既存帯域ではこれ以上の高速化が望めない無線LAN。これから拡張が期待されるミリ波帯超高速通信のトレンドに迫る。
無線LANで使われる「IEEE 802.11ac」の次の高速Wi-Fiとされる「IEEE 802.11ad(WiGig)」、さらにその次の「IEEE 802.11ay」、あるいは超高速近接無線通信「IEEE 802.15.3e」など、次世代高速通信技術がめじろ押しの「ミリ波帯」。
それより低い周波数帯での無線LANへの電波割り当てがほぼ期待できない現在、今後の無線トラフィック増加に備える時、広い帯域がとれる(つまり高速通信の可能性がある)領域はここしかない。しかし、難点は通信デバイス開発の技術的難易度が高いこと。一体どこまで技術開発は進んでいるのか。
ミリ波帯超高速無線通信は、30GHz〜300GHzのミリ波帯の電波を利用した数Gbps以上の超高速無線通信のこと。現在のところ、東京工業大学(東工大)と富士通研究所が開発したCMOSチップによる56Gbps(72GHz〜100GHzでの無線伝送)が世界最高速(2016年2月発表)となっている。
この高い周波数帯を情報通信に利用する技術開発は、現在各国の研究機関や企業が積極的に取り組んでおり、国際標準化機関であるIEEE802委員会で規格化されたものとして60GHz帯の無線LAN規格IEEE 802.11ad(WiGigとも呼ばれた)がある。これは1チャネルで6.76Gbpsの理論最大速度の通信を可能にする規格だ。
また、まだ規格策定中であるIEEE 802.11ayタスクグループでは、60GHz帯でMIMO技術とチャネルボンディング技術(複数のチャネルを同時に利用する)を組み合わせることにより、100Gbpsの通信速度を実現することを目標に定めている。
さらに、近接通信(10センチ程度の距離での通信)に特化した高速通信に取り組むIEEE 802.15.3eタスクグループでは、60GHz帯で最大100Gbps、リンクセットアップ時間2ミリ秒を目指す規格を策定中だ。近接通信においてはミリ波およびサブミリ波の領域で1Tbpsでの通信が可能とされており、将来はさらなる高速化も期待できる。
ミリ波の名は波長(周波数の振幅の幅)がミリ単位(1〜10ミリ)であるところからきている。周波数帯が高いほど利用できる帯域が広くなるので高速通信には好都合だ。
この周波数帯が今注目されるのは、2015年の電波法施行規則改正により、57GHz〜66GHzの周波数帯が、無線免許が要らない「小電力データ通信システムの無線局」用に割り当てられたからだ。つまり従来の無線LANと同様に利用できるようになったのだ。
この用途で9GHzもの帯域幅がとれる周波数帯は他にはない。従来の無線LAN用周波数帯では既に通信トラフィックが増大して先行きが怪しくなってきており、多数の無線デバイス(IoTデバイスやモバイル端末)が同一周波数帯を利用するために電波干渉の問題も今後ますます増加すると予想される。
通信トラフィックをこの新しい未開拓の周波数帯にオフロードできれば、将来の帯域逼迫(ひっぱく)を避けられる。その期待を、今一手に担っているのが60GHz帯なのだ。
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