プラインビルデータセンターのお披露目で耳目を集めてからひと月もたたないうちに、Facebookはさらに画期的な一手を投じた。それが前代未聞の「ハードウェアとデータセンターのオープンソース化」構想だ。
ソフトウェアの世界にオープンソースコミュニティーがあるように、ハードウェアの世界でも国や企業の壁を越えてエンジニアが議論し、協働できる場を作り、知的資産を共有しようという提案だった。
大抵、データセンターの内部は秘密であり、カスタム仕様を明らかにするケースは極めてまれだ。しかし、Facebookはシステムベンダーでもデータセンター事業者でもない。インフラを秘密にしなければならない理由が少ないのだろう、自前の仕様をオープンにし、誰でもがそれをモデルとして利用できるようにした。
その狙いは2つあるようだ。1つはシステム調達コストのさらなる低減だ。もともと同社は台湾などのメーカーにカスタム仕様のシステムを直接発注し、中間業者をなくしてコスト削減に努めていた。オープン標準にのっとることでメーカーの参入機会を増やしてコスト最適化が図れる可能性がある。また、もう1つの狙いは、各機器のファームウェアアップデートなどのメンテナンスを単純化し、運用管理工数の削減をめざすことだ。
しかし、仕様公開による利益を自社で独占するのではなく、世界のITユーザーやベンダーで共有しようとしたところがポイントだ。同社は高効率なハードウェアやデータセンターのベストプラクティスをオープンコミュニティーに提供する代わりに、技術改善のために世界中のエンジニアの知恵を集めて価値を高め、得られる利益も業界で共有したいと考えた。
この考えにインテルやラックスペース、HP、デルなどの企業や個人のITインフラエンジニアが賛同し、2011年10月にオープンコミュニティーであるOCPが発足することになった。OCPの発足以来、続々と仕様書やガイドブックが公開された。以下に設計思想をうかがえるポイントだけ簡単に紹介しよう。
図2はプラインビルデータセンターのサーバラックだ。OCP仕様はこのモデルを踏襲する。ずらりと並んだラックは横幅が21インチ(一般的なEIA規格のラックは19インチ)と少し大きめだ。サーバシャーシには天板もフロントパネルもなく、ラックにはレールにはめ込む形で実装されているので、引き出せば中身が剥き出しの状態だ。
ケーブル類やスイッチなどは全て前面に配置され、保守に当たってスタッフはラックの前面だけで作業できる。背面にあるのは冷却ファンのみで、ラックの前面はコールドアイル、背面がホットアイルになるように施設内に配置される。スタッフはホットアイルには足を踏み入れずに、全ての作業が行える。
大規模データセンターでの運用管理スタッフは、1人で数万台のサーバを管理することもある。メンテナンスを最小限の手間と時間で行えるよう省力設計されているわけだ。
現在、OCPのサーバは7種類あり、ラックの仕様(OpenRackと呼ばれる)も一様ではない。例えば3連ラック(図3)には、42Uの高さがあり、最上段に2つのスイッチを搭載、それぞれに30台のサーバが入る。合計90台のサーバが1セットにできるわけだ。
2つの3連ラックの間にはバッテリーバックアップキャビネットが置かれ、停電時にDC電源を供給するようになっている。新しいOpenRack仕様(v2)ではラック内にUPS装置を設けるなど主に電源周りの改良が検討されている。
図4はサーバ用マザーボードとシャーシの例だ。細長いマザーボードを2枚、1つのシャーシにそれぞれ1本のネジで組み込むか、固定用の穴にはめ込む方式なので簡単に交換可能だ。また、HDDは3台が搭載でき、それぞれレール上をスライドさせて適正なドライブベイにはめ込める。冷却ファンや電源装置も同様に簡単に交換できる構造だ。高さはは1.5U程度だ。
電源装置は入力は通常は交流277ボルトアンペア、停電時などのUPSからの入力は直流48ボルトが切り替えられ、出力電力は直流12.5ボルト。95%という電源効率(一般的なサーバでは80%以上が目標にされている)を実現したユニットになっている。
また、ストレージ(Open Vaultと呼ばれる)用にもマザーボードやシャーシ仕様が公表された(図5)。これは1UサイズのHDDトレイを2枚重ねた(合計2U)もので、3.5インチHDDを1トレイ当たり15個(合計30個)搭載できる。
2つのSAS拡張ボードがトレイごとにあり、冗長化した6個の冷却ファンが背面に配置される。こちらもサーバ同様にOCP仕様のラックに積載してメンテナンスしやすいように配慮されている。なお。アーカイブ用のストレージ(コールドストレージ)はこれとは別の仕様で策定される。
他にもネットワーク、パワーサプライ、バッテリーキャビネットなどについても高効率なモデル仕様が公開された。
また、10万台以上のサーバをスケーラブルな環境で稼働させるには、各種機器のファームウェアの効率的な管理が必要だとしてハードウェアマネジメントについてもオープン標準化を進めている。これはオープンなDCIMへと発展しそうだ。
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