負担感が大きい一方で、多くの業務を自社でこなすことが多いヘルプデスク業務。「キーマンズネット」の調査から、運用の理想と現実のギャップが解消されない3つの理由が浮かび上がった。
多くの企業で情報システム部門が担当しているヘルプデスク業務。キーマンズネットでは「ヘルプデスク業務に関するアンケート」(実施期間:2025年7月7〜25日、回答件数:182件)を実施した。前編では、大半の企業が社内ITシステムに関する問い合わせやトラブル、アカウント申請への対応といったヘルプデスク業務に課題を抱えている一方で、業務の負担を軽減するヘルプデスクツールやBPOサービスの利用率はともに2割以下にとどまっている現状が明らかになった。
そこで、キーマンズネットは、ヘルプデスク業務を構成する「問い合わせの一次受け付け、内容の確認」「蓄積された問い合わせ内容の分析に基づく業務改善提案」といった主な作業を今後どのように運用するのが理想的だと考えているのか、それに対して今後実際はどのように運用することになるかを調査した。その結果からは、理想と現実のギャップと、そのギャップを生み出す背景が浮かび上がった。
まず、ヘルプデスク業務を構成する主な業務ごとに理想の運用方法を尋ねたところ、「ヘルプデスクツール」という回答と「BPO(外部委託)サービス」という回答の合計値では「問い合わせの一次受け付け、内容の確認」(46.1%)、「PC操作などの案内など、簡単な問い合わせへの回答、解決」(45.1%)が2トップに挙がった。この2つについては「社内担当者による対応」を理想とする割合を超えた。
反対に、約半数の企業が「社内担当者による対応」が理想だと回答した項目も3つあった。
「担当部署やベンダーなどへのエスカレーション」(53.8%)、「専門的、複雑なトラブル対応」(53.3%)、「蓄積された問い合わせ内容の分析に基づく業務改善提案」(48.9%)が上位に挙がった(図1)。
前編では、多くの企業からヘルプデスク業務に関する課題として、大量の問い合わせや問い合わせ内容の多様化、担当者のレベルのバラつきが挙がった。このうち、特に大量の問い合わせや問い合わせ内容の多様化との結びつきが強そうな「問い合わせの一次受け付け、内容の確認」や「PC操作などの案内など、簡単な問い合わせへの回答、解決」について、ヘルプデスクツールやBPOサービスで効率化することを理想とする企業が多いようだ。
一方、「専門的、複雑なトラブル対応」や「蓄積された問い合わせ内容の分析に基づく業務改善提案」といった、担当者のレベルのバラつきという課題と結びつきやすそうな項目については、ヘルプデスクツールよりBPOサービスを理想の運用とする割合が高い。相変わらず社内担当者で運用するという企業が約半数を占める一方で、専門のBPOサービスに委託するほうが効果的であると考える企業も一定数あるようだ。
今回の調査ではヘルプデスク業務の運用について、ここまで紹介してきた「理想の運用」(理想)の他に、「現状の運用」(現状)と「今後実際に実施されることが想定される運用」(今後)についても尋ねた。
この「理想」「現状」「今後」を比較して差分を分析したところ、まず「現状」と「理想」の差分が大きかったのは「問い合わせの一次受け付け、内容の確認」や「PC操作などの案内など、簡単な問い合わせへの回答、解決」「問い合わせ内容の蓄積、情報管理」だった。
ヘルプデスク業務の課題として「大量の問い合わせへの対応」に多くの票が集まっているように、こうした業務は負担が大きく、かつヘルプデスクツールやBPOサービスによる置き換えが可能な領域と一定認識されているようだ。
「現状」と「今後」で大きな差が見られたのは、社内対応では「担当部署やベンダーなどへのエスカレーション」や「専門的、複雑なトラブル対応」「問い合わせの一次受け付け、内容の確認」で、こうした業務も社内対応からの転換が進むと見られる。特に「担当部署やベンダーなどへのエスカレーション」については、今後の運用で「ヘルプデスクツール」(7.7%)や「BPOサービス」(9.3%)を選択する割合が現状よりも2ポイント以上高まっていることから、利用が進む可能性が高い。
「理想」と「今後」については、差分が小さいほど理想の姿と今後の運用方法が近いと見られる。「専門的、複雑なトラブル対応」「担当部署やベンダーなどへのエスカレーション」の2項目については差分が小さいことが分かった。難易度が高く時間を要することからか、前述した通り今後の運用について自社担当者での対応を想定している企業が多く、理想の姿との間に大きなギャップは生じていない。
実際の運用の在り方について、社内対応者の割合が唯一半数を下回ったのが「問い合わせの一次受け付け、内容の確認」だ。業務負担が大きく、高度なノウハウが必要とされないこの項目から運用改善に取り組む企業が一定数ありそうだ。逆に言うと、他の項目については過半数が引き続き、自社担当者による運用を想定しており、ツールやBPOサービスでの対応が日本企業の主流になる将来はなかなか見えない。
ただし、従業員規模別に見ると、5001人以上の大企業だけは例外のようだ。5001人以上の大企業は今後の運用についてほぼ全ての項目について、ツールとBPOサービスを合わせた割合が、社内担当者を上回っている。
特に、全体では社内担当者での運用が約6割に上った「専門的、複雑なトラブル対応」「担当部署やベンダーなどへのエスカレーション」について、5001人以上の大企業ではツールとBPOサービスを合わせた割合が、社内担当者の割合とほぼ拮抗、あるいは社内担当者の割合を上回った。このことから、2024年に調査したITSMツールと同様、ヘルプデスクツールやBPOサービスについても大企業を中心に利用が進むと見られる。
最後に「理想」と「今後」でギャップが生じた回答者にその理由をフリーコメントで聞いたところ、大きく3つの要因が見えてきた。1つ目は、専門ツールやBPOサービスを活用したヘルプデスク業務の効率化に対して予算が割かれる優先度が低いという理由だ。「理想としてはITツールやアウトソーシングによる外注だが予算がない」や「コストを掛ける優先順位が低いと判断されるため。従業員の教育による解決を求められる」との回答が多く、「予算などない(効果を表しにくいため)」や「業務負担や費用が見えづらく、適切な予算が計上されない」といった費用対効果を示しにくいといった背景があるようだ。
2つ目は、ヘルプデスク業務を改善する人材の不足を理由とする意見だ。「現状の社内IT対応は、担当者の技術力と善意で成り立っている」や「情報システム部がなく、総務部のシステム担当が対応している。中長期的視点に立った包括的な対応ができない」「社内システムの保守、総務・経理、機器保守メンテナンス、館内点検を兼務している。ヘルプデスク専任担当がおらず、ツールを導入しても使う機会が少ない」に見られるような「専門的知見のある人員・マンパワー不足」の課題から理想と実運用に差が生まれてしまうとの悩みも多く寄せられた。
関連して3つ目は、ツールやサービスを活用した効率化が理想ではあるもののツールを使いこなせないという理由だ。「ITツールは入れても定着するのが難しい、または利用者が使いこなせないなどの理由により、人手による対応になる」や「ツールを導入したいが、それ以前に従業員のリテラシーの底上げが必要だ」といった、専門ツールを導入しても使いこなせるかどうかを懸念する声が寄せられた。
過去に経験した「ヘルプデスク業務に関するトラブル事例」を募ったところ、やはり「ちょっと調べれば分かることなのに何でもかんでも問い合わせてくる」や「ネットで検索すれば解決する内容まで問い合わせが届き、自身の業務が進まない」「同じような問い合わせが繰り返し寄せられる」といったコメントが大量に寄せられた。
また、ヘルプデスク体制を構築しても問い合わせの質や量に大きな変化はなかったとする意見や、「簡単な質問は外部委託に一次受けを依頼したいが、社内で利用が浸透しない。また外部委託でも最終的に社内に戻ってきて従業員が対応する場合がある」といった、社内担当者の最終的な負担は変わらないとする声もあった。
ただツールを導入したり、外部サービスを利用したりするだけでなく、負担軽減をはじめとする成果につなげるためには、社内でのサービス利用の定着や、外部サービス事業者との運用方法のすり合わせが欠かせないことを頭に入れておきたい。
ちなみに、どちらも全体の2割ほどの利用率であったヘルプデスクツールやBPOサービスの利用企業に対し利用満足度を調査したところ、ヘルプデスクツールでは「ある程度満足している」(42.9%)が「やや不満がある」(11.4%)や「非常に不満がある」(5.7%)を大幅に超え、BPOサービスでも「ある程度満足している」(48.3%)が「やや不満がある」(10.3%)や「非常に不満がある」(3.4%)を上回った。
回答者数が少ないためあくまで参考程度だが、ITSMツールやBPOサービスに関する過去の調査結果ともある程度合致することから、利用者の満足度はおおむね高いと見てよいだろう。特に「情報システム部門」や「DX推進部門」などのヘルプデスク業務を担当する部門では約8割が「満足」としている点は、ツールやサービスの導入を検討する上でも重要だ。
特に大企業を中心にこれからツールや外部サービスの利用率が高まると見られる中で、ヘルプデスクツールやBPOサービスを活用する領域と、社内対応する領域とをうまく組み合わせることで、より効率的なヘルプデスク運用が実現できるはずだ。
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