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最新AIツール徹底比較 「NotebookLM」と「Vertex AI Search」の違いと特徴を整理

生成AI全盛期ともいえる今、企業の競争力を高める要素の一つとしてよく挙げられるのが“自社データの活用”だ。汎用的な生成AIでは各企業の細かなニーズには答えられない。今回はGoogle Cloudに「NotebookLM」と「Vertex AI Search」の違いと使い分け方を聞いた。

» 2025年08月06日 08時00分 公開
[谷井将人キーマンズネット]

 生成AI全盛期ともいえる今、企業の競争力を高める要素の一つとしてよく挙げられるのが“自社データの活用”だ。インターネットで広く公開されている情報は、生成AIによって誰もが手軽かつ効率的に収集、活用できる一方で汎用(はんよう)的な知識だけでは各企業の細かなニーズには答えられない。社内に死蔵されているデータをいかに知見にできるかがデータとAIの活用の成否を分けるだろう。

 自社のデータと生成AIを連携させることで、企業固有の情報の検索や、それに基づくコンテンツの生成が可能になる。近年特に注目度が高いツールとしてはGoogleの「NotebookLM」がある。これは、ユーザーがソース(情報源)として指定したドキュメントや動画に基づいて、ユーザーの質問に応答するチャットbotツールだ。資料の深堀ができる他、共有機能を使えば社内に向けて「人事問い合わせbot」のようなシステムを作れる。

photo 「NotebookLM」の画面

 NotebookLMと並び比較対象となるものとして、Google Cloudが提供する「Vertex AI Search」も挙げられる。こちらは欲しい情報を自然言語で尋ねると、社内のデータを検索して要約文とソースとなる資料を提示するサービスだ。

 NotebookLMとVertex AI Searchはいずれもユーザーの問いかけを受けて、資料を読み込んだり社内データを検索したりし、回答やソースを示せるという共通点があるが、そのコンセプトは根本的に異なる。

 本稿では、Google CloudにNotebookLMとVertex AI Searchの違いと使い分け方、コスト感や導入方法について聞いた。

NotebookLMとは? 基本機能と特徴

 NotebookLMは、ユーザーがアップロードした資料を基に、要約や詳細な解説、質問への回答、さらには学習ガイドの作成までを実行できる生成AIツールだ。有料版では、1つのノートブックに最大300件の資料を登録することが可能だ。アップロードできるのはテキストデータの他、「Google ドライブ」に保存された「Google ドキュメント」「Google スライド」や、WebページのURL、「YouTube」の動画などだ。

 登録後、ユーザーが資料に関する質問をすると、引用箇所を示しながら回答を生成する他、解説音声やよくある質問と回答などを出力できる。その情報源の範囲内でしか回答を生成しないため、ハルシネーションが起きにくいとしている。

 技術資料や議事録、規則といった特定のドキュメントについて、従業員が個別に理解を深めるために活用されるのが主な用途とされ、学習用の補助機能も備えている。

 プランは、Googleアカウントがあれば無償で利用できる無料版の他、利用制限の緩和や、プライバシーとセキュリティの強化、ノートブックの共有などができる有料プラン「NotebookLM in Pro」と、大企業向けの「NotebookLM Enterprise」がある。

 NotebookLM Enterpriseは高度なセキュリティ機能とアカウント管理機能が追加される他、ソースとして登録できるファイル種別や数の拡大など拡張される。課金体系はサブスクリプション形式で、最大で5000個のライセンスを購入できる。

 導入方法はシンプルで、無料プランやProはGoogleアカウントがあれば利用できる。Enterpriseプランは、Googleアカウントがなくても利用でき、企業向けのセキュリティ機能を持つ。

NotebookLM活用アイデア 議事録やチャットbot作成

 日本においては東北大学やワークマン、オートバックスデジタルイニシアチブ、舞鶴市などが利用している。

 東北大学は資料作成や翻訳、分析、要約など教育や研究活動の補助に利用しているという。ワークマンは経営企画部で会議音声から議事録を自動生成する仕組みを作っている他、倉庫部門では業務マニュアルや関連資料をソースとして登録して、新人スタッフやパートスタッフが業務上の疑問点を質問できるツールとして活用している。

 オートバックスデジタルイニシアチブは企画書の草案作成や議事録の要約に使っている。舞鶴市は庁内向けの問い合わせチャットbotを構築して問い合わせ対応業務を軽減し、コア業務に時間を割り当てられるようになったという。

Vertex AI Searchは「検索」のツール

 Vertex AI Searchはは企業向けの高度な検索サービスだ。AIを活用して、従来のキーワード検索では難しかったユーザーの意図を理解した検索や関連性の高い情報の要約ができる。業界特化の「Vertex AI Search for Commerce」「Vertex AI Search for Media」なども用意している。

 ユーザーが探したい情報を自然言語で説明すると、企業が持つWebサイトや社内ドキュメント、データベースを対象に検索して適切なデータを提示する。このとき、入力するテキストは誤字や不正確な表現があった場合や、略語、口語などでもAIが意図を理解して検索する。テキストデータだけでなく画像や動画も検索可能だ。

 検索結果は、該当のデータだけでなく、その要約も引用箇所を示しながら生成される。どこに保存されているか分からないデータをより高度に探すのが主な使い方とされる。

 Vertex AI Searchの料金体系は、クエリ数とインデックス登録されたデータ量に基づいた従量課金制だ。利用するエディションやLLMアドオンの有無によって料金が異なり、詳細は「Vertex AIの料金」ページで開示している。企業の利用を前提としているため、アクセス制御のようなセキュリティ機能や管理機能を備えている。

 導入に当たってはGoogle Cloudの環境設定とデータの準備、検索機能の設定が必要だ。運用する中で改善作業が発生することもある。

Vertex AI Search活用アイデア

 日本においてはファッションブランドを多数抱えるアダストリアや丸紅情報システムズなどが利用している。

 アダストリアはECサイトにVertex AI Searchを導入することで、表記ゆれや誤表記、同義語などを吸収し、ユーザーの検索体験を改善した。検索から商品詳細ページへの遷移率が15%向上し、コンバージョンレートは20%改善したという。

 丸紅情報システムズはVertex AI SearchでFAQシステムを構築した。FAQページの利用者やオペレーターがFAQを検索する際に、表記ゆれや誤字があっても必要な情報にアクセスできるようにした。

「自社データの活用」が共通点 違いは?

 NotebookLMとVertex AI Searchはいずれも、企業が保有するドキュメントやデータを取り込み、それらを活用して情報の検索や新たなコンテンツを生成できる。内部的にはRAG(拡張検索生成)のアーキテクチャが含まれている点や、Google Cloudのインフラで動作しており、スケーラビリティやセキュリティ、信頼性も同様だという。

 どちらのツール・サービスも「○○という特許の詳細が知りたい」と入力すれば、該当の資料の要約を提示できるが、NotebookLMは保存場所が判明している資料について生成AIとの対話を通して深堀するもので、Vertex AI Searchは保存場所が判明していない資料を高精度に検索するものといえる。

 NotebookLMは、情報源の分析に重点を置いた設計となっており、個人の研究者やコンテンツ制作者、また特定プロジェクトにおける情報整理を目的とした知識基盤としての利用が想定されている。ユーザーの問いに対し多面的に情報を提供し、思考の補助を行うツールとしての性格が強い。

 Vertex AI Searchは、企業内に蓄積された膨大な構造化・非構造化データから、必要な情報を的確かつ効率的に検索し、業務上の課題解決を支援することを目的として開発された。特に、社内に散在する多種多様なデータに対して、ユーザーの意図に即した情報を迅速に提供する能力に優れており、顧客対応、社内FAQ、ナレッジマネジメントといった分野での活用が期待されている。

 このように両者は性格が異なるため、事業規模や従業員数、業種といった属性ではなく、具体的なユースケースに基づいて選択する必要がある。同時利用すると、Vertex AI Searchで資料を探し、NotebookLMで理解を深める使い方もできる。

 自社データをAIで価値転換できるかどうかが、「生成AIを有効活用している」段階の次のステップになる。特に汎用的な生成AIツールでは物足りないと感じている企業は、自社データと接続できるツールやサービスの導入を検討するのもいいだろう。

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