可視化、そして共有展開するフローが通例だ。この4つのプロセスに関して、Power BIは単一サービス内で対応が可能だが、Looker Studioは、データ取得や蓄積に「Google Cloud Storage」、データ整形には「Big Query」といったGoogle Cloudの各サービスと連携することになる点も違いがある。
Power BIは、分析要素を当てはめていくことでビジュアライズでき、カスタマイズテンプレートも豊富に備わっているソリューションだ。無料で使える「Fabric(Free)」の他、「Power BI Pro」「Power BI Premium Per User」(PPU)の3つのライセンスが存在する。Fabricには他ユーザーとの共有や共同作業の機能がなく、企業で利用する場合は有料ライセンスがターゲットとなってくるだろう。
Power BIはMicrosoftが提供するソリューションだけに「Excel」や「Access」などのOffice製品との親和性が高い点が特徴となっており、利用者数が多いだけにコミュニティーが充実していることで情報収集しやすいのも大きいポイントだ。
対応するOSは「Windows」に限定され、SaaSとして「Microsoft Azure」上で構築するケースが多く見られる。計算式を実装する場合、Power BI独自のDAX関数を習得する必要があるため、Looker Studioに比べると学習コストはかかる。
また、Power BI ProとPower BI Premiumそれぞれにライブ接続や抽出データの容量制限があり、1人あたりのストレージ容量もそれぞれ制限がある。また、ライセンスを持つメンバーそれぞれで個別にコンテンツが保有できる仕様となっており、バージョン管理やストレージ管理に関するルールを決めておく必要がある。
Looker StudioはPower BI同様、ビジュアライズが容易でカスタマイズテンプレートも豊富に備わっており、無料で利用できる。コンテンツへのアクセス制御やカスタマーケアなどが受けられる有償の「Looker Studio Pro」もある。基本的には無償で利用できるが、Big Queryと接続する場合にはクエリ処理料金やデータ保有料金、有料テンプレートを利用する場合も別途費用が発生する。
Googleが提供するソリューションだけに、「Googleアナリティクス」や「YouTubeアナリティクス」、BigQuery、「Google スプレッドシート」などを利用しているケースに向いている点が特徴だ。基本的にはGoogle Cloudでのみ利用可能で、他の環境と連携するためには別途コネクターなどの用意が必要になる。また、コンテンツ単位で共有URLを発行して共同作業が実施できるため、データのガバナンス面で個別の対応が求められる。
学習コスト面では、独自の関数を必要とするPower BIに比べて一般的なSQLを中心に運用可能だ。
Looker Studioの場合、一つの表に含められる項目や指標の数、ページあたりのグラフ数に制約があり、ローカル環境からExcelやCSVファイルをアップロードする際の上限がある点には注意したい。またライブ接続に制限はないが、データセット当たり、1人当たりのストレージ容量に制限がある。また、Looker Studioを利用する場合は一般的な関数で利用可能だが、使用できる関数の種類が限定されており、複雑な計算を実施したい場合はデータソース側で用意するといった工夫が求められる。
どちらの場合も、使い方やアクセスするデータソースによって費用が変わってくるため、一概にどちらを選択するのかは利用環境による。
Power BIの場合、標準的な機能を個人で使用する場合は無料だが、例えば作成者と閲覧者合計で10人程度のチームで共有する場合であれば月額1万5000円がかかる。また、より大きなデータで高度な機能を活用した分析を実施する場合は月額3万円が発生することもある。
Looker Studioの場合、基本的な機能は無償で利用できるが、例えばBig Query内のデータと連携して使うとなると、データの保有料金やクエリ実行料金が発生する。自社での利用環境を改めて検討しながら、コストを算出することが求められるだろう。
それぞれ特徴のあるBIソリューションだが、使いこなしていけばどちらも有用なツールであることは間違いない。その意味でも、業務の基盤がMicrosoftのソリューションを中心にしているのか、Googleのサービスを中心に設計されているのかによってPower BIとLooker Studioを選択していくことが現実的だろう。日常の業務データがどのプラットフォームに蓄積されていくのかによって、分析前後の処理負担が変わるため、機能や使い勝手の視点も重要だが、結局「あなたの企業はMicrosoft陣営、それともGoogle陣営?」という視点で使い始めてみてもらいたい。
そもそもBIソリューションを活用する際には、どんなことに注意すべきか。どんなソリューションでも同様だが、その目的が明確でないとうまくいかないのは自明の理だろう。目的や環境が明確でないままBIソリューションを展開しても、結局宝の持ち腐れになってしまう。それでも目的が広く周知徹底されないままBIソリューションを展開してしまうケースが多い。
目的が明確になったら、受け入れる社内の体制や組織がきちんとしているのかも含め、自社の状況をしっかりと確認した上で導入検討を進めるべきだ。例えば目的に応じたデータが存在しているのか、分析するための前処理に必要なデータ加工や蓄積する基盤がきちんと備わっているのか、BIソリューションを活用するためのリソースは十分なのか、ダッシュボードやレポートを共有するスペースなどがあるかどうかなど、検討すべきことはたくさんある。BIソリューションを選ぶ前段として、自社の状況を正しく把握しておきたい。
失敗したケースを十分に知っておくことで自社のBI導入を成功させていきたいところだが、どんな失敗パターンがあるのだろうか。
取材の中で出てきた失敗例として、「Excelのほうがいいと現場に思われてしまって広がっていかないケース」を耳にした。表計算のExcelでも基本的な統計分析などは可能だが、大量のデータソースを集約して高度な分析を実施し、ドリルスルーなどインタラクティブなダッシュボード作成が可能なBIソリューションとは大きく違いがある。それでも、「Excelなら簡単にセル結合ができたのに」「自分の視点でセルごとに色付けできるExcelのほうが便利」と感じてしまうユーザーがいるのも現実だ。BIソリューションを業務に根付かせるには、非常に便利なExcelとの勝負が必要になってくる。
BIソリューションへの過度な期待も、現場からそっぽを向かれてしまう結果につながりやすい失敗例の一つだ。昨今は生成AIをはじめとした技術が広がってきていることも手伝ってか、BIをAI的なものとして何でもできるのではと期待してしまう傾向にあるようだ。何か未来が見通せる未来予測のような結果が出てくると勘違いしてしまう現場もあるようで、期待値が高すぎたことでうまくBIが根付いていかず、失敗してしまうこともある。BIソリューションは魔法のつえ ではなく、必要なデータを収集して蓄積加工し、売上分析や顧客分析、生産管理の効率化などその目的に応じたアプローチを着実にこなすことが必要だ。
データ分析において重要な役割を担うBIソリューションだが、簡単な情報の可視化であればいざ知らず、大量の情報から経営判断につながるようなデータを導き出すため高度な分析を実施していくのであれば、ベンダーによる支援を受けるという選択肢も重要になってくる。
例えばパーソルビジネスプロセスデザインは、顧客のCX領域において各種BIソリューションに関する活用支援サービスを手掛けている。具体的には、今回紹介したPower BIやLooker StudioはもちろんTableauやMotionBoardなど主要なBIソリューションを活用するための支援サービス、研修トレーニングやデータ基盤構築、BIソリューションを企業に根付かせていくためのサポートなどだ。経験豊富なパートナーを探し、伴走してもらいながら、データ活用を日々の業務に役立てていける環境や体制づくりを進めてみてはいかがだろうか。
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