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情シスの負担、どう減らす? ツール導入を「余分なコスト」と見なす上司の説得法ITSMツール【後編】

業務量が増え続ける情シスの負担をどう減らすか。ツール導入を「それは余分なコストだ」と指摘される前にチェックしておきたい上司の説得法とは。

» 2025年03月14日 07時00分 公開

 IT戦略立案やAI活用施策の実行など、情報システム部門担当者(情シス)に求められる業務の範囲や量は増える一方だ。キーマンズネットの読者調査によると、人員不足感のある情報システム部門の4割が「人材の増減はない」と回答。業務範囲は広がり業務量が増えているが、人員は補充されないという状況に陥っている情シスは多い。

 こうした情シスの負担を軽減する一つの選択肢が従来型の情シス業務であるヘルプデスク業務やITサービス管理業務を支援するツールの導入だ。

 しかし、キーマンズネットの読者調査では、ツールの認知度も利用率も低いことが分かった。そこで前編では、ヘルプデスク業務、ITサービス管理を支援するツールの種類や概要と、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)のフレームワークをユーザー企業が利用するメリット、3段階の価格別に見たITSMツールの導入・運用コストを紹介した。

 後編となる本稿では、自社が抱える課題に沿ったツールの選び方や、運用面で気を付けるべきこと、ツールの導入や運用にかかるコストを「余分なコスト」と見なす上司の説得方法などに触れる。

 ツール導入時によく言われる「自社のITシステムのあるべき姿を考え、そこから逆算して導入する」というやり方がITSMツールに当てはまるかどうかにも言及する。

負担軽減にかかる費用を、「余分なコスト」と言わせないために

 前編では統合運用管理機能を盛り込んだプラットフォーム型やITSMツール、機能特化型のツールの特徴を紹介した。このうちのどれか1つを選ぶのではなく、組み合わせて「いいとこ取り」する選択肢もあるという。

 「せっかく導入したからと1つのITSMツールで全てのITサービスを管理しようとすると、かえって管理者の負担が増すケースもあります。場合によっては複数のツールを使い、社内のスケジューラーや『Slack』『Microsoft Teams』といったコミュニケーションツールの通知機能と連携させるなど、得意な部分を組み合わせる運用の方が課題解消に役立つケースもあります」(ジョーシス)

 ジョーシスは、クラウドサービスの管理におけるAPIの重要性を挙げる。「APIによってさまざまなSaaSを連携することで管理者の使い勝手が向上します。できるだけ多くのSaaSccccとのAPI接続に対応したITSMツールを選ぶことをおすすめします」(ジョーシス)

 API連携によって、ジョーシスで管理しているあるSaaS製品を削除したとき、そのSaaS製品の管理画面も削除され、使用できなくなる。また、近年は会社が利用を認めていないチャットbot型AIサービスや名刺管理サービスなどを、従業員が勝手にPCのWebブラウザから使用する例が目立つ。こうした際に、SaaS管理サービスを利用していれば、Webブラウザのアクセス情報から不正なサービスのログイン情報が検知され、管理者に通知される。

 これらの製品によって社内のITリソースを可視化することをジョーシスは推奨する。

 「ITSMツールはリソースの物理的な状態を管理するものだと考えられていますが、Webブラウザの履歴などから人とひも付けて可視化することで、社内で誰がどんなサービスを使っているのかが分かります。それが分かれば、セキュリティ上最も重要な問題から対策に着手するなど、管理方針を立てやすくなります」(ジョーシス)

 人にひも付けて管理することで、退職した従業員のアカウントを削除することで情報漏えいを防げる。こうした機能が必要かどうかも、ITSMツール選定の際にはチェックしたい。

「ITSMツールを導入したいが、社内を説得できない」 

 前編でも説明した通り、ITSMツールの需要は多数のITシステムやアプリケーション、デバイスなどを利用する企業、組織が中心になる。従来利用してきたサーバやPC、オンプレミスで稼働するシステムに加えて、クラウドサービスの利用が急増したことで、社内のITシステムを一括で管理するITSMツールが注目を集めている。

 しかし、経営層や業務リーダーの中には、「これまで入れてきたツールがうまく運用できていないから、それらをカバーするためのITSMツールが必要になった」と考えている人もいる。つまり、「余分なコスト」とみなされてITSMツールの導入が難しくなるのだ

 この誤解を解き、予算を確保するためにどうすべきか。ジョーシスが推奨するのが、ユーザーコミュニティへの参加だ。

 「ユーザー会などに参加して、成功している同業他社の話を聞き、それを自社に合わせるにはどうすればいいかを考えれば、『壁』を越える参考にできます。また、インボイスなどの法律改正にどう対応するかといった共通の課題も、解決のヒントになります。ITを管理する情シスの方々には、自社内に閉じこもるのでなく、積極的に外に出て情報を集めることをおすすめします」

サポート体制と、自社の運用体制を再確認する

 ITSMツールの選定には、機能面だけでなく、長期の運用に耐えるサポートが得られるかどうかも重要だ。

 「他の製品も同様ですが、特にITSMのようなツールは買って終わりではなく、日々の運用をいかに回せるかが大事です。運用の問題は社内だけでは解決できないことも多いので、いわゆるカスタマーサクセスがしっかりしているベンダーの製品を選ぶことが、重要なポイントになります」(ジョーシス)

 キーマンズネットによる調査(運用の『属人化地獄』に陥る情シスの共通点は? 調査で見えたリアル)でも、ITSMツールの運用は、自社だけでは難しいと考えている企業が多い。導入と運用の成功は開発ベンダーやパートナー企業の力量にかかっているといえる。導入前に、サポートの内容や期間などの基本的事項はチェックしておきたいポイントだ。

 「とは言え、ユーザー企業側も『お金を払っているのだからベンダーが何もかもやってください』と思考停止してはいけません。基本的には、自分たちで導入したものは自分たちで使えるようにすべきです。ベンダーやパートナー企業が提供するのは、それをクリアした上でのカスタマーサクセスだということは理解する必要があります」(ジョーシス)

 そのために重要なのが、運用における社内リーダーの確認だ。情シスの中で「誰がITSMに関する責任者で、誰がサブリーダーか」を明確にしてから、運用を開始しなければいけない。わざわざここで書くまでもない当たり前のことのように思えるが、「意外にもそこが曖昧なまま動き出すシステムが多い」と、ジョーシスは指摘する。

自社にフィットするIT管理ツールを選ぶには?

 ITSMに使えるさまざまなツールが登場する中で、自社に合ったものをどう選ぶべきか。

 ジョーシスは、自社の身の丈に合ったツールの選定を推奨する。「車に例えると、全てのユーザーが高級スポーツカーに乗る必要はありません。むしろ自分のライフスタイルには軽自動車が一番合うという選択も『あり』だと思います。ただし、安かろう悪かろうの製品も紛れています。多くのユーザーを抱えているなど、市場で正しく評価されている製品を選ぶ“目”を持つことが必要です」(ジョーシス)

 その際の選定ポイントで、先に述べた機能の選択や使いやすさなどに加え、もう一つジョーシスが挙げるのが「市場シェア」だ。

 「シェアが高い製品は、それだけ多くのユーザーによる実績を積み上げているということです。ユーザーの声によって製品の改善も進み、機能も追加されます。これは多くのユーザーによる収益から開発費を投入できるからです。逆に、名もないツールを選ぶと、それと逆のことが起きます。開発予算が少ないため、将来登場する新しいツールとの連携も実現できず、結局使い続けられなくなります」(ジョーシス)

「あるべき姿」から逆算して導入するハードルは高い?

 よく言われるシステム導入の形として、「最終的なゴールを先に決めて、そこから逆算して導入プロセスを開始する方法」が勧められるが、「ITSMツールについてはこのやり方は必ずしもベストではない」と、クレオは指摘する。

 「ユーザー企業自身がゴールの姿を描くことは難しいため、コンサルティング会社による導入提案を受けることになると思います。しかし、その費用は場合によっては年間数百万円といった額に上ります。コストが導入のハードルを上げているのであれば、導入のハードルを下げるためには、まずはスモールスタートすることをお勧めしています」(クレオ)

 クレオが勧めるのは、「問い合わせ対応」「インシデント対応」などの領域を絞り込んで、そこから導入を始めることで、着実に成果を確認しながら範囲を広げるというやり方だ。そのためにはスモールスタートが可能で、かつ拡張性もあるツールを選定することが重要になる。将来必要になりそうな全ての機能を網羅していないツールを選ぶ場合は、システム的に他のツールと連携できるかどうかを確認しておくべきだ、とクレオは指摘する。

 ジョーシスとクレオのコメントに共通するのが、まずは欲しい機能(導入目的)を明確にし、連携手段を持つツールを選ぶことだ。次に導入規模や運用リソース、予算が必要十分かどうかを吟味する。市場シェア、つまりユーザーの規模にも注目して導入を決めることが、失敗しないITSMツール選びの王道といえそうだ。

情シスが「本来の役割」を果たすために

 近年、情シスの最も重要なミッションは、経営に役立つIT活用を支えることにあると言われる。しかし多くの企業の情シスは、ITインフラやアプリケーションの管理やユーザーサポート業務に忙殺されており、本来の役割に使うべき時間を確保できていない。

 「ITSMツールを有効に活用することで、情シスが管理業務の負担を減らし、『ITのプロ集団』としてDXをリードして、企業を成長に導くべきです」(クレオ)

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