現代企業にとって共通の課題となるのが「デジタルトランスフォーメーション」。その文脈でRPAやAIなどといった技術の活用が語られるが、取材で聞いた企業では、RPAやAIでもないあるツールがDXを支える主力ツールになっているという。
われわれは日々の生活のさまざまなシーンでデジタルの恩恵を受けている。例えば、Amazonの音声アシスタントに「Alexa、部屋の電気を付けて」とお願いすればさっと明かりが灯り、自宅に近づくと自動的にエアコンがオンになり自宅に戻った頃には快適な温度になっている。外出時にお掃除ロボットをセットしておけば、センサーによってソファなどの障害物を認識しながら部屋を掃除してくれる。買い物だって、ネットでほとんどが完結する。筆者は料理が趣味のため「Uber Eats」を利用する機会はないが、オンラインで注文すれば食事も配達してくれる。このように、デジタルの力によって日々の生活は快適になった。至れり尽くせり、まさにデジタル万歳である。
こうしたデジタル化の波を受け、企業も否応なくデジタル化を推進して業務やビジネスの変革が急務となっている。そう、まさにバズワード化したDX(デジタルトランスフォーメーション)の世界だ。
ITベンダーはDXを前に進めようとする企業の期待に応えるためにさまざまなソリューションを提供するが、それを利用する企業側とは相当な温度差がある。紙の業務をデジタル化し、業務フローを大きく変革したと声高らかにアピールする企業もあれば、自社の事業をデジタルの力で変革するために日々奮闘する企業もあり、各社のレベルには相当の違いがある。それでも、デジタル技術を駆使して業務改善や顧客サービスの向上を図ろうとする企業の活動は、新たな時代への扉を開いている証左である。
メディアにいるわれわれもDXの取り組みに関して取材する機会が増えたが、取り組みや手法は企業文化や風土、組織など環境の違いによってさまざまだ。特に興味深いのはDXを実現するために使われるツールやサービスが企業によって異なる点だ。
グループウェアや、業務の自動化・省力化に役立つRPA(Robotic Process Automation)やAI(人工知能)、IT部門に頼らずとも現場主導の業務改善に役立つノーコード・ローコードツールなど、企業は自社の業務環境に応じてさまざまなツールを駆使している。これまでのコミュニケーションのありようを変革するという意味では、「Slack」などの情報共有ツールをDXを実現するツールとして捉えている企業もある。AIとコミュニケーションを組み合わせたチャットbotなども、顧客サービスのみならず社内の業務支援のためのツールとして広がりつつある。
ある企業に話を聞いたところ、あるツールを駆使してDXを目指しているという話を耳にした。
そのツールとは、データを抽出し、変換、書き出し、データウェアハウスにデータを集約するETLツールだ。ETLツールはバックエンドの仕組みとしてシステムに組み込まれており、システム基盤の一部としているケースは多い。しかし、DX推進の中心的なツールとして現場に広く浸透しているという例はあまり聞いたことはない。
最初にこの話を聞いたとき「現場部門にとってETLツールはハードルが高いのでは」というのが正直な感想だった。データ元のレイアウト設定から出力先のファイル形式の定義をはじめ、集計や結合、マージといった処理パターン設定、フィルタリングや置換、レイアウト変換などのデータ加工定義など各種設定が必要で、いくらGUIが使いやすいとはいっても、ユーザー部門にとって難易度は決して低くない。
しかし、経理部門では毎月ExcelマクロやAccessなどを利用して事業部門から寄せられるデータを集約し、必要な形式に編集、加工して、収支や予実の情報を報告しており、利用部門が一様にITリテラシーが低いわけではない。
その企業では、Excelでデータを収集し、レポート作成のために再びExcelに書き出す一連のフローをETLツールを使って置き換え、ボタン1つで処理することに成功した。その実績を基にIT部門が定期的に勉強会を開催して、今では多くの業務工数の削減を果たしたという。「当初はRPAを全社的に展開することも考えましたが、適用できない業務もたくさんあります。われわれの業務を見てみると、ETLツールが業務効率化に大きく役立つと判断したのです」と語るその姿は、自信に満ちあふれていた。
確かにビジネス変革への道筋はまだ遠いものの、現場主導で業務の効率化が実現できたことで、さらなるデジタル化に取り組む意欲が全社的に高まったという。エラーチェックや外字チェック、契約データの連結処理など、これまで手作業で行ってきた業務を次々と自動化することに成功し、その企業にとってはETLツールはDXを前に進める強力なツールとなっていた。
DX推進のアプローチは各社それぞれだが、正解は1つではないことが垣間見えた好例と言えるだろう。
冒頭でも触れた通り、デジタル化の恩恵は家庭にも広がり、今や教育分野においても大きな変革をもたらしている。小学校に通う我が息子は、GIGAスクール構想によって学校から配布されたタブレットで日々先生からの連絡を受け取り、健康記録を毎日入力している。小学校低学年にしてPowerPointを駆使してプレゼン資料を作成し、みんなの前で発表する様子をオンラインで開催された学校イベントで見たこともある。息子のたどたどしいプレゼンは初々しいものがある。筆者の小学校の頃を思い返すと、時代は大きく変わったものだとしみじみ実感するばかりだ。これも「教育DX」という世界の一端なのかもしれない。
未就学児の下の子も画面を見ればスワイプする癖が身につき、聴きたい曲があれば音声でデジタル機器に語りかける日々だ。昔の私なら、聴きたい曲が流れる番組の時間を事前にチェックし、テレビの前でカセットデッキを用意して周囲の音が入らないよう細心の注意を払いながらテープレコーダーに録音し、テープが擦り切れるまでその曲をヘビーローテーションし聴き込んでいた。Alexaに話しかけるだけで聴きたい音源が再生できる今、そんな努力とは無縁の世界がデジタルによってもたらされている。
今日も未就学児の息子が「アレクシャ、アンパンマンの歌かけて」とGAFAの一角を担うデジタルの巨人に物申す。まさにデジタル万歳、である。
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