多くの企業で情報システム部門が担っているヘルプデスク業務。AIを搭載するツールが増え、外注サービスも提供されている中で、情報システム部門はどの業務をどのように割り振っているのか。「キーマンズネット」の調査から見えたものとは。
AI導入・定着をはじめとする新技術活用や業務自動化施策、DX推進戦略の立案、推進など期待される役割が増える中、従来から担当してきた「システムのお守り」「従業員のお守り」ともいわれるヘルプデスク業務の負担に悩む情報システム部門担当者は多い。
効率化やコスト軽減をうたうツールやサービスはあるものの、セキュリティやガバナンス従業員全体の生産性に関与する領域であることから、どの業務をツールや外注サービスに割り振るべきかは頭の痛い問題だ。
そこで「キーマンズネット」は「ヘルプデスク業務に関するアンケート」を実施(実施期間:2025年7月7日〜25日、回答件数:182件)。前編となる本稿では、企業におけるヘルプデスク業務運用の実態を明らかにし、情報システム部門が抱える課題に迫る。
まず、社内ITシステムに関する問い合わせやアカウント申請への対応といったヘルプデスク業務を担当する部署を聞いたところ、「情報システム部門」が71.4%と大多数を占めていることが分かった。100人以下の中小企業ではその割合が53.2%と全体に比べて低い代わりに「情シス以外の部門」や「決まった部署や担当者はいない」といった回答がより規模の大きい企業に比べて高い傾向にある。
ヘルプデスク業務における課題を聞いたところ、他の項目を10ポイント以上引き離す票が2つの項目に集まった。
多くの企業が課題として認識しているのが、「担当者の知識やスキルにバラつきがある」(35.2%)、「PC操作からシステムトラブルやセキュリティなど、問い合わせ内容が多様で対応が複雑化している」(33.5%)の2項目だ(図1)。従業員規模を問わず、多くの企業が挙げていることから、この2つがヘルプデスク業務の2大課題だと見てよさそうだ。
企業規模別に見ると、従業員数の多い企業は「問い合わせ量が多く、回答が追い付かない」「問い合わせ量が多く、本来やるべき業務に支障が出ている」といった問い合わせ量の多さに起因する課題が上位に挙がり、従業員規模が小さい企業は「解決策や手順が共有されず、属人化している」といった属人化や解決手段の課題が上位に挙がった。
一方で、「特に課題はない」(22.0%)という回答も一定数存在する。部門別に見ると、「営業・販売部門」などの直接部門では3〜4割、「経営者・経営部門」では2割程度が「特に課題はない」とする一方、「情報システム部門」で同様の回答を選んだ割合は1割以下にとどまることから、ヘルプデスク業務の運用部門とそれ以外の部門で課題感に温度差があることも分かった。
問い合わせ量の増加や内容の多様化、担当者のレベルのバラつきといったヘルプデスク業務課題に対して、インシデント管理やノウハウ管理を共有し、自動回答などで支援するヘルプデスクツールを利用している企業はどの程度存在しているのか。
本調査で「利用している」と答えた人は19.2%にとどまった(図2)。最も利用している割合が高かった5001人以上の大企業でも約3割だった。
ヘルプデスクツールについて、「名称、具体的な機能ともに知っている」(13.7%)と「名称のみ知っている」(15.4%)、「ヘルプデスクツールという名称では把握していないが、設問で説明されている機能を持つツールの存在は知っている」を合わせると52.7%に達するが、「名称も具体的な機能も知らない」(47.8%)が約半数に上った。
代表的なヘルプデスクツールについて認知・利用状況を聞いたところ「知らない」と回答した割合が最も低かった「Zendesk」(Zendesk)でも、68.1%に認知されていなかった。
「現在利用している」と回答した割合が最も高かったのは「ServiceNow IT Service Management」(ServiceNow)の6.0%で、「LMIS」(2.2%)(ユニリタ)、「Zendesk」(1.6%)、「Jira Service Management」(1.6%)(Atlassian)が続いた。
同様に、ヘルプデスク業務全体、あるいは一部でBPO(外部委託サービス)を利用しているかどうかを尋ねたところ、「利用している」は15.9%だった(図3)。「今は利用していないが、具体的な検討を進めている」(2.2%)や「今は利用していないが、興味はある」(10.4%)を合わせても約2割にとどまった。
回答数が少ないため参考値となるが、ヘルプデスクツールを「今後も利用する予定はない」、あるいは「利用を中止した」理由として最も多かったのは「導入や運用にかかるコストが高いから」が約6割だった。比較的予算に余裕があると見られる5001人以上の大企業においても約4割がコストの高さを理由に挙げ、「導入や運用にかかるコストよりも、ヘルプデスク担当者の人件費の方が安いから」や「ヘルプデスクツールで何ができるのか、十分な情報がないから」が続いた。
企業はヘルプデスク業務をどのように運用しているのか。「主に自社の従業員が電子メールや電話、対面で対応」(48.4%)が最多で約半数に上った。「主にヘルプデスクツールで対応」(12.6%)や「主にBPO(外部委託)サービスで対応」(4.9%)と、自社従業員以外での対応を軸に置いている企業は合わせて2割に満たない状況だった。
企業規模別では、500人以上の企業は自社従業員が対応する割合がそれ以下の従業員規模の企業に比べると小さく、ヘルプデスクツールやBPO(外部委託)サービスを利用する割合が高まる傾向にあった。
特に5001人以上の大企業では「主にヘルプデスクツールで対応」と「BPOサービスで対応」の合計が「自社従業員が電子メールや電話、対面で対応」と同程度で、5000人以下の企業に比べてツールやサービス活用が進んでいる様子がうかがえる。
具体的にどのような業務でツールや外部委託が進んでいるのか。業務ごとの運用を尋ねたところ、「ヘルプデスクツール」と「BPOサービス」の合計値が大きい順に「問い合わせの一次受け付け、内容の確認」(24.4%)、「PC操作などの案内など、簡単な問い合わせへの回答、解決」(24.4%)、「問い合わせ内容の蓄積、情報管理」(17.9%)と続いた。
一方、「社内担当者」による対応が多い業務は「専門的、複雑なトラブル対応」(82.1%)や「担当部署やベンダーなどへのエスカレーション」(81.3%)、「蓄積された問い合わせ内容の分析に基づく業務改善提案」(71.5%)で、難易度が高く時間を要する業務ほど自社従業員で対応する傾向にあることが分かった。
社内担当者による対応負荷に対しては、生成AIの進化もあり、社内外の対応履歴データを蓄積してナレッジベースを構築して管理を効率化したり、問い合わせ内容や対話ログを自動収集して内容を分析して改善提案を自動レポート化したりするなど、ヘルプデスクツールやBPOサービスがアップデートされてきた。AI活用事例がより広く認知されることで、今後ヘルプデスク業務の運用に変化する可能性もある。
以上、企業におけるヘルプデスク業務の実態を紹介した。多くの企業では運用部門を中心に課題があると認識している一方で、ツールやサービスを利用している割合は低い状況だ。
後編では、運用実態をより深堀りしながら、企業が今後のヘルプデスク運用についてどのように考えているのか、その理想と現実を紹介し、理想と現実のギャップが生まれる背景を考察する。
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