6TBファイルのサーバ移行、M365ユーザーの八雲町がSharePointでなく「あえてBox」の理由
北海道八雲町が、オンプレミス型のWindowsファイルサーバを「Box」へ移行した。SharePointへのデータ移行を断念した2人の情シスが、全庁データを活用したRAGの運用まで見据えるようになった理由とは。
北海道南部に位置する八雲町では、上限6TBのオンプレミス型Windowsファイルサーバの容量逼迫やバックアップ運用に2人の情シスが頭を悩ませていた。既に「Microsoft 365」を導入していたことから、まずは「SharePoint」への移行を試みたものの、速度や運用面で壁に直面する。この窮状を打破したのが、オンラインストレージサービス「Box」の全庁導入だった。
失敗が許されない状況の中で全庁クラウドシフトを成功させ、今では全庁データを活用したRAGの運用までにも取り組もうとしている。そのプロセスについて、八雲町政策推進課の中村達哉氏(主幹)と志賀昭仁氏(情報政策係 係長)に直接取材し、プロジェクトの全体像を聞いた。
「有料ストレージじゃないと立ち行かない」危機感
北海道南西に位置し、太平洋と日本海の二つの海に面する北海道八雲町。政策推進課は課長を含めた3人体制だが、課長は他業務との兼務であり、情報関連の実務は、実質的に中村氏と志賀氏が担っている。
八雲町では、行政DXの推進に伴って、紙文書をデジタル保存する取り組みを進めてきた。その結果、容量上限6TBのオンプレミス型Windowsファイルサーバのストレージ容量が増加し、政策推進課は年に数回「不要なファイルを削除してください」とアナウンスして回るなど、綱渡りの運用を余儀なくされていた。
八雲町は、ネットワーク類型として、インターネット接続系とLGWAN系の通信を集約する「β'(ベータダッシュ)モデル」を採用し、このネットワーク環境の下で「Microsoft 365」を利用している。そこで政策推進課はまず、Microsoft 365と親和性の高い「SharePoint」へのデータ移行を考えた。しかし、検証を進める中で、通信速度やデータ量などの関係から、移行に半年ほどの時間がかかることが予想されたという。
中村氏は、「SharePointはポータルや共有ツールとしては優れているものの、全庁的なファイルサーバの代替としては限界がある」と感じていた。全庁のデータを安全かつ効率的に扱いながら、クラウドシフトを前に進めるには、別の解決策が必要だった。
行き詰った中で、ベンダーの担当者から提案されたのが「Box」だった。
中村氏は当初、Boxについて「容量制限がなく速度が速いオンラインストレージで、非常に魅力的だが高額であり、まるで高級外車のよう」だと感じていたという。しかし提案を受けて製品の検討を進めるうち、「費用を払ってでもストレージサービスを活用していかなければ、業務自体が立ち行かなくなるのではないか」という強い危機感を持つようになった。
一方で、自治体が高額なクラウドサービスを導入するハードルは高い。民間企業とは異なり、業務効率化が売り上げや利益といった、目に見える成果に直接結び付くわけではないからだ。
そのため、中村氏は、SharePointではなくBoxを導入することを納得させるために、明確な根拠を提示する必要に迫られた。
そこで中村氏は、「Boxの活用はコストではなく投資である」という考え方を打ち出し、上層部の説得を試みた。
「人件費はコストとして捉えられがちです。ですが、本来5人で対応しなければ達成できないミッションを、業務を効率化して3人、もしくは2人で遂行できるようになれば、浮いた人件費でBoxの利用料を回収できます。そこで上層部に対し、Boxの導入はコストではなく、将来の業務継続性を確保するための投資だと説明しました」(中村氏)
無制限のオンラインストレージや常時バックアップといった機能面に加え、Microsoft 365との親和性の高さや、政府のクラウド安全評価制度「ISMAP」に登録されている高い安全性が説得を後押しし、八雲町は2025年12月、オンプレミス型WindowsファイルサーバからBoxへの移行を開始した。
「変化がないこと」こそ最大の成功 現場ハレーションを回避した運用設計
情報担当者にとって、オンプレミス型のファイルサーバをクラウドへと切り替える業務は、一歩間違えれば全庁の業務が即座に停止しかねない、失敗の許されない作業だ。同時に、現行のファイルサーバを使い慣れている現場から、「使いづらくなった」「遅くなった」といった不満が噴出する事態は何としても避けなければならない。
こうした背景から、Boxへの移行で政策推進課が最も重視したのは、「現場が変化に気付かないこと」だった。そこで、専用アプリ「Box Drive」を導入し、Windowsのエクスプローラーから、従来の庁内共有フォルダと同じ感覚でクラウド上のファイルにアクセスできる環境を整備した。
「手元の端末で比較したところ、従来のオンプレ共有フォルダよりも、むしろBoxの方がレスポンスが速く感じるほどでした。職員は、データがクラウドに保存されていることを意識せずに、これまで通りの感覚でファイルを操作できます」(中村氏)
ファイルの置き場所をBoxへ移行するに当たり、当初は、「Microsoft Office」のリアルタイム共同編集機能が使えなくなるのではないかとの懸念があった。しかし、BoxとMicrosoft 365との連携により、職員が使い慣れたデスクトップ版Officeアプリのまま、シームレスに共同編集できる環境を実現した。
さらに、利用者からは見えないシステムの裏側についても、入念な設計と準備が進められた。Boxは上位フォルダの権限が下位へ波及するウオーターフォール構造であり、Windowsサーバとは権限構造が異なる。政策推進課は、Boxの仕様に応じて権限構造を再設計し、運用ルールの変更について職員へ丁寧に説明を重ねた。
移行がスムーズに進んだ背景には、政策推進課が現場とのやりとりで培ってきた信頼関係がある。
「前任の情報担当者が職員から深く信頼されていたので、その信頼関係を壊さないようにしようと2人でよく話しています。問い合わせには、上から教えるのではなく謙虚に答えるように心掛けています。先日はLANケーブルを天井の端から端まで通したり、防災カメラの設置場所で草刈りをしたりしました。もしかしたら、そんな姿勢を評価してもらえているのかもしれません」(中村氏)
今後は全庁データを活用したRAG運用を予定 病院・学校への拡大も
移行の最大のメリットは、保存するデータを精査する必要がなくなった点だ。移行前は現場に対してデータの削除を定期的に依頼していたが、今ではAIの活用を見据え、「絶対にデータを削除しないでください」と、以前とは正反対の呼びかけに変わった。
後から分かったことだが、容量切迫の最大の要因は、実はスキャンデータではなく、セミナーやイベントの様子を撮影した画像や動画データだった。中村氏は、「税金を投入して実施していることもあり、行政の現場では『確認を求められたときに備えてデータを消せない』という意識が強く働きます。そう考えると、不要なファイルの削除要請は焼け石に水でした」と振り返る。
また、公用スマートフォンとの併用で、場所を選ばずにサーバ内のデータにアクセスできるようになった。従来は分厚い紙のネットワーク台帳を持参していた障害対応も、スマートフォンから最新情報を参照できるようになり、大幅に効率化された。さらに、撮影した画像や動画を即時にアップロードできるようになった他、録音したデータをBox経由でAI文字起こしして報告書を作成するフローが整いつつある。
現在、政策推進課が最も期待を寄せているのが、「Box AI」を活用したRAGの運用だ。生成AIの活用、特にRAGの運用では、データの選定や更新、アクセス権限の制御が大きな壁となる。そこで、Box AIを活用すれば、Boxのアクセス権限を継承したまま検索対象を指定できるため、「アクセスできる範囲のデータから必要なアウトプットを導き出す」ことが可能になる。
「過去数十年間の行政データを全て確認し、その中から必要なデータを選んでRAGを構築することは現実的ではありません。しかし過去データの中には、私たちが知らない良質なデータが多数存在するはずです。Box AIを活用すれば、こうしたデータを基にしたアウトプットが可能になり、より踏み込んだ施策につながるのではないかと期待しています」(中村氏)
八雲町は今後、Boxの活用を病院や学校へも順次拡大する計画を立てている。特に学校現場では、行事のたびに撮影される大容量データでファイルサーバが常に逼迫しており、容量無制限のBox導入による改善効果に期待が寄せられている。
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