情報システム部門の7割が人員不足に陥る中、企業はどのような選択肢を取るのか。キーマンズネットの調査から浮かび上がった情シスの課題とは。
近年、情報システム部門の担当者は従来の業務に加えて、DX戦略やIT戦略の立案や、ITプロジェクトのなどの役割を期待されることが増えた。働き方の多様化に伴う就業環境の整備も必要となる中で、業務過多に悩む声が多く挙がっている。
こうした情報システム部門における負担増に企業はどのように対応しているのだろうか。キーマンズネットの情シスに関する読者調査(実施期間:2024年8月7日〜10月4日、回答数:246)で明らかになった実態とは。
まず、勤務先の情報システム部門における人員の不足状況を尋ねたところ、「非常に足りていない」(22.0%)と「足りていない」(43.1%)を合わせると67.1%が足りていない状況にあることが分かった。
人員不足が長く続けば、長時間労働が常態化して健康状態が損なわれたりモチベーションが低下したりする他、人的ミスが誘発されたり、業務負担の重さを苦にした従業員が転職した結果、人員不足がさらに深刻化して「負のスパイラル」に陥ったりする可能性もある。
人員不足に対して、企業はどのように対応しようとしているのだろうか。
2025年度の情報システム部門における人材配置計画を尋ねたところ、最も多くの回答が集まったのは「人材の増減はない」(43.5%)だった。「人員を増員する」と回答した企業は7.3%で、結果として増員するかどうかは不確かな「増員を検討、予定している」(22.8%)という回答と合わせても31.1%にとどまった。
2025年度の人材配置計画がある程度決まっている企業(76%)の過半数が現状維持を選択しているといえるだろう。
ちなみに、人員が不足している企業(「非常に足りていない」あるいは「足りていない」と回答した企業)に絞った場合も、40.6%が「人材の増減はない」という回答を選び、「増員する」という回答は8.1%にとどまった。「増員する」と、「増員を検討、予定している」(33.1%)を合計すると、「増減はない」にほぼ匹敵する割合となるが、前述のように検討の結果、増員されるとは限らないため、2025年度も人員不足に悩む企業はある程度残りそうだ。
情シスの人員不足感に関して、他部門はどのような認識を持っているのだろうか。
情シスと他部門との間で認識に差があるかを探ったところ、認識のズレはほとんどないことが分かった。情シスの回答者は「非常に足りていない」は20.2%、「足りていない」は45.7%で合計65.9%が足りていないと答えたのに対し、情シス以外の部門に所属する回答者(経営者を含む)は「非常に足りていない」が23.4%、「足りていない」は41.1%で合計64.5%が足りていないという認識だった。
つまり、経営者も含めて情シス以外の人々も人員不足を認識しているが、増員するという決定に至らない企業が多いのが実態のようだ。
今回の調査結果からその理由をうかがうことは難しいが、一つ気になるのが予算の要因だ。キーマンズネットが毎年実施している調査の最新版によると、2024年度のIT予算を「増額」すると答えた企業は14.6%で、「減額」すると答えた企業(5.9%)よりも約8ポイント多かった。「ほぼ同じ」を選ぶ企業が約5割と最も多いものの、ここ数年はIT予算の緩やかな増加傾向にある。
ITコンサルティングと調査を手掛けるアイ・ティ・アールの調査でも、日本企業のIT投資は増額基調が続いているようだ。
これらの調査と今回調査では実施時期や対象となる予算年度が異なるため断定的なことは言えないが、「IT予算の増額トレンドが続く一方で、IT施策を中心的に担う情シスの人員を増員する企業の割合は限定的な傾向にある」ことは見て取れるだろう。
なお、増員予定がない企業が一定割合に上ることは、この後触れる情報システム部門が抱える課題にも影響を及ぼしているようだ。
情報システム部門における人材・人事面の課題は何か。深刻な順に1〜3位まで選んでもらったところ、多くの企業が最も大きな課題(1位)として挙げたのが「特定の人に依存している業務がある」(30.9%)だった。ここまで取り上げてきた「人員が不足している」(17.1%)は次点になった。
「特定の人に依存している業務がある」は2番目に大きな課題(2位)としても最も多くの票を集め(23.6%)、課題感の大きさをうかがわせる。
他に票を集めた項目としては、「情シスの間でナレッジが十分に共有されていない」(1位の課題としては16.3%、2位の課題としては6.1%)、「専門スキルが不足している」(1位の課題としては14.6%、2位の課題としては20.7%)がある。
この2つは「特定の人に依存している業務がある」状況との関連も深い。実際、「情シスの間でナレッジが十分に共有されていない」を最も深刻な課題として選択した企業に、2番目に大きな課題として最も多く選ばれたのは「特定の人に依存している業務がある」(57.5%)、「専門スキルが不足している」は3番目に大きな課題として半数(50.0%)の企業が選んだ。
ナレッジが十分に共有されず、専門スキルが不足している従業員が多いために「特定の人に依存している業務がある」状況が解消されないとも考えられる。また、多くの情シス部門が人員不足で一人一人の業務負担が重い中、「特定の人に依存している業務」を他の従業員に割り振るのが難しい状況もありそうだ。
なお、課題に関するフリーコメントとしては、「ほぼ全部の課題が該当する」という嘆きや、「あと数年で継続雇用も終わるが、後継者がいない」といったベテラン従業員の懸念が寄せられた。
従業員規模別にみた場合、500人以下の中堅・中小企業の方が1001人以上の比較的規模の大きな企業よりも人員の不足感は長く続きそうだ。
500人以下の企業で人員が「非常に足りていない」答えた割合は24.8%だったのに対し、1000人以上の企業で同じ回答を選んだ割合は18.0%だった。
2025年度の人材配置計画について、500人以下の企業で「増員する」を選んだ割合は3.4%にとどまり、「人材の増員を検討、予定している」という回答も13.7%だった。「人員の増減はない」は56.4%と過半数に上がった。
一方、1001人以上の企業で「増員する」を選んだ割合は11.7%と500人以下の企業の3倍以上となり、「人材の増員を検討、予定している」という回答も500人以下の企業の2倍以上となる32.4%の企業が選んだ。
一方で、情シスにおける課題については企業規模による差はあまり見られなかった。最も深刻な課題として選ばれた項目は、全体と同じく「特定の人に依存している業務がある」だった(500人以下の企業は34.2%、1001人以上の企業は28.2%)。
ここからはN数が小さくなるので参考程度だが、100人以下の中小企業と5001人以上の大企業で比較した場合はある程度の差がみられる。
5001人以上の企業の多くが最も深刻な課題として選んだのは「情シスの間でナレッジが十分に共有されていない」で、「特定の人に依存している業務がある」「専門スキルが不足している」の2つが同率で続いた。
100人以下の中小企業で最も深刻な課題としては「特定の人に依存している業務がある」が最も多く選ばれ、「専門スキルが不足している」「人員が不足している」が続いた。
「情シスの間でナレッジが十分に共有されていない」を選ぶ大企業が多い背景には、本連載の前回「チャートで分かる情シスの“平均”スキルセット 一番キャリアで役立つ能力は?【読者調査】」の記事で指摘されていたように、大企業ほど業務が細分化されやすいことと、ナレッジ共有のための選択肢の一つとなるITサービス管理(ITSM)ツールをはじめとしたツールの浸透率が大企業でも今なお低いことにある可能性がある。
なお、「特定の人に依存している業務がある」を最も大きな課題として選んだ100人以下の企業は、2番目に大きな課題として「専門スキルが不足している」「人員が不足している」、3番目に大きな課題として「人員が不足している」「予算が足りない」を選んでおり、中小企業における人員不足の深刻さがうかがえる。
また、中小企業における人員不足は、規模がより大きな企業とは意味合いが少し違いそうだ。100人以下の企業における情シス部門の人数で最も多いのは「0人(他業務との兼任)」(40.3%)で、「1人」(23.6%)、「2人」(20.8%)が続く。100人以下の企業の過半数では「専任の情シス担当者が(できれば複数人)ほしい」というのが切実な願いだろう。
ここまで情シスにおける人手不足問題を中心に見てきた。人手不足の解消には業務を減らすか、人員を増やすかが即効性のある解決策になりそうだが、人員増加は多くの企業が選ばないことが判明した。
冒頭でも触れたように、情シスに期待される役割が増える中、業務そのものを減らすことも難しそうだ。今後も、業務負担を軽減するITソリューションやサービスの利用状況などに関する調査などを通じて、情シス担当者が抱える課題の解決策を探っていきたい。
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