ネットワークカメラがアナログカメラと決定的に異なるのが、カメラ自体にCPUを搭載し、本体自身でソフトウェアによる各種のデータ処理ができることだ。画像処理や通信処理のほか、各ベンダーの独自ソフトウェアによりさまざまな「インテリジェント機能」が実現している。主な例を図6に掲げる。
図中の幾つかは「動体検知」機能と一括されることもあるが、時間と映像変化の情報により人や物品の有無や動きの有無、移動の方向などをリアルタイムに解析するものだ。
例えば立ち入り禁止のエリアに人や動物、車などが侵入したらそれを検知するのが侵入検知で、検知次第、アラート発報が可能だ。即座に保安手段を講じたり、そのまましばらく行動を監視したりする。たとえ侵入時点でのアラートに気付かなくとも、レコーダー側には発報履歴が保存されているので、アラート表示をクリックするとその時点での映像を再生するというように、状況確認(動画の検索)が効率的に行える。
ラックなどに保管している物品の持ち去り、不審物の置き去りといった行動は、室内の平常状態からの変化として検知できる(物体検知)。指定方向への移動の検知(方向検知)も同様だ。また、カメラ撮影に対する妨害行為のパターンもいくつかあるそうで、その妨害行動を検知する機能を持つ機種もある。
インテリジェント機能の中でも注目度が高いのが「顔認識」。録画映像から登録された人物を検出してアラート発報したり、類似人物を映像データから検索したりすることができる。注目した人物の行動は複数のカメラ映像をまたいで追跡可能だ。危険人物検知の他、重要顧客が店舗に入店したら、売り場で担当者がすぐに応対できるようにするなど、保安目的以外の活用も可能だ。
また映像から年齢・性別を推定する技術も搭載されるようになり、マーケティングに生かせる情報が抽出できるようにもなっている。プライバシー保護(後述)には注意が必要だが、利益に直結する可能性が高い機能だけに、その精度や性能および、情報の利用に関する社会的コンセンサスの行方には今後注視していく必要がありそうだ。
なお、指定ラインを指定方向に越えたことを検知(ラインクロス検知)する機能をベースにすると、例えば何人がそのラインを超えたか、どちらの方向に移動したかの統計をとることもできる。移動せずに長時間滞留している人の状況も把握可能だ。こうした機能を利用すれば、例えば駐車場の利用状況の詳細分析や、店舗の入店者数や売り場動線の分析、広告やアート作品の前で足を止めている人の割合など、マーケティングに生きるデータが簡単に収集できる。
ただし、このような防犯目的とは異なる目的にカメラ映像を利用する場合には、後述するようにプライバシー権や肖像権への配慮が必要になる。被写体となる人全員の同意を得るのはビジネス用途では非常に難しいため、ネットワークカメラの中には映像を加工して人物が特定できないようにした上、統計的な情報としてのみ利用できるようにするものがある。図7に示すような「動体除去」機能、図8のように人の移動や滞留状況を色で表す「ヒートマップ」機能などを利用すると、マーケティングに有益な情報が、法的あるいは道義的にも問題なく入手できる可能性が高い。
イズやかすみ、ブレ、逆光や突然の発光によるコントラスト悪化などを自動補正する「画像鮮明化」機能を備える機種も多い。音声記録ができるカメラでは「人の悲鳴」と推測される異常音を検知する「悲鳴検知」機能を持つものもある。インテリジェント機能はベンダー各社が工夫を凝らしている部分なので、製品選定のポイントとなる部分だ。
例えばカメラで捉えた顔を認識して入退室認証に用いたり、出社・退社情報の登録(勤怠管理)に役立てたりと、顔認証はかなり広く用いられるようになってきた。この技術を応用すれば、テロリスト(顔データが登録済み)発見や不審人物の行動追跡が可能なため、東京五輪の保安対策としても有望視されているのだが、一方でマーケティング分析など企業利益追求のための基礎データとしても有用であることは間違いない。しかしそれにはプライバシー権や肖像権の壁がある。
法的に未整備な部分が多いのが問題で、少なくとも顔画像は容易に他の情報(SNSなど)と突合して本人が突き止められる可能性があり、企業利益のための利用は受け入れられるものになっていないのが、日本社会の現状。生体の特徴をデータ化したものも個人情報と見なされ、こちらは個人情報保護法でも保護すべき情報とされている。ビジネスで顔画像や特徴データ、あるいは歩行の様子など、個人が特定される可能性がある情報を利用する場合には、必ず本人の同意が必要と考えなければならない。
防犯、セキュリティ用途ではどうかといえば、いわゆる盗撮などを罰則つきの条例で禁止している自治体(例:神奈川県)でも、そこまでは規制していない。防犯・セキュリティ目的での撮影・情報保管は社会的認知を受けていると考えて良さそうだ。それ以外の利用のためには、本文で紹介したような、カメラ側での自動情報加工により、本人特定の可能性を除いた状態で保管・利用する必要がある。ただし法的にも社会的にも確たるコンセンサスが成り立っているわけではなく、今後ますますの議論が求められる。
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