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利用者が答えた、IT業務のアウトソーシングのメリデメ 「コスト以外」の懸念点とは?IT系BPOサービスの利用状況(2024年)/後編

約6割の回答者が「利用する予定はない」としつつも、実際に利用している回答者からは高い評価を受けているIT系BPOサービス。ユーザー、あるいは「利用する予定はない」と答えた企業がコスト以外に懸念している「意外なポイント」とは。

» 2024年06月13日 07時00分 公開
[キーマンズネット]

 ITシステムやネットワークの保守・運用といった定常業務に加えて、IT戦略やAI利用の浸透策の立案など情報システム部門に期待される役割が年々増える中で、負担をいかに軽減するかは重大な課題となっている。

 解決策の一つと考えられるのが、外部の事業者に情シス業務の一部を切り出して委託するIT系BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービス。前編では、認知度こそ7割を超えたものの、利用率は2割弱にとどまることが明らかになった。利用を阻む理由は何か、またサービス利用者の満足度やサービス事業者への要望とは。

 キーマンズネットが実施した「ITアウトソーシングサービスの利用状況に関する調査」(実施期間:2024年5月8日〜22日、回答件数:219件)を読み解くことで、IT系BPOサービスの現在地と、一部の業務は外注して集中させたいと企業が考える「コア業務」が浮かび上がった。

利用者から挙がった「意外な懸念ポイント」

 IT系BPOサービスの利用者にサービスの満足度を尋ねたところ、「とても満足している」(13.6%)と「まあ満足している」(65.9%)を合わせて約8割になり、満足しているとの回答が高い割合を占めることが分かった。

 前編で「(IT系BPOサービスを)現在利用しておらず、今後も利用する予定はない」との回答が約6割に上った一方で、実際の利用者の満足度は高い。利用者はIT系アウトソーシングサービスのどこを評価したのか。「利用している」とした回答者に満足、不満足とした理由を尋ねた。

 フリーコメントによる回答では、「対応が迅速」「特に大きな問題が起きていない」「トラブルが少ない」など、対応の早さや安定した運用を評価する声が多く挙がった。

IT系BPOサービスに対する利用者の満足度 IT系BPOサービスに対する利用者の満足度

 数は少ないものの、「自社では対応できない部分を比較的安価に対応してもらっている」「ヘルプデスク対応などの迅速化を図ることができた」「会社の合併という急激な事業環境の変化に対応できた」など、自社では対応が難しい業務を外注することへの満足感や、企業活動における課題への対応を評価する声もあった。

 一方、利用しているBPOサービスに不満があるとした回答者は、その理由として「IT知識が不足しており、対応に時間を要する」「対応レベルがあまり高くない」など、IT知識やスキル、経験不足に関する不満を多く挙げている。セキュリティ面への懸念も目立ち、「委託業者に対するセキュリティ教育や情報漏えい対策などに時間を要した」を挙げた回答者もいた。

サービス利用で懸念される「意外なポイント」

 IT系BPOサービスを利用するメリットを尋ねたところ、「不足するIT人材が補填できる」(55.7%)がトップに挙がり、「自社従業員をコア業務に集中させられる」(34.1%)、「従業員の時間外労働時間が削減できる」(26.1%)、「一時的に必要なIT人材を獲得できる」(25.0%)が続いた(複数選択可)。

IT系BPOサービスを利用するメリット IT系BPOサービスを利用するメリット

 IT人材の不足や今後予測される労働人口の減少を前にして、人的資源の「選択と集中」への貢献を期待する声が多く聞かれた。

 反対にIT系BPOサービスを利用するデメリットとして多く挙がったのが「業務ノウハウやナレッジが自社に蓄積されない」(37.5%)だった。「アウトソース化によってコストが割高になる」(28.4%)、「導入や運用引継ぎ時に想定以上の手間や時間がかかる」(21.6%)といったサービス利用に関して一般的にハードルになりやすいコストや時間よりも多くの回答を集めた。

IT系BPOサービスを利用するデメリット IT系BPOサービスを利用するデメリット

 なお、「(IT系BPOサービスに)やや不満がある」「とても不満がある」と答えた回答者に絞ると、約8割が社内にノウハウやナレッジが蓄積されないことへの懸念を示している。こうした不満を回避するためには、BPO事業者との運用設計時に、業務の管理状況や運用状態が委託先の中でブラックボックス化してしまわないよう、定期的に報告や進捗(しんちょく)共有の場を設けるなどの仕組みを運用フローに組み込んでおくことが肝要だろう。

企業規模別で異なる「情シスのコア業務」の捉え方

 IT系BPOサービスを利用するメリットとして「従業員がコア業務に集中できる」という声が多く上がった。人的資源の「選択と集中」が求められる背景には、IT人材不足の問題が大きいようだ。働き方改革による従業員の業務量調整や、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に合わせた専門人材の確保や育成などへの対応もあり、IT人材を適正配置する必要性は以前にも増して高まっている。

 そんな中、各社は貴重なIT人材が集中すべき「コア業務」について具体的にどのように捉えているのか。全体では「ネットワークの運用・管理」(42.5%)、「システム障害発生時の復旧や社内対応」(41.6%)、「システムの保守・運用」(38.4%)と、ネットワークやシステムの運用管理や復旧対応業務を挙げる声が多かった(複数回答可)。

 興味深いのは、従業員規模によって「何をコア業務とするか」が分かれたことだ。

 5001人以上の大企業帯では「システムの開発・構築」(38.6%)という回答が最多で、「PCなどの端末調達やソフトウェアのインストール、配布を含むキッティング業務」(36.8%)、「セキュリティ戦略、施策の立案」(35.1%)と続いた。

5001人以上の大企業が考える「情シスのコア業務」 5001人以上の従業員規模の企業が考える「情シスのコア業務」

 「データやAIの活用施策の立案、実行」(24.6%)、「自動化ツールの社内浸透策の立案、実行」(24.6%)、「要件定義や関連調査を含めたIT戦略の企画・立案」(21.1%)にも票が集まり、他の企業帯と比べて戦略の企画・立案をコア業務とする割合が高い傾向にある。

 一方、500人以下の中堅・中小企業では「社内インフラの保守・運用」(44.2%)、「ネットワークの運用・管理」(43.2%)、「システムの保守・運用」(38.9%)など、保守や運用管理といった実運用をコア業務と認識している企業が多いことが分かった。

500人以下の中堅・中小企業が考える「情シスのコア業務」 500人以下の中堅・中小企業が考える「情シスのコア業務」

 ちなみに、中間層となる1001〜5000人の大手・中堅企業帯では「システム障害発生時の復旧や社内対応」(40.2%)、「ネットワークの運用・管理」(38.1%)、「PCなどの端末調達やソフトウェアのインストール、配布を含むキッティング業務」(35.1%)が上位に続いており、企業規模によって重視する課題も異なることから、情報システム部門におけるコア業務の捉え方にも違いがあることが分かる。

「もっとシンプルに、もっと安く」 中小企業からの要望

 IT系BPOサービスについては、冒頭のように社内にナレッジが蓄積されなくなったり、想定以上にコストがかかったりするなどの懸念もあってか、冒頭でもふれたようにサービス利用率は回答者全体の2割弱にとどまっている。

 では、ユーザーはIT系BPOサービス事業者に向けてどのような要望を持っているのだろうか。

 事業者選定で重視するポイントとしては「導入・運用実績の豊富さ」(17.0%)、「運用コストが自社に適している」(15.9%)、「費用対効果が見込めた」(12.5%)が続き、成功実績の豊富さや運用を適切にサポートするノウハウを持つ事業者が選ばれているようだ(複数回答可)。

 反対に、サービスの乗り換えあるいは利用中止の決め手となったポイントとしては「サポート体制が貧弱」(83.3%)、「導入実績から期待したサービス品質に満たなかった」(50.0%)、「ITサービスの専門性に不満があった」(33.3%)が上位に並んだ。IT系BPO事業者のサポート体制や専門性が成否を分けるポイントになっている様子が読み取れる。

 最後に少し角度を変え、前編で全体の59.8%存在した「現在利用しておらず、今後も利用する予定はない」を選んだ回答者に対して、IT系BPOサービスや事業者に期待することを尋ねたので紹介したい。

 まず最も多かったのはコストに対する要望だ。「中小企業なので予算が厳しい」「よりシンプルなサービス内容で低価格帯の料金プランを作ってほしい」「規模感に合わせて費用の調整がきくようにしてほしい」といったコメントが並ぶ。中には「中小企業なので予算が厳しいなか社内で何とかまかなっているが、退職者が出るたびに苦労している」と、人手不足からの苦労がにじみ出るコメントもあった。

 近年、特に求められる費用対効果を示してほしいとの要望も目立った。「費用対効果がしっかり出せなければ話にならないので、そこをもっと明確にしてほしい」「人件費とランニングコストを分かりやすく比較できるようにしてほしい」といった回答からは、他の設問への回答でも見られたように、「サービス内容とそこにかかるコストが把握しづらい」という点が浮き上がる。IT系BPOサービス事業者が想定している以上に、ユーザーにとってBPOサービスはその内容とコストが明確になっていないと感じている可能性がある。

「情報システム部門は何をする部署なのか」が問われている

 数は少ないが、興味深い回答を幾つか紹介すると、「外注を出す業務振り分け、コスト効率の最適解を提案してほしい」のように、業務の可視化から課題抽出、業務振り分けから運用設計まで全体最適を図るためのコンサルティングを求める意見や、「ITリテラシーがある程度問題ない企業ではアウトソースする必要性は全く感じないが、そもそも日本的企業はIT業務に対するコストを経営陣が一番削減したいところで考えてしまう傾向に感じる。マネジメント層への意識改革が一番重要かと思う」といった、上位層の学習不足や意識改革の必要性を訴える声もあった。

 中小企業に勤務する回答者からは、サービス利用を予定していない理由として「ワンマン社長が説得できない」といった、経営者や上層部を説得するのが難しいという回答も複数挙がった。事業規模の大小にかかわらず、情報システム部門をコストとみるか、今後の経営を左右するIT戦略に関わる重要部署とみるかでBPOサービス利用への考え方も変わるのかもしれない。

 以上、企業におけるIT系BPOサービスの利用状況の調査結果を紹介した。働き方改革やDXなど社内外の環境変化に対応するため、BPO市場は今後も活況を呈すると予測されている。BPOサービスも多種多様になっているため、自社の課題に応じて適したサービスを選定したい。

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