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従業員の“お守り”はもう卒業 情シス業務を効率化するツールを価格別に紹介ITSMツール【前編】

「DX推進やAI導入などの施策立案を求められているのに、日々のIT関連の“お守り”業務に追われている」と悩む情シス担当者は多い。業務負担が重くなるばかりの情シスはツール利用で救われるのか。

» 2025年03月10日 07時00分 公開

 業務システムのクラウドシフトが進み、ハイブリッドクラウドの浸透によってオンプレミスとクラウドの混在環境を管理する手間があるなど、企業の情報システム部門(情シス)の業務はますます煩雑になっている。

 こうした情シスの負担を軽減する選択肢の一つが、各種ITサービスの情報を統合し、一括で管理するSaaS管理ツールや、ヘルプデスク業務をサポートするツール、そして「ITサービスマネジメント」(ITSM)ツールの利用だ。

 だが、キーマンズネットが実施した読者調査(「情シスは多忙でも『あのツール』は使わない おカネ以外の3つの理由とは?」)によると、ITSMツールについては「ITSMツールが何であるかが分からないため、判断できない」という回答が多く寄せられた。 

「SaaSが増えすぎて管理できない」「大量の問い合わせをさばけない」をどう解決する?

 まずはツールの導入メリットを見てみよう。

 増え続けるSaaSの管理やユーザーからの大量の問い合わせにどう対処すべきか。これまで情シスはサーバやネットワーク機器の監視ツールを導入してログを確認したり、ユーザーからの「ログインができない」といったよくある問い合わせには回答のテンプレートを作ってすぐに答えられるようにしたりしてきた。しかし、監視対象が増えたために監視ツールが発するアラートや、増え続けるユーザーの問い合わせに手作業をベースにした対応マニュアルでは追いつかなくなっている企業が多い。こうした課題の一つの解決策になるのがツールの利用だ。

 SaaSや業務デバイスの管理プラットフォーム「ジョーシス」を開発・販売するジョーシスは、IT環境の変化と管理業務の状況を次のように語る。

 「情シスのITサービス管理における課題について、ここ数年で最も大きな影響を与えたのは、2020年から始まったコロナ禍におけるテレワークへの移行だと見ています。オフィスワークを強制的に在宅でこなさなければならなくなり、クラウドサービスの導入が急ピッチで進みました」

 例えば、法務部門では契約書管理や電子署名管理や電子署名サービスの利用が進んだ。加えて、2024年10月に施行されたインボイス制度などの法改正によって、経理部門に新しいツールを導入するケースも急増している。「法務、経理といった本社部門だけでなく、営業やマーケティング、企画部門などでも利用するクラウドサービスが増えています」(ジョーシス)

 ジョーシスによると、米国におけるクラウドサービスの利用は、コロナ禍前は企業当たり平均十数個だったのに対し、コロナ禍以降は100個を超えている。日本の大手企業もそれに近い状況だという。

図1 SaaS利用数の推移(出典:ジョーシスの提供資料) 図1 SaaS利用数の推移(出典:ジョーシスの提供資料)

 その結果、情シスの業務負荷が増している。管理対象が急拡大する一方で、IT管理者の異動や離職が増え、属人化した管理体制では追いつかなくなっているのが実態だ。

 ITSMツール「SmartStageサービスデスク」を提供するクレオに、情シス業務のあるべき姿について聞いたところ、次の3つに分類できるという。

 1つ目は「企業のITインフラやアプリケーションの運用管理」だ。ERPやSaaSなど、管理すべき対象が広がっている。2つ目は「従業員のサポート」、ヘルプデスクやサービスデスクといわれる部門の運営だ。そして3つ目が「戦略的なITの導入、立案」だ。ITの専門家としての経営にコミットしたITの導入や活用を提案し、主導する。こうした役割を果たすためにもITサービス管理(ITSM)の効率化、自動化は重要だ。

 そこで前編となる本稿では、ヘルプデスク業務、ITサービス管理をサポートするツールにどういうものがあるのか、情シスの課題解決にツールがどう“効く”のかを明らかにしつつ、予算によって異なるツールの選択肢を紹介する。

統合運用管理型やITSMツール、機能特化型ツール それぞれ何がどう違う?

 ヘルプデスク業務の支援やITサービス管理のためのツールにはさまざまなタイプが存在する。ジョーシスのようなSaaS管理に特化したツールもあれば、クレオが提供する「SmartStageサービスデスク」のようなITILに準拠したITSMツール、さらにワークフローなどと組み合わせた統合運用管理機能やエンタープライズサービス管理機能と併せてITSMを提供するものもある。これらはどう違うのか。次にまとめた。

ITSM機能だけでなく統合運用管理機能やエンタープライズサービス管理機能も提供するプラットフォーム

 全社共通のプラットフォームでITIL(Information Technology Infrastructure Library)に準拠したITサービスだけでなくITインフラや人事サービスやカスタマーサービスなども管理する。単一システムによるシンプルな運用や一元管理のメリットを享受できる。冒頭で紹介したキーマンズネットの読者調査で、利用率と認知度が最も高かったServiceNowの「ServiceNow」が該当する。

 さまざまな機能が利用できる一方で、導入費用が高くITリテラシーの高い人材を確保しなければならない。開発や運用には専用環境のコードを習得する必要があるなど、導入の難易度が高まることを許容できるかどうかが検討すべきポイントになる。

 大規模システムほどリスク管理やセキュリティオペレーション、ワークフロー、プロセスマイニング、チャットbotといったITSM機能以外のものも含めたさまざまな機能が統合されている。これらを合わせて利用できるため全社での運用の標準化や業務プロセスの向上が図れるが、特定のベンダーにロックインされる可能性もある。

ITSMツール

 ITサービスの提供や管理を効率化できるよう支援する。具体的にはインシデント管理や問題管理、変更管理、サービス要求管理、資産管理、ナレッジ管理などを担い、ITサービスの継続的な改善を可能にする。

 クレオの「SmartStageサービスデスク」やZendeskの「Zendesk for Service」、ZOHOの「ServiceDesk Plus」、アトラシアンの「Jira Service Management」はITILに準拠したツールだ。ITILに準拠するメリットは後述する。

機能特化型ツール

 機能特化型ツールを導入するメリットは、「今困っていること」に比較的迅速に、手ごろなコストで対応できるところにある。ジョーシスのようなSaaSやデバイス・アカウント管理や、「SeciossLink」などのID管理、「Zendesk」などのインシデント管理・サポートチケット管理システムなどが該当する。

 対応する機能が絞られるだけに、自社の課題解決のために必要な機能や管理したいデバイスやソフトウェアの範囲をまず絞り込む必要がある。導入のしやすさや管理画面の見やすさ、操作性などが製品選定のポイントになる。

ITILに準拠するツールを利用するメリットは?

 ここまでITサービス管理を支援する幾つかのタイプのツールを見てきた。中にはITILに準拠しているものがあるが、ユーザー企業にとってITILというフレームワークを利用するメリットはどこにあるのだろうか。

 限られた人的リソースでITインフラのインシデント管理や問い合わせに対応するために、運用プロセスを標準化するのに役立つのがITILだ。ITILとはシステム運用に関するベストプラクティスをまとめたライブラリーで、運用を標準化するためのフレームワークだ。最新バージョンとしてITIL4が公開されている。

 ITILをシステム運用に取り入れることで、運用プロセスや問い合わせ対応を標準化し、情シスの業務を効率化できる。属人化していた業務をなくし、担当者が異動や退職などで変わっても同じサービス品質を維持できる。

 「情シスが高品質なITサービスを迅速に提供できるようになると、それを使うユーザーの業務品質が向上します。ITILの導入によって最終的には企業全体の業務効率や、従業員の業務満足度の向上が期待できます」(クレオ)

 「ITILのフレームワークでは、ITの企画から運用のPDCAを回すところまで網羅されています。その全てを一から学び、企業全体に採り入れるのは、かなり大きなプロジェクトになってしまいます。そこでITILに準拠したITSMツールを導入することで、ツールを使いながら自然に運用プロセスを標準化できるのです」(クレオ)

 ITILに準拠したITSMツールを導入することでITSMの可視化および標準化が可能になる。そして、蓄積したナレッジを利用して生成AIなどを使った自動化もできる点がメリットだとクレオは説明する。

図2 SmartStageサービスデスクによるITSMの可視化(出典:クレオの提供画像) 図2 SmartStageサービスデスクによるITSMの可視化(出典:クレオの提供画像)

ITSMツールの導入コスト、運用コストを「松竹梅」で見ると?

 ツール導入を考える際にはコストも重要なポイントだ。企業規模や管理対象とするシステムの数、管理の粒度などに関係する。

松: 大企業の全てのITシステムを管理

 大企業で稼働する全てのITシステムを24時間365日管理する場合は、大規模な運用に耐えるITSMツールを導入する必要がある。初期費用に数千万円、月々約100万円がかかる。

竹: 主要なITSMツールの一般的な導入規模

 月額20〜30万円、年間の運用コストとしては百数十万円が中間のクラスだ。主要なITSMツールの一般的な導入規模は、この範囲に収まる。「ただし、導入時の費用はバラツキがあり、ニーズを反映させるとカスタマイズ費用として数百万円まで膨らむなど、思わぬコスト増に直面する可能性もあります」(クレオ)

梅: テンプレートを使ってそのまま導入

 ITSMツールのテンプレートを用いることで初期費用を10万円程度、運用コストを毎月十数万円に抑えることが可能だ。

 このように、コスト的には松竹梅の3つのクラスに分けられるが、企業の導入意図によって費用感は大きく異なることは注意が必要だ。

 「コストは、どの範囲までカバーしたいかによっても変わります。ジョブ管理やバックアップ、リカバリーなどの自動化を含めた統合運用管理なのか、それとも特定の機能に特化したツールを組み合わせるのかによって大きく変わります」(クレオ)

 ここまで、ヘルプデスク業務やITサービス管理業務における情シスの負担を軽減するツールについて価格帯も含めて紹介した。後編では、これらのツールの「いいとこ取り」という選択肢や、情シスの負担軽減に理解を示さない上層部を説得する方法、運用する上で注意すべきポイントを紹介する。

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