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設備のオープンソース化に向けた「OCP」とは?5分で分かる最新キーワード解説(3/3 ページ)

» 2014年01月22日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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プラインビルデータセンターのあらましも明らかに

 さらに、プラインビルデータセンターそのものの仕様も公開された。電気面では前述のように高効率の277 ボルトアンペア交流電源と48ボルト直流UPSシステムが特徴だ。メカニカル面では気化冷却システムに注目したい。これは外気を取り入れると同時に排熱を水のカーテンをくぐらせて冷やし、データセンター内部に送りこむという方式だ。データセンターの立地の季候条件にもよるが、空調に大電力を必要としない仕組みになっている。

気化冷却システムのイメージ 図6 気化冷却システムのイメージ。図はData Center v1.0(出典:OCPJ)

日本でのコミュニティー誕生と今後

 プラインビルデータセンターのオープン時に日本から訪れた鵜澤幹夫氏(現OCPJ副座長)は、Facebookの「オープン性」に感服し、その考え方が「データセンターの常識を変えるもの」と感じたという。

 OCP発足後、協働してドキュメント和訳に努めるうち、OCP側との信頼関係が深まり、2013年に「Open Compute Project Engineering Workshop」が開かれる運びとなった。OCPのCOOであるコール・クロウフォード氏らが来日してミーティングを行い、日本のインフラ系エンジニアなど100人以上が集合した。

 そして2013年1月、OCPの存在と意義を広報し、また日本からOCPへの貢献を行うべく「Open Compute Project Japan(OCPJ)」が設立された。座長には藤田龍太郎氏が就任し、合計5人の発起人とともに国内企業や個人に参加を呼びかけ、現時点で約50の組織や個人が参加している。また、台湾や韓国にもOCPのコミュニティーが立ち上がっているが、OCPJはこれらの国を含むアジア・パシフィック地域をリードする立場にあるという。

日本でのOCP仕様データセンターの可能性は?

 ただし、藤田氏と鵜澤氏は、ともに日本でのOCP仕様そのものの導入は「課題が多い」という。数十万台規模でサーバ入れ替えを行うデータセンターは日本には存在しない。また、サービス事業者自身が設計や運用を行うよりもSIerが代行するケースがほとんどであり、例えば部品をストックして現場で自社スタッフが交換するようなメンテナンス体制が取れるかどうかも問題だ。

 大規模導入と自社スタッフによる運用管理および工数削減があってこそ、コスト削減などの効果を手にできる。日本には現時点でそれができる組織は少ないのではないかということだ。

 現実的には利用できるところだけ、効果が期待できる範囲で実装することになるだろう。その際には、適合度合を判定し、「OCPサーティフィケイト」として認証する仕組みが必要になりそうだ。これについてOCP、OCPJ、OCPTでも検討中だ。

 これまでデータセンターファシリティはデータセンター事業者やシステムベンダーなどが主導してきた。しかし、OCPは利用者の立場からの最適設計を目指すものだ。これは次世代データセンターの1つの方向性を示している。

 IT業界はこれからより一層グローバルな競争にさらされるはずだ。海外の巨大データセンターと国内とのギャップを理解し、競争あるいは自社事業への利用を考えるために、OCPの設計思想と仕様を理解することには大きな意義がある。今後の必修科目の1つになりそうだ。

 以上、OCPのあらましを紹介した。興味を持ったらOCPJが提供する和訳ドキュメントに目を通すとよいだろう。また、最新の情報やドキュメント(英文)はOCPから入手できる。

関連するキーワード

Facebookのデータセンター

 Facebookのサービスのインフラとして使われているのは、現在米国内の3カ所とスウェーデンの1カ所にあるデータセンターだ。2015年には米国アイオワ州に新しいデータセンターがオープンする予定になっている。

「OCP」との関連は?

 2011年4月にオープンした米国オレゴン州のプラインビルデータセンターで実装された高効率なハードウェアや施設設計がOCPのオープン標準策定のモデルになっている。同データセンターは約1万3700平方メートルという広大な規模を持ち、外気と気化熱を利用した冷却システムや高効率の電気系設計、サーバはじめ各種機器のカスタム設計により、PUE1.07という電力効率を実現した。

 また、2013年6月には北極圏に近いスウェーデンのルレオに約2万7000平方メートルのデータセンターをオープンした。水力発電と寒冷な気候を利用した空冷とともに、ファシリティのほぼ全てがOCP仕様をベースにしているところが特徴だ。こちらもPUEは1.07だ。

 米国アイオワ州に建設中のデータセンターには風力発電所の併設が予定されており、データセンターの使用電力を上回る発電量が実現するとされる。これで100%再生可能エネルギーでの稼働が実現することになる。こちらもOCP仕様ベースになると見込まれている。

PUE(Power Usage Power Usage Effectiveness)

 データセンターの電力利用効率を示す指標。省電力化を推進する業界団体のThe Green Gridや米国環境保護庁、大手システムベンダー、データセンター事業者などが利用する。その数値は、データセンター全体の消費電力をサーバなどIT機器の消費電力で割った数値だ。電力全てがIT機器に使われるなら数値は「1」。「1」を超える数値は空調や照明、電力装置、その他が消費する電力ということになる。

「OCP」との関連は?

 OCP仕様のモデルとなったプラインビルデータセンターのPUEは1.07であり、電力利用効率が非常に優れている。世界的にデータセンターの平均は約1.5程度といわれ、国内最新の施設でも1.2程度だ。Googleの場合でも1.12といわれているのに比べ、この数値は驚異的な数字といえる。

気化冷却

 液体が気化するときに奪われる熱が気化熱。微細な粒子の水(ミスト)を放出し、風を送ると空気が冷却される。この原理を利用した冷却技術のこと。

「OCP」との関連は?

 プラインビルデータセンターでは施設外から空気を取り込む空冷設備が備えられているが、それだけでは冷却効果が足りない。そこでサーバなどの熱で暖まった排気と外気を合わせてミスト装置を通すことで適正な空冷を行うようにした。OCPのドキュメントでこの仕組みが公開されている。

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