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「カスタマーサクセス」のメリットとは? “おじさん世代がもの悲しくなる理由”も併せて解説

最近よく聞く「カスタマーサクセス」は、導入サポートと何が違うのか。カスタマーサクセスツールが電子メールやSlackによるやりとりよりも優れている点とは。かつて導入サポートを担当していた筆者が解説する。

» 2025年06月27日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 かつて業務基盤を導入する際は、自社が調達した環境にインプリメンテーション(実装)するのが当たり前だったが、SaaSは短期間で気軽に導入できる。ソフトウェアが所有を前提とする買い切り型から月額利用料を支払って利用するものへと変化した今、サービスを提供する営業部隊にも“変化の波”がきている。

「カスタマーサクセス」と「導入サポート」、一体何が違うのか?

 とあるSaaSベンダーから、最近カスタマーサクセスツールを導入したという話を聞いた。

 カスタマーサクセスツールの一般的な使い方に比べて“前のめり”な姿勢が感じられる同社の例を紹介する前に、まずカスタマーサクセスと導入サポートは何が違うのかに言及したい。

 カスタマーサクセスとは、顧客に成功体験を積んでもらうために実施するさまざまな支援のことで、従来のサポート部門のような問い合わせを受けて対応する受動的なサポートではなく、ユーザーの活動を把握した上で、必要なタイミングを見計らって能動的に情報提供や提案活動を実施するものだ。

 特にSaaSのような月額課金のサブスクリプションサービスの場合、カスタマーサクセスは重要だ。「解約せずに使い続けてもらうように支援し続ける」ことで、長期的に利益を確保できるからだ。

 そのためにはサービスの価値を常に感じてもらうことで解約率を低減させ、継続率を高められるようにしなければならない。カスタマーサクセスツールを紹介するWebサイトには、「LTV(顧客生涯価値)最大化」「解約率低減」「継続率向上」などの文言が並ぶ。

 多くの企業が導入を検討するカスタマーサクセスツールだが、今回の取材先企業における使い方は少し意外だった。カスタマーサクセスの活動は、前述したように顧客がサービスを導入した後の利用状況を踏まえてスタートするのが主流だが、この企業ではサービス利用初期のオンボーディング領域からカスタマーサクセスツールを使い始めるという。

 具体的には、サービス契約直後から「ユーザーマニュアルを見る」「使い方をレクチャーする動画を見る」「顧客企業に関する情報を設定する」といった標準化されたプロセスを顧客のタスクとして設定する。そのタスクの進捗(しんちょく)状況をカスタマーサクセスマネージャーが把握して、顧客にタスク消化を促すのだという。利用開始から数カ月たっても利用が進まない顧客にアプローチするわけではなく、契約直後から始まるという“前のめり”な活動を実施している。

 サービスを活性化させるためには、とにもかくにもユーザーがSaaSを触らなければならない。特に初動の印象がサービス継続率に大きく影響するらしい。「いかに早い時期に価値を感じてもらうかが重要なポイントだ」と教えてくれた。

 カスタマーサクセスツールは具体的にどう使われているのか。顧客とタスクに関する情報を共有しながら進捗状況を把握し、顧客がきちんと利用できるところまで併走するといった一連の流れにおけるコミュニケーション基盤としての要素が強いと筆者は思う。

 そこで、「『Slack』でチャンネルを立てて、顧客とタスクの進捗状況を共有するのと大きく変わらない気もする」と伝えたところ、「属人的なコミュニケーションではなく、標準的なプロセスとして顧客と一緒に進めていくのが重要だ。社歴が浅いメンバーであっても、カスタマーサクセスツールの利用を通じてオンボーディングが高い水準で進められるのは大きなメリットだ」という答えが返ってきた。なるほど、顧客を巻き込んだプロセスを標準化する上でも役立つわけだ。カスタマーサクセスツールは、なかなか奥が深いソリューションだといえそうだ。

苦労して受注した顧客を手放すなんて……

 企業によっては、カスタマーサクセスをメインに担当する部署を新設したところもあれば、導入支援を担当するサポート部隊が以前よりも能動的に活動してカスタマーサクセスを体現するところまである。組織の在り方はさまざまなようだ。

 ただ、20年以上前に新人営業マンとして働いていた筆者にとっては、少し物悲しい気もする。せっかく受注した顧客をすぐに別の部隊に引継ぎしなければならないからだ。顧客と苦労しながらインプリして運用を軌道に乗せるまで営業マンがフロントに立つなんてことは、既に過去のものになりつつあるのかもしれない。

 当時一緒に苦労した顧客とは今でも関係が続いている。こうした経験から、導入後の支援に営業マンとして関わるメリットはあると個人的には思っているが……。

 もちろん、カスタマーサクセス部門を持つ企業では、営業担当者の目標は「新規受注」に重心が置かれているはずで、導入決定後に顧客とかかわっても営業担当者の成果にはつながらない。大企業などの大口顧客は、“ハイタッチ営業”として営業部門が引き続き担当するケースも多いようだが、いずれにせよ営業担当者の評価指標の中心は新規受注になっていくのだろう。  

 SaaS時代の今だからこその営業スタイルやノウハウも知りたいところだ。


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