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“壊してもいい”が現場を変えた 岩塚製菓、生産性1.3倍を生んだDX定着の条件

現場DXは、ツールを入れるだけでは実現しない。岩塚製菓では、業務を測り直し、失敗を責めず、データを支援と評価に使った。数値を根拠に動く社内文化を土台に、包装工程の生産性を前年比約1.3倍に高めた過程を追う。

» 2026年08月19日 07時00分 公開
[中村篤志キーマンズネット]

 米菓の製造・販売を担う岩塚製菓では、お中元やお歳暮の時期になると、ギフト商品の包装工程が一気に忙しくなる。本社などの間接部門をはじめ、全社体制で応援に入って大量の注文を処理する。こうした繁忙期の光景が、長年繰り返されてきた。

 繁忙期には、1日約6000件の注文を処理する。ただし、これは注文の件数であり、1件当たりの商品数はそれぞれ異なる。商品が1個だけの場合もあれば、30個をまとめて購入する顧客もいる。そのため、例えば午前中に3000件の注文を処理したとしても、「作業の半分が終わった」とはならない。件数の処理数だけでは「あと何個包むのか」は分からないからだ。

以前は紙で工程の進捗を管理していた(提供:岩塚製菓)

 しかも、包装工程の進捗(しんちょく)や処理能力を正確に把握する仕組みはなく、生産を統括する製造本部とのやりとりは電話が中心だった。現場には「今日中に終わるのか」「あと何人必要なのか」と問い合わせが相次いだ。当時、長岡工場で包装工程を管理していた岩塚製菓の武山浩太朗氏(DX推進室係長)は、紙に記録された情報から数値を計算し、「終わると思います」「10人ほど必要です」と答えていた。

 「注文量が多く、現場全体が慌ただしい中で、私は電話対応に追われて仕事が進みませんでした」(武山氏)

 こうした状況は少なくとも15年以上続いていた。他の製造ラインでは自動化が進んでいたが、ギフト商品の包装工程は自動化が難しく、繁忙期も限られるため、設備の減価償却を考えると採算が合わなかった。そのため、「その時期だけ人を集めれば乗り切れる」と考えられ、抜本的な見直しの対象になりにくかったという。

 改善の起点になったのは、2008年から誰も更新してこなかった一つの数値だった。

ツールより先に、業務を「測り直す」

 武山氏が最初に取り組んだのは、ITツールの導入ではなく「工数」を見直すことだ。それまで使われていた工数の基準は、2008年に作成されたものだった。商品や包装方法が変わっているにもかかわらず、基準は更新されていなかったという。同氏はここに注目した。

 岩塚製菓には、社内改善を専門に担う「IPS推進部」がある。トヨタ生産方式をベースとした改善手法を各部門に展開する部署で、工場や管理職に対してデータに基づく提案が求められる。この部署の活動を通じて社内には数値を根拠に話す文化が広がってきた。武山氏もかつて同部署に約3年在籍しており、長岡工場の包装工程へ異動してきた直後に繁忙期を迎えたことが、この課題に向き合うきっかけになった。

岩塚製菓の武山浩太朗氏

 武山氏は、まず商品と包装パターンごとの作業時間を計測し、「Microsoft Excel」でマスターを整備した。注文情報と組み合わせることで、その日の注文を「何件あるか」ではなく「作業に何秒かかるか」に換算した。作業量を数値化したことで「今日は何人必要か」「現在の進捗で予定通り終わるか」を根拠とともに判断できるようになった。

 人数管理の仕組みを作った武山氏は、次に「この情報をリアルタイムで共有できないか」と考え、情報システム部門へ相談した。そこで紹介されたのが、ウイングアーク1stのBIダッシュボード「MotionBoard」だった。

 実はMotionBoardは社内に導入済みで、他の工場で既に使われていたのだという。だが、現場の従業員にとっては、自分たちで画面や仕組みを作れるツールという認識は薄かった。武山氏はMotionBoardを使い、包装ラインの進捗と生産性をリアルタイムに表示する仕組みを作った。

反対より先にあった「端末を壊す怖さ」

 仕組みができても、現場で使われなければ意味はない。作業実績を入力するため、武山氏は包装工程の現場に「iPad」を配布した。しかし、現場の従業員の多くは「Android」端末のユーザーで、iOS端末の基本操作に不慣れだった。また、包装工程の従業員の年齢層が比較的高く、「正しく操作できるのか」「壊してしまわないか」という不安の声も挙がっていた。

 そこで武山氏は、不安を払拭(ふっしょく)するため、iPadを“この板”、“このおもちゃ”と呼んで手渡した。また端末に慣れてもらうことを目的に、休憩時間に写真を撮ってみてと課題を出したり、スマホ教室と称して操作方法を教えたりした。

 「『壊せるもんなら壊してみて。もし落とす以外の壊し方を見つけたらぜひ教えて』と伝えました」(武山氏)

 iPadは安価な端末ではないが、導入費を日割りで計算すれば、わずかな改善効果でも1年以内にペイできる。まして、端末が壊れてもラインが止まるわけでもない。武山氏はそう考えた。

 端末を大切に扱うよう繰り返し注意するのではなく、通常の操作では簡単に壊れないと伝え、触ることへの心理的な抵抗を下げた。さらに、相談にはできるだけ早く応えることを心掛けたという。

 「画面がおかしくなったと相談されたときには、その場ですぐに元へ戻しました。大抵の場合は画面が変わっているだけなのでホームボタンを押せば元に戻ります。それを見ると、従業員も『なんだ、こんなものか』となります」

 そうするうちに、休憩時間に従業員同士で入力方法を教え合う姿も見られるようになった。端末に詳しい一部の従業員だけに頼るのではなく、現場の中で操作方法が共有されたことが、その後の定着や他工場への展開を支えた。

「使いやすいか」とは聞かない

 どの業種においてもそうだが、ツールが最初から業務にフィットすることは珍しい。岩塚製菓でも現場でのヒアリングを重ね、徐々にツールを業務に合わせていった。ここで興味深いのが、武山氏のヒアリング方法だ。同氏は、現場に「使いやすいですか」とは聞かなかった。

 「慣れていない段階で使いやすさを尋ねれば、使いたくない理由が並び、『それが直るまでは使わない』という話になりがちです。代わりに『やりたい仕事は成立したかどうか』と『どの部分に不具合が起こったのか』を確認するようにしました」(武山氏)

 例えば、文字入力が難しいという問題には、入力項目を二次元バーコードの読み取りと数値に絞り、物理キーボードも用意した。操作に慣れていないことと、作業を妨げる物理的な問題を切り分け、仕事の成立に必要な部分から改善した。

現場でiPadを使用している様子(提供:岩塚製菓)

 問題の指摘方法にも工夫がある。入力ミスがあった場合は、原因を確認し、データを修正してから「直しておいた」と伝えたという。入力を間違えるたびに責められれば、現場は新しい仕組みを避けるようになる。だが、失敗しても業務が止まらず、必要な修正が実施されると分かれば、安心してツールを続けることができる。

 こうした工夫は武山氏だけの努力で完結したものではない。現場の従業員が互いに操作を教え、実際の業務に合う入力方法を探り、上司も導入を支えた。個人の熱意に加え、現場と管理職の関係が仕組みの定着を後押しした形だ。

データを「監視」ではなく、応援と評価に使う

 包装工程でMotionBoardの本格稼働を始めた。画面には、包装ラインの進捗と成績がリアルタイムに表示される。予定より進捗が遅れていれば画面の表示が赤くなる仕様だ。

成績表示のイメージ(提供:岩塚製菓)

 だが、ここで疑問が浮かぶ。進捗が可視化されることで現場の反発はなかったのか。特に、繁忙期に支援として入っている間接部門は「自分たちはこれがメイン業務ではないのに」と考えてもおかしくはない。

 これについて武山氏は、MotionBoard導入初日の朝こそ戸惑いが見られたが、昼を過ぎるころには「私たち、ちゃんと頑張っているね」「私たちのラインは生産性が高い」といった会話が生まれていたという。

 「数値は従業員を責めるためではなく、支援が必要なラインを見つけるために使っています。3人で作業しているラインの進捗が遅れていれば、例えば『私が加わって4人にすれば計画に近づけられるよね』という感じで。遅れを個人の責任にするのではなく、応援を判断する材料として扱っています」(武山氏)

 予想外の効果もあった。MotionBoardにはコメントを表示させる機能がある。この機能を製造部長に使ってもらったところ「いつもありがとう」などのメッセージを表示させた。これには現場から喜びの声が挙がったという。自分たちの仕事を上司が見ていること、努力が認識されていることを実感できた、と。データが監視ではなく、自分たちの仕事を伝え、支援や評価につなげる手段として受け入れられた一例だ。

 MotionBoardはすっかり業務に浸透し、あるとき、システムの不具合で一時的に画面が表示されなかった際には、現場から「成績が見えないとやる気が出ない」という声が上がるほどだった。

生産性は約1.3倍、問い合わせ電話は週1回程度に

 取り組みの結果、包装工程の生産性は、MotionBoard導入前年の繁忙期との比較で約1.3倍に向上したという。

 MotionBoardを見れば進捗を確認できるため、武山氏への問い合わせ電話も週1回程度まで減少した。以前は武山氏が状況を報告していたが、導入後は上司から「計算上はこの人数が必要だったが、2人しか出せなかった、申し訳ない」と状況が共有されるようになった。

 「『報告しろ』と言われるのではなく、向こうから報告が来る。逆になりました」(武山氏)

 電話対応から解放された武山氏は、空いた時間を別のラインの改善支援に充てられるようになった。可視化によって現場の生産性が向上しただけでなく、改善を担う人材の時間も生み出したことになる。背景にあったのは、岩塚製菓が以前から持っていた、数値を基に話す文化だった。作業時間を測り直し、同じ指標で状況を共有したことで、現場と管理職が共通のデータを見ながら判断できるようになった。

 長岡工場での成果は、他のラインや工場にも展開された。現場の従業員同士で操作方法を教え合う土台ができていたことも、横展開を後押ししたと武山氏は振り返る。岩塚製菓はその後、DX推進室を設置した。新たな中期経営計画では、業務を最も理解している現場の従業員自身がデジタル技術を活用し、DXにつなげる方針を掲げている。

 従来、社内システムの構築は情報システム部門が中心となっていた。しかし、全ての業務課題を情報システム部門だけで把握し、仕組みに落とし込むことには限界がある。包装工程の取り組みは、現場が自ら業務を測り、データを使って改善する一つのモデルになった。

 DX推進室では、社内向けの「DX通信」を毎週発行している。読んでもらうために身近な“あるある”を取り上げながら、「Microsoft OneDrive」の活用方法など、実務に役立つ情報を紹介している。月1回の「DX勉強会」には、各部署のDX担当者30〜40人が参加する。要件定義やデータベースなどの知識を、外部講師に任せるのではなく、従業員が講師となって共有している。

DX勉強会の様子。講師は従業員が担当している(提供:岩塚製菓)

 一方で、課題もある。まだデータが紙にしか残っていないなど、必要なデータを取得できていない業務をどうするか。部署ごとの“取り組みに対する温度差”をどう埋めるか。武山氏は、デジタルツールの操作そのものよりも、「何を実現したいのか」「どのデータを、どのような形で使うのか」を考えることが難しいと話す。

 「『端末に入力できないから使わせられない』という話を聞くこともありますが、入力できないこと自体は、本当の問題ではない気がします。これはただのペーパーレスではない、ということを伝えるのが本当に難しいですね」

 紙をなくし、タブレットへ置き換えるだけではDXは定着しない。業務を測り直し、現場が安心して試せる環境をつくり、集めたデータを支援と評価に使う。岩塚製菓が示したのは、ツールより先に整えるべき、現場DXの条件だ。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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