さて、無線LANとしての利用はおおよそ想像できるが、IEEE 802.15eをベースにした近接通信技術はどんな応用イメージになるだろうか。
考えられる1つのケースは、スマートフォンなどのモバイルデバイス間の情報交換だ。これまでにない高速性を生かし、動画などの大容量データでも短時間で交換できる(図4、図5)。同様にドッキングステーションからモバイルデバイスへのデータ転送もごくわずかな時間で行えよう。ZigbeeやBluetoothの少なくとも数千倍の効率になる。
またモバイルデバイスに、情報キヨスクからコンテンツを受け取ることが考えられる。現在でも店頭端末からメッセージやクーポンを受け取れる技術はあるが、受け取れるモノを大容量の映像や画像データなどにできるところに新しい応用可能性がある。
さらに、通路に無線デバイスを備えたゲート(図6)を設け、通る人が持つ端末に大容量の情報をプッシュするシステムも考えられる。通信可能範囲に入ってから抜けるまでに、動画などの大容量コンテンツが送れるかもしれない。またゲートの代わりにエレベーター床やエスカレーターのステップ内部などに無線デバイスを仕込めば、上り下りの間に長時間の映画をダウンロードできるかもしれない。
このような応用では、ゲートなどに最新コンテンツを配信しておく必要があるが、その配信にもミリ波が使える。ミリ波帯でも、小電力を前提にしなければ、かなり長距離の高速通信が可能だ。つまり、屋内では60GHzの免許不要の無線LANでユーザーデバイスをゲート内のモジュールに接続して情報を配信し、そのコンテンツは屋外のモジュールが遠方の他の拠点とのミリ波通信で配信されるような仕組みだ。
東工大とソニー、日本無線、KDDI研究所では、屋内での通信に60GHz帯の小電力無線を使い、屋外の通信には40GHz帯の免許を要するモジュールを使って、高速な無線ネットワークを構築する研究を行っており、2016年3月に構築の成功を発表している。その全体イメージを図7に示す。
この実験では、60GHz帯のネットワークで帯域幅2.16GHzで最大物理層速度6.57Gbpsを実証した上、無線モジュールと端末を含めた無線システム全体で6.1 Gbpsでの無線ファイル転送に成功すると同時に、通信速度1Gbpsで伝送距離1キロ以上の40GHz帯無線伝送システムと、60GHz帯GATEシステムを協調動作させる構成も実証できた。
40GHz帯の無線通信方式は同一周波数、同一偏波で同時双方向通信を行う新方式を導入し、従来のFrequency Division Duplex(FDD)方式やTime Division Duplex(TDD)方式と比較して原理的に2倍の周波数利用効率を実現したという。
「高アイソレーション送受信アンテナ並列配置技術」と「自局送信波回り込みキャンセル技術」を世界で初めて調和的に動作させたことも成功要因だ。なお、図7(2)のLTE基地局を介した広域網との協調や、(4)の気象条件によって通信経路を自動迂回させる技術も同時に盛り込まれている。
以上、屋内、屋外を含めてミリ波帯を利用した無線通信の先端技術を紹介した。まだ未開拓のミリ波帯での超高速通信により、既存無線ネットワークの限界を打破できる可能性が見えてくると同時に、今までにない無線アプリケーションの可能性も見えている。
なお今回は触れていないが、携帯電話の「5G」でもミリ波帯を利用した高速化技術が進展しており、2020年の実用化に向けた動きも見逃せない。やがて来る新しい無線通信の世界を期待を込めて見守りたい。
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