Microsoftは2025年8月に「Microsoft Excel」の新関数として「Copilot関数」を発表した。Excelのセルに「=COPILOT()」と記入すると、生成AIがテキストを出力する。実際に触ってどんな活用方法があるか探ってみた。
Microsoftは2025年8月に「Microsoft Excel」の新関数として「Copilot関数」を発表しました。Excelのセルに「=COPILOT()」と記入すると、生成AIがテキストを出力します。この機能が先行して使えるようになりました。
Copilot関数は本稿公開時点では、一般に公開されていません。利用するには対象のサブスクリプションプランを契約した上で、新機能のテストができるプログラム「Microsoft 365 Insider」に参加する必要があります。追加費用はありません。
今回は、筆者がプライベートで契約している「Microsoft 365 Premium」プランで試してみました。
Copilot関数は「=COPILOT("プロンプト",範囲)」のように記述します。データを読み込ませたい範囲を指定して、そのデータに対して実行したい内容を書きます。プロンプトは日本語でも問題なく動作しました。
Copilot関数は非常にシンプルな機能で、その出力内容は「ChatGPT」や「Gemini」など、他の生成AIと大きく変わるものではありません。実際、同じような作業であれば、わざわざExcelで実行する必要はないと感じる方もいるかもしれません。ですが、オートフィルとの連携ができる点は大きな違いです。
複数のデータに対して同じ内容の処理を一気に適用する作業なら、Copilot関数が適しています。一番分かりやすいのが翻訳です。試しに、キーマンズネットが10月に公開した記事の一覧を作り、そのタイトルを一括で英語に翻訳してみます。
タイトルの一覧をシートのA列に入力し、B1セルに以下の関数を入力します。
「=COPILOT("translate japanese to english",A1)」
すると、B1セルに英訳された記事タイトルが出力されます。B1でオートフィルすれば、全ての記事の英訳タイトルが一瞬で示されます。生成にはラグがありますが、スピードは気になるほどではない印象です。ただし、生成回数には制限があり、10分間で100件以上Copilot関数を実行するとエラー表示「#CONNECT!」が表示されます。
Excelでは数値を高度に操作できる多様な関数が用意されていますが、自然言語のような柔軟な表現の扱いには限界があります。Copilot関数なら自然言語のカテゴライズもできます。
今度は、サンプルとして用意した架空の記事タイトルを50個用意して、Copilot関数で記事ジャンルを判定してみます。関数は「=COPILOT("記事ジャンルを判定してください",A1)」です。
こちらも一瞬で50記事のカテゴライズができました。問題はカテゴリーの統一性が出ない点です。プロンプトで「ビジネス」「技術」「市場動向」などの選択肢を明示しないと、適切な分類が難しくなります。
今回は記事タイトルの分類で使いましたが、例えばアンケートの感情分析や内容による分類などにも使えそうです。
Excelにさまざまなシステムから収集したデータをまとめると、数字の表記ルールがぶれていて修正が面倒なことがあります。既存の関数や機能でも対応はできますが、Copilot関数なら「=COPILOT("数字の表示形式を統一してください",範囲)」で、桁区切りのカンマの有無や、半角全角を統一できます。
他の関数の機能もこれで再現できることがあるのですが、こればかりやっていると他の関数を忘れる恐れもあります。また、さすがにデータ数が増えると動作が重くなったり、出力の厳密性を説明できなくなったりする可能性があるため、数値の操作に使うのは避けた方が無難でしょう。
Copilot関数では簡単なデータ分析もできます。今度は架空の記事50本分の「タイトル、記事ジャンル、公開日、閲覧数、広告クリック数、流入元からの流入数」をまとめたデータを用意しました。これらの記事にCopilot関数を適用して「閲覧数が1万回以上ならよく読まれた理由を分析、1万回未満ならよく読まれそうなタイトルを出力する」という操作をしてもらいました。
「=IF(D15>=10000, COPILOT("Analyze why the PV is high based on this row in japanese", A15:H15), COPILOT("1万PVを達成できそうなタイトルを生成",A15:H15))」
ただし、品質にはやや課題が残ります。例えば、1万PVを超えた架空記事「市場分析が買えるビジネスの現在地──最新動向」については、次のように分析されました。
記事の内容が市場分析に関する最新動向を扱っており、ビジネス分野で関心が高いテーマであるためです。5208のユニークユーザー数と3008のリピーター数が示すように、多くの読者が記事に興味を持ち、繰り返し訪れていることもPVの高さに影響しています
与えている情報が限られていることもありますが、分析内容には深みが欠けています。リピーターについてはデータから読み取ることはできず、でたらめです。
例えば、1万PVを切った架空の記事「人材不足が買えるビジネスの現在地──事例まとめ」に対し、「人材不足が変えるビジネスの現在地──成功事例と最新対策で1万PV突破へ」というタイトル案が提示されましたが、品質としては疑問が残ります。ただ1万PVと書けば達成できるという安直な発想に見え、実質的な改善にはなっていません。
プロンプトは十分に考えて作るべきです。ただ、そんなことをしている暇があれば、もっと有意義な分析ができる気もします。
Copilot関数は、数値も日付も文字列も全てまとめて読み込めます。先ほど使った架空の記事一覧全体を範囲として指定し「データを総合的に見て、9月のレポートを書いてください」と指示すると、以下のような表を出力しました。
データを集計して一覧にするとともに、まとめとして「9月はデバイス関連の記事が特に人気で、PV数・広告クリック数ともに高い傾向が見られました。AIやビジネスも注目されており、流入元Aが最も多い流入経路となっています」というコメントも出力されました。簡易的なレポートとしては悪くないのではないでしょうか。
Copilot関数はこのようにさまざまな使い方があります。動作も遅くなく、使用感としては不満はないのですが、品質が不十分な印象はあります。これはプロンプトの質もそうですが、まとめられるデータの量や深さが、1つのExcelファイルに収まる範囲に制限されることも、要因の一つかもしれません。
途中の例で取り上げた記事一覧データでは、Copilot関数による分析も内容が浅く、説得力に欠けました。とはいえ、より深い分析を実現するには、それに見合う情報量をこのデータベースに追加できるのかという点が問われます。
過去のデータを参照できるようにするとともに、人気の検索ワードといった外部指標も取り入れることで、より実用的な分析が可能になります。例えば、「需要はあるのに記事が出せていない」「読まれるはずのジャンルなのにヒットがない」「2024年もこの時期に読まれていた記事が、2025年でもやはり読まれている」といった傾向を把握できれば、Copilotなどの要約・分析機能も実務で使えるレベルに近づくはずです。
Copilot関数が実際に広く一般に公開されたら、いろいろ試してみてください。
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