バスは、デジタルサイネージを備えたバス内情報表示端末に、広報すべき行政情報や路線内の商業施設などのイベント情報などの広告情報を載せて出発する。走行中や停車中に情報をブロードキャスト送信し、その路線に沿って配置された停留所や施設のサイネージ付き端末や、バス近辺を移動する人が持つ携帯端末に配信される。
情報はバスの運行状況であったり、行政からの「お知らせ」であったり、商業施設の広告であったりとさまざまだ。災害時には緊急速報や災害情報、安否情報、災害現況などが発信されることになるだろう。
ただし、常に全端末に向けた放送をするのではないところがポイントだ。例えば「地域内の学校」向けの情報は、あらかじめ端末が「地域内の学校」グループに属する端末であることが識別されてはじめて配信される仕組みになっている。
ユーザーを幾つかのグループに分けておけば、「○○会社」「○○施設内の端末」「○○サークル」などといったユーザー属性別の情報配信が行え、グループ内での相互のコミュニケーションも可能になる。
また、宛先を指定しない発信であっても電波が届くエリアが限られるため、例えば同一施設内の携帯端末を持つ人、あるイベントに集まっている人といった、近くにいる人との間だけでのコミュニケーションもできるようになる。
なお、端末での情報の大量長期保管は想定しない。基本的には表示および転送用の一時的なキャッシュとして端末内に保存し、セキュリティ面に配慮する。
バスの運行中にも発信すべき情報は随時各地にある端末に入力される。入力された情報はすぐに送信され、受信可能な位置にいるバスや携帯端末、屋内/屋外端末などが受信するとすぐさま他端末に転送される。これをくり返し、マルチホップ型でネットワークのエリアを広げ、情報を拡散、周知させる。これは「蓄積転送型通信」の一種だ。
バスは、この情報のバケツリレーのバケツに相当する役目を果たす。もちろん、バスの代わりを人間が持つ携帯端末が果たすこともできる。
もう1つの実験エリアは、京都府精華町のけいはんな学研都市地区だ。こちらでも同様にバスを用いた実験を行う他、自動販売機ベンダーの協力を得て、バス路線内の自販機に温度、湿度、照度などの気象情報測定センサーを設置する。取得した情報を局所的な気象情報サービスに利用するとともに、インターネットに接続可能な屋内端末に吸い上げてNICTの情報解析サーバに送信、収集ルートや情報拡散効果などを確認できるようにした。
東京はビルが通信の障害となる「都市型」通信の課題、京都は低い山が障害になる「郊外型」通信の課題が集積され、その分析の結果を見てシステムの改善や強化が行われる。
PACは他にさまざまなユースケースが考えられている。例えば次のようなケースだ。
これらのユースケースを低コストに実現できるのがポイントだ。その主な理由は、インフラレスであること、既にチップの量産化が進むIEEE 802.15.4gが利用できることだ。
また、通信経路の確立が不要なブロードキャスト型通信であるため帯域圧迫が起きず、900MHz帯の利用可能帯域の狭さが問題にならないことや、輻輳(ふくそう)の可能性が少ないこと、マルチホップ可能な蓄積型転送方式なのでカバーエリアを簡単に拡大できることなども、こうしたユースケースを想定できる根拠になる。
これらユースケースを見ればユーザーにとってのメリットは明らかだろう。行政組織では安上がりに新しいサービスを提供できる魅力がある。バス会社やタクシー会社は、車内の情報表示端末へ位置に関連した広告を表示でき、広告収入が見込める。端末を設置する商業施設などでも、サイネージによる交通情報サービスなどの他、クーポン配信などのマーケティング施策、あるいは分析に役立てられるだろう。
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