コンシューマ向けのウェアラブルデバイスの多様化は進んでいるが、実際に一般の人々まで普及するにはしばらく時間がかかる。それよりも先行してビジネス利用が始まっている分野は、企業や組織内の「フィールドワーカー」と呼ばれる、動き回って業務を遂行する人々のIT武装の領域である。
図2は企業内従業員向けウェアラブルデバイスの応用事例の典型例を類型化したものである。小売業や倉庫、工場内での商品や部品のピッキングなどの現場での指示を作業中に出したり、接客を行う店員や屋外の作業(フィールドサービス)に従事する従業員の状況を把握したり作業指示を出すといった使い方が多い。
いずれの場合も「1カ所にとどまらず動き回って業務を行う人」「作業や機械のオペレーションなどのために両手がふさがることが多い人」であり、これまでPCやタブレット端末などによるIT化の恩恵を受けにくかった人々である。ウェアラブルデバイスの特性を生かし、ハンズフリーでいつでもどこでも使えるという強みを生かしたフィールドワーカーの生産性向上への取り組みが始まっている。
特に日本でウェアラブルデバイスの企業向けソリューション化が進んでいるのは、部品や商品などのピッキング作業の支援である。メガネ型ウェアラブルデバイス(スマートグラス)やスマートウォッチにその日の作業指示やピックアップすべき部品のリストを表示し、倉庫内のピッキング業務を支援するソリューションが複数登場している。
さらに、ウェアラブルデバイスとRFIDリーダーを組み合わせ、指定された部品を手に取るとRFIDタグに反応して正しい部品をとりだしたかを判断し、NGであれば正しい部品を表示する、といった高度な作業支援を行うソリューションも市場に投入されている。
実際にこのようなウェアラブルデバイスを活用した仕組みは、病院の手術器具の準備や自動車メーカーの部品のピックアップ作業などに使われ始めている。これまでは指示書やタブレット端末などを見ながら倉庫内を移動し、目視で目的の器具や部品を取り出して後からチェックをするというのが通常の工程だったが、作業中に指示書から離れて作業をする段階で勘違いなどのミスが発生する余地が残っていた。
ウェアラブルデバイスを利用することで、ハンズフリーで常に指示が目に入り、センサーによって人間の判断だけでなくデジタルデータによって部品の識別ができればミスは削減される。ミスが許されない病院のような現場では熟練者に頼らなくてもピッキング作業が迅速にできるようになったという。
企業内でのウェアラブルデバイスの利用は、コンシューマ向けのウェアラブルデバイスの利用とは異なり、業務品質の向上や作業効率の改善などの効果が明確なため導入効果を見積もりやすい。GoogleもGoogle Glassの一般販売は終了したが、今後は法人向けの用途に絞って開発を進めていくとアナウンスしており、ウェアラブルデバイスの第一のビジネス適用の普及の波は、これまでITが十分に支援してこなかったフィールドワーカーの支援の分野になりそうだ。
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