帳票デジタル化の状況(2022年)/後編
帳票のデジタル化を実施している企業について「取り組み」や「計画」「運用ルール」などを調査した。加えて2021年12月に急きょ“2年間の宥恕(ゆうじょ)措置”が決まった電子帳簿保存法の「電子保存の義務化」について、デジタル対応への影響を聞いた。
キーマンズネットは2022年2月2〜18日にわたり「帳票の利用状況に関するアンケート」を実施した。全回答者数299人の内訳は、情報システム部門が31.4%、営業/営業企画・販売/販売促進部門が17.1%、製造・生産部門が14.0%、経営・経営企画部門が9.0%などだ。
調査インデックス
- 帳票デジタル化施策でFAXや表計算にテコ入れ
- 「運用ルール未設定」「保管データ増大」デジタル化の苦労話
- 電帳法2年先送りで予算取り上げ? アンケートから分かるリアルなホンネ
帳票デジタル化施策でFAXや表計算にテコ入れ
前編で94.2%と大多数の企業で部分的にでも帳票デジタル化が実施されている現状を紹介した。そこで後編では帳票デジタル化の取り組み背景や運用の実態に触れていこう。
帳票デジタル化の実行、計画状況を調査したところ、実施中の取り組みでは「複合機などを活用したFAXデータのPDF化」(76.6%)、「表計算ソフトを使ったローカルアプリ化」(49.2%)、「帳票Webアプリを使ってデータ化」(31.4%)が上位に続き、計画中では「REIDやM2MなどのIotによる自動入出力」や「取引専用端末の導入」「帳票Webアプリを使ってデータ化」が挙げられた(図1)。
この結果を2021年2月に実施した前回調査と比較したところ、実施中の取り組みでは順位の変動が見られなかったが、計画中の項目で帳票Webアプリの活用や取引専用端末の導入といった施策が増加傾向にあった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による人材不足や業務効率改善の必要性が増したこともあり、帳票デジタル化に本腰を入れ予算を充てて実行しているようだ。
また、帳票デジタル化をはじめとする業務のIT化に関する情報収集手段は、「新聞や雑誌、Webサイトなど」(48.2%)「業務システムなど取引のあるソフトウェア開発企業からの提案」(37.1%)が続き、下図のような結果となった(図2)。
「運用ルール未設定」「保管データ増大」デジタル化の苦労話
次に帳票をデジタル化した回答者に運用ルールを聞いたところ、64.0%が「書類データを社内の特定の場所に保管している」とし、過半数が社内サーバに保管していることが分かった(図3)。一方でファイル名のルール化やラベル管理など、データ活用を意識した運用ができているケースは2割程度という結果となった。また「特に決まっていない」も23.6%と4社に1社存在するのが現状で、運用ルール自体が設定されていないケースも珍しくないようだ。
次に、フリーコメントで「帳票をデジタル保管する際の苦労」についても聞いた。実際の声を一部抜粋で紹介したい。
最も多かったのは運用ルールが決められていない、または曖昧であるといった声だった。「データ化できるものとできないものの区別、保管フォルダの整備、ファイル名入力等のルール徹底ができていない」「管理場所(フォルダ)のルールが決まっておらず、目的のデータを探すのに時間がかかる」「担当者によって保管する際のネーミングルールが定まっておらず、後で探す際に苦労する」など、検索性の低さに加えデータ化可能な帳票の区別ができていないといったコメントも多数見られた。生産性やセキュリティの向上など狙った効果を発揮させるためには、帳票システムの導入だけでなく運用ルールの設定や管理が重要で、継続的な実施状況のチェックが必要不可欠だ。
他にも「読み取りに時間を要する。大量な頁数の場合には取り組み時間が膨大となり業務が中断する」「ストレージの容量不足、容量追加すると月額利用料金が上昇する」といった、帳票の保管データの増大を課題に挙げる声や「その日のうちにデータ化できずに後日まとめてデータ化してしまうこと。何らかの方法で自動化したいと思っている」「スキャンするのに手間と時間がかかる」といったデジタル化のコストについても不満が多かった。
電帳法2年先送りで予算取り上げ? アンケートから分かるリアルなホンネ
最後に2022年1月に改正法が施行された電子帳簿保存法の「電子保存の義務化」について触れたい。改正電子帳簿保存法は施行日以後、全事業者を対象に電子保存の義務化が決まっていた。しかし社内環境の移行準備が間に合わない事業者がいることを考慮し、2021年12月10日の「令和4年度税制改正大綱」にて2023年12月31日までの2年間は一定の要件下において引き続き“紙”保存ができるという宥恕措置が急きょ盛り込まれた。
この宥恕措置は企業の帳票デジタル対応にどの程度の影響を及ぼしたのだろうか。調査したところ、まず「既に対応している」は24.7%と4社に1社ほどで、思いの外未対応である企業が多かった(図4)。一方「現在対応中/これから対応予定である」は33.4%で、この層に対しては宥恕措置が一定の効果を示していると言えそうだ。しかしながら「対応を検討していたが、宥恕措置が発表されいったん保留している」は12.0%となっており、宥恕措置が設けられたことにより会社として優先順位が下がり、対応が先送りにされるケースも見受けられた。
フリーコメントでは「電子帳簿保存法への対応が難しく困惑していたので、宥恕措置が取られて良かった」や「対応前の情報収集段階だったので時間の余裕ができ安心した」といった安堵の声と「2022年1月に向けて対応を進めていたのに宥恕措置が取られ急に対応を先送りされてしまった。予算も召し上げられた」や「猶予措置があり、対応速度が遅くなりました」などの懸念がくっきり二分する結果となった。
COVID-19を中心に環境変化の激しい昨今において、できるだけ業務を効率化し従業員当たりの生産性を高めることで事業継続性を高めていく潮流はどの企業にも当てはまることだろう。その上で帳票デジタル化は強力な施策となり得る。働き方の変化や法整備を背景に、自社環境の見直しや構築をお勧めしたい。
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