SAPジャパンが「SAP HANA Cloud Platform(HCP)」のデータセンターを東京と大阪に開設する。その狙いは何か?
「私が学生のころ、ポケベルという連絡手段を持たなければ飲み会に誘ってもらえない時代があった。基幹業務アプリケーションの世界で、これと同じことが起こりつつある」――SAPジャパン社長の福田譲氏は、プレス発表の際に「他と接続できることの重要性」を、同世代にとっては非常に身近な例に置き換えて説明した。
他と接続できる連絡手段とは、昔の「ポケベル」であり、現代の業務アプリケーションでいえば、Web標準でありAPI類ということになるだろう。いくら優秀でも人格者でも、ツールを持たなければツールを介した情報網からは脱落してしまう。エンタープライズITの中でも、「APIエコノミー」「オープン」「マイクロサービス」などをキーワードに、多様な機能を組み合わせて新しい価値を作っていく流れがおこりつつある。これらのツール類を持たないエンタープライズITでは、ITを駆使して新しい価値を作っていくトレンドから脱落しかねない。
SAPジャパンは2016年6月8日、SAP HANA Cloud Platform(HCP)のデータセンターを東京と大阪に開設すると発表した。東京データセンターは2016年10〜12月ごろ、大阪データセンターは2017年1〜3月ごろにサービス提供を開始する予定。
SAPの日本国内でのデータセンターといえば、SAP HANA Enterprise Cloudがあるが、こちらはあくまでも、SAP Business Suiteなどの基幹業務アプリケーションをマネージドサービスで提供するものだった。
一方のHCPはPaaS(Platform as a Service)である。ここでいう「プラットフォーム(Platform)」は、SAP HANAおよびHANAをベースとする基幹業務アプリケーションに対して、新しいアプリケーションを開発したり、システム連携させたり、マルチデバイス対応させたりする際の「アプリケーション開発環境」という意味だ。
福田氏は、HCPについて「ただのPaaSではなく、エンタープライズITのコンテクストを理解したサービスのプラットフォームを提供するもの」だと説明する。
HCPは、2016年5月に開催されたグローバルイベントで「Spring Edition」としてアップデートされている。Spring Editionでは、クラウドアプリケーション向けの機能拡張の他、「SAP API Business Hub」と、オープンソースのPaaS基盤ソフトウェアである「Cloud Foundry」環境もβ提供される。
Cloud Foundryは、PythonやPHP、Rubyといった開発言語、MongoDBなどのNoSQL系データベース、RabbitMQのようなメッセージングソフトウェアなどの実行環境を統合管理・提供する基盤ソフトウェアだ。HCPの中でこれらの環境が利用できるようになると、オープンソースソフトウェアなどを含む多様な環境を柔軟に組み合わせて効率よくアプリケーションを開発できるようになる。
さらにHCPでは、データ分析エンジンや統計解析ライブラリなどを提供する他、課金や商品情報管理、顧客情報管理、他のSaaSと連携したアプリケーション開発や、IoTアプリケーション開発の環境としても利用できるという。
つまり、HCP上の開発であれば、SAP独自のABAP言語を使う必要はなく、それぞれの技術者が得意とする方法でアウトプットを用意できるようになる。
「オンプレミスのSAP ERPの拡張として、HCPを介して外部クラウドサービスと基幹業務システムを連携させたり、マルチデバイス対応アプリケーションを構築したりといった取り組みを進めている企業もある」(福田氏)
SAPジャパンでは日本国内でのHCPエンジニア育成も強化している。現在「トレーニングの受講エンジニアは1500人を超えた」(福田氏)という。
HCPは、2016年秋にも次のアップデートをリリースする予定だ。次のリリースではオープンソースのIaaS基盤ソフトウェア「OpenStack」への対応も進むとしている。
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