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顧客体験を向上させる「カスタマーサクセスツール」とは? CRMとの違い、ツール選定の勘所自治体だって“住民サクセス”を推進する時代へ

売るだけでなく、その後の顧客体験も重視される時代になった。そのカギを握るのが「カスタマーサクセスツール」だ。民間企業だけでなく、住民サービス向上のために利用する自治体も増えてきたという。

» 2023年12月18日 07時00分 公開
[酒井洋和てんとまる社]

 サブスクリプション型のビジネスモデルへの変革に取り組む企業が多い中で、従来の営業プロセスに加えて、受注後の継続的なビジネスを支援し、顧客価値の最大化を目指す「カスタマーサクセスツール」が注目されている。既存ビジネスへの適用も進むカスタマーサクセスツールのトレンドを見ていく。

ビジネスモデルの変化で重視されるカスタマーサクセス

 これまで顧客との良好な関係を生み出すためには、CRM(顧客関係管理)を中心としたマネジメントツールがその中心的な役割を担ってきた。現在もそれは変わらないが、これまでの売り切り型のビジネスから、定期的に利用料を支払うサブスクリプション型にビジネスモデルが大きく変化する中で、これまでCRMがカバーしていた商談発生から受注までのプロセスだけではなく、サービスの利用を継続してもらうための十分な支援が求められている。こうして契約後の活動を支えるのが、カスタマーサクセスの領域だ。

 カスタマーサクセスとは、商品やサービスを購入した顧客を能動的に支援し、成功体験を通じて継続的な利用を促し、顧客の生涯価値、いわゆるLTV(Life Time Value)を最大化するための取り組みを指す。もともとカスタマーサポートがその役割を担ってきたが、何らかの問い合わせがきっかけとなって顧客を支援するカスタマーサポートとは異なり、カスタマーサクセスは事業者側が自ら判断して顧客にアプローチする。顧客が利用を開始するために必要なオンボーディング支援や小さな成功体験を積んでいけるような使い方支援など、利用状況に応じて事業者側が能動的に働きかけていく。

 この活動によって既存顧客の満足度を高め、商品やサービスに対する期待値を維持、向上することが可能になる。このカスタマーサクセスがうまく機能しなければ、解約率を低減できずに売上低迷を招き、サービスの存続にも大きく影響する可能性がある。もともとは営業部門が顧客との間に立って実施してきたアフターフォローを強化し、最終的には契約数を増やすアップセルや、別のソリューションの契約につなげるクロスセルのアプローチを含めてカスタマーサクセス部門が担うことになる。

 今ではカスタマーサクセス専門の部隊が編成され、従来のカスタマーサポートは技術の専門部隊としてカスタマーサクセス部隊とともに行動する動きが増えてきている。

住民だってカスタマーだ 自治体やサービス業などでも採用が進む

 SaaSなどを提供するスタートアップ企業では以前からカスタマーサクセスの取り組みが進んでいるが、最近ではカスタマーサポートにより踏み込んで顧客を支援するカスタマーサクセスの考え方が取り入れられつつある。例えばコンサルタントやBPOなどのサービス業では、人材のパフォーマンスを見ながら発注先に対して最大の価値が提供できるように取り組みを進める企業もある。

 SaaSにおけるカスタマーサクセスでアクションを起こす基準となる情報は、サービスへのログイン率をはじめとした利用状況のセンシングデータなどが一例として挙げられる。もしサービスにログインしているメンバーが少なければ啓蒙活動につながる勉強会を実施したり、ログインしやすいUIに変更したりといったアプローチが実施されるわけだ。

 一方でサービス業のケースでは、カスタマーサクセスでアクションを起こす基準となる方法は、アンケートなどで取得した発注先からの評価や、メンバーのストレスチェックやスキルの状態をスコア化するものがあり、双方ケアすることで事業成果を最大化するアプローチがイメージしやすい。

 なお、カスタマーサクセスは企業だけの取り組みではない。地域課題の解決に尽力する自治体でも、カスタマーとなる住民に対して快適なサービスを継続的に提供するために、カスタマーサクセスツールを用いてさまざまな施策に取り組んでいるところもある。

 今では継続的に商品やサービスを利用してもらうためのカスタマーサクセスの取り組みが、多くの業界で取り入れられ始めていると言えるだろう。

CRMと何が違うの?カスタマーサクセスツールの現在地

 顧客中心のマネジメントツールとして多くの企業が利用するCRMだが、カスタマーサクセスとの違いについてみていきたい。

 一般的なCRMの場合、顧客からの問い合わせを起点とした案件管理をはじめ、営業の商談進捗(しんちょく)管理や受注に至るプロセス管理など営業部門が中心となって運用してきたことだろう。カスタマージャーニーも受注までの範囲にとどまっていた。そして受注後は営業部門からその管理主体がカスタマーサポート部隊に移るため、CRMはあくまで受注するまでのマネジメントツールという様相が強かった。

 しかし、SaaSなどのサービスは契約後に継続して利用してもらうことが利益の最大化には重要だ。導入作業からサービスの定着、活用支援など受注後のカスタマージャーニーも含めて継続的に支援する活動が欠かせない。ここで役立つのが、カスタマーサクセスツールだ。これまでのCRMの範囲を拡張させながら顧客との良好な関係を継続的に築いていくことになるため、カスタマーサクセス領域もカバーしてこそ真のCRMと言えるだろう。

図1 従来型のCRM領域とカスタマーサクセス領域(提供:ユニリタ)

カスタマーサクセスツールが持つ機能

 カスタマーサクセスツールが持つ基本的な機能は顧客情報を管理するCRM機能が中心で、顧客の利用状況を可視化するためのヘルススコア機能や、ダッシュボードに可視化された利用状況に基づいてカスタマーサクセス部門がアクションをするためのプレイブック機能、顧客の声を収集して改善につなげるためのVOC(Voice Of Customer)機能、そして利用状況などを収集するためのデータ連携機能などが主たるものだ。

CRM機能

 CRM機能は、従来の問い合わせ情報から受注に至るまでの営業プロセスを管理するSFAなどと連携した上で、受注後のプロセスを含めて顧客情報を一元管理するDBとなる。ソリューション単体でCRM機能が実装できるものはもちろん、「Salesforce」のような各種CRMツールと連携させることで、受注までのプロセスを含め、カスタマーサクセスツールで顧客情報を一元管理できるものもある。

ヘルススコア機能

 顧客情報をベースに、契約後のオンボーディング対応を含めた顧客へのアクションを管理し、顧客の利用状況に応じてヘルススコアを表示させるための機能だ。サービス内容に応じて測定値を設定し、スコアを基に顧客の状況を判断することで必要なアクションにつなげることができる。このヘルスクスコアはサービスの種類に応じて設計することが必要だ。例えばログイン率が一定の閾値を下回った場合にヘルススコアの数値を下げ、カスタマーサクセス部隊に対してアクションすべき内容を明確に示すことが可能になる。このヘルススコアは運用していく中で最適な閾値に調整してくことが必要だ。

図2 ヘルススコア画面(提供:ユニリタ)

プレイブック機能

 カスタマーサクセス部門がどのアクションをどのタイミングで実施すべきかを定義する機能で、CTA(Call To Action)と表現されることも多い。実際のサービス利用状況を基に再現性の高い成功体験をアプローチの指示書となるプレイブックに登録することで、タスクを自動生成し、組織として顧客に対する標準的なアクションにつなげることができる。アクションはある程度テンプレート化されているものもあるが、サービス内容に応じてチューニングすることで、顧客に対して一貫した体験を提供できる。

図3 プレイブック画面(提供:ユニリタ)

VOC機能

 問い合わせ管理をはじめ顧客とのタッチポイントで得られた情報を顧客の声として集約する機能だ。電話やメール、SNS、チャットなどとの連携によって、顧客にひも付いたコミュニケーション情報を管理できる。問い合わせから寄せられた要望を分析し、自社サービスの改善プロセスを動かすなどのアプローチにも役立てることができる。

データ連携機能

 顧客情報を一元管理するには、SFAはもちろん契約管理や販売管理、アクションにつなげるためのMAツールなど、さまざまなソリューションとの連携が重要だ。特にデータ連携機能は顧客情報を集約するために欠かせないもので、基幹システムを含めて既存システムと柔軟に連携できるものを選択する必要がある。

 他にも、顧客との良好な関係を維持するためにポータルサイトを提供して情報を発信し、顧客同士のつながりを支援するコミュニティータッチ機能や、Webサイトへの情報提供およびメール配信など継続的な活用を促すテックタッチの機能など、カスタマーサクセスを効率的に実施するための機能だ。

カスタマーサクセスツールの選定のポイント

 顧客の継続的な関係を良好に保ち、売り上げの最大化に向けて重要なツールとなるカスタマーサクセスツールだが、どんな視点をもって選定すべきなのか。

1.購入前も含めた顧客情報の一元管理が欠かせない

 カスタマーサクセスツールの多くは受注前の情報を持っていないものが多く、営業部門で活用されてきたSFAやCRMツールとうまく連携させることで、初期の問い合わせから最終的な解約に至るカスタマージャーニー全体が管理、可視化できるようになる。そのため、営業部門が利用する案件管理などの仕組みがどのようなものかを把握した上で、そのツールとうまく連携できるかどうかを探る必要がある。

 例えばSalesforceなどのプラットフォームを営業部門が利用していれば、そこで動くソリューションの方がシステム部門に依頼しなくても済み、設定だけでスムーズに顧客情報を集約できる。また、Excelで商談を管理している場合はファイル連携できるものが求められるはずだ。中には基幹システムにある顧客情報との連携が必要なケースもあるだろう。簡単に集約できそうでも、実際にはしっかりとしたインテグレーションが必要なケースが多いことは理解しておくべきだろう。

2.簡単にカスタマーサクセスが実現、とはいかない現実を知る

 カスタマーサクセスツールにはテンプレート化されたプレイブックが数多く用意されていて、そのルールに沿ってアクションを実施することでカスタマーサクセスの実現につながるとうたうソリューションも多い。しかし、顧客がおかれている状況や提供するサービスの種類、提供形態などによってそのプロセスは千差万別で、正解は1つではないことがほとんどだ。カスタマーサクセスで成功体験を積み上げていくためにも、プレイブックの改善に向けたプロセスをしっかりと運用できるものを選びたい。もちろん、テンプレートを参考に、自社に合わせてプロセスを作り上げることも大切で、変更含めた柔軟性を持ったソリューションを選択すべきだろう。

 自社のプロセスを磨き上げることが必要であり、カスタマーサクセスツールを導入すればすぐに成功できるという魔法のつえではないことは知っておくべきだ。

3.利用するカスタマーサクセス担当者が本当に使えるか

 継続的な売り上げを生み出すためのカスタマーサクセスツールは、しっかりと組織化した上で取り組むべき重要なソリューションの一つだ。ただし、どれだけツールの機能が優れていても、それをメンバーがきちんと使いこなせないと宝の持ち腐れになる。自組織でも十分に扱えるかどうかを見極めることも重要だろう。

 カスタマーサクセスツールを提供するベンダー側の支援内容はもちろん、自社が描くカスタマーサクセスのプロセスに実業務を当てはめた上で「誰がどのタイミングでどんな情報を入力するのか」「誰がどんなアクションを行うのか」を落とし込めるかどうかも確認したい。

4.顧客情報を扱うだけにセキュアな環境づくりを意識すべし

 サービスを契約する顧客情報を取り扱うために、情報ガバナンスや十分なセキュリティ対策が実装されているサービスを選ぶことは大前提だ。外部監査を受けたサービスが実装されているか、しっかりとした認証を受けているかといった基本的な部分は押さえておきたい。もちろん、自社のクラウドの利用規定などとも照らし合わせながら最適なソリューションを選択したい。

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