さて、このような光スイッチング機能や蛍光発生機能をもつタンパク質が、どのように応用できるのだろうか。発見者の成川氏自身も応用の途を模索中で、ゆくゆくはITへの応用も視野に入れて幅広い用途の提案や研究のヒントを求めているところだ。
既にガラス上への同タンパク質固定の技術は開発済みだ。さまざまな実験が可能な状況にあるといい、本稿の読者の皆さんからの提案や意見をいただきたいとのことだ。とはいえ、すぐにでも応用可能な領域が3つある。
1つは、従来行われてきた生物の細胞内の分子の働きを可視化する光プローブだ。これまでは比較的短波長の青や緑色などの光を吸収し、蛍光を発するタンパク質を、遺伝子工学技術を使ってマウスなどに導入し、例えばガン細胞を発光させるなど生体内の細胞動態を観察する目的に使われてきた。
しかし、生物の体内のメラニンやヘモグロビンなどにより多くの光が途中で吸収されてしまうため、体内の深部の細胞の観察が難しかった。今回の発見により遠赤色光が利用できるようになると、他の色素に影響されることなく生体内の深部にまで到達させられ、より深いところの細胞の状態(分子動態)が観察できるようになる。
また、観察するばかりでなく細胞の制御も可能だと考えられている。例えば、2014年8月の理化学研究所の発表によれば、マウスの特定神経細胞に光感受性のあるタンパク質を遺伝子工学によって発現させたところ、その神経細胞群に光を当てることで神経細胞群を活性化させたり抑制したりすることができるという。
実験では、マウスの外部から光を当てるとマウスが活発に走り出し、別の光を当てると活動がおさまった。これは「嫌な出来事の記憶」を「楽しい出来事の記憶」に置き換えることにつながると研究者は説明し、その脳内メカニズムが分かればうつ病の新しい治療法の開発につながる可能性がある。
細胞の特定の領域のみに光を照射することで、その領域のみで生物活動を活性化できることから、光の当て方を変えれば、細胞を移動させられることも実証できており、組織の修復など医療への貢献も期待できそうだ。
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