例えば無線LAN規格ではチャネル幅や最大理論通信速度は次のようになっている。
60GHz帯は、表1に見るように2.16GHzの帯域幅のチャネルを4つ利用することができ、理論最大通信速度はチャネル当たり6.76Gbpsだ。
例えば、IEEE 802.11acの最大速度が6.9Gbpsだが、これはMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output)と呼ばれる複数アンテナ(最大送信8本、受信8本)で1つの伝送路を形成する技術と、一度に8ビットの情報が送れる256QAMと呼ばれる多値変調技術を使った場合の数字だ。
一方で、IEEE 802.11adでは今のところMIMOがなく、多値変調は一度に6ビットが送れる64QAMまで。チャネルボンディングもなしで、IEEE 802.11acと遜色ない速度が出せるところに注目したい。また多値変調技術の研究が進めばチャネルボンディングも可能な状況であり、上表の数値を超える超高速通信が実現するのもそう遠くはなさそうだ。
ミリ波帯には特有の弱点もある。1つは直進性が高く、遮蔽(しゃへい)物があるとそれを回り込みができずに通信不能になりがちなことだ。他にも、空気中の酸素と共振して減衰してしまうこと、さらに発振器の位相雑音やRF(高周波)回路の雑音を抑え込むのが技術的に難しく、多値変調に課題があることなどが挙げられる。
直進性の問題は、複数のアンテナを組み合わせて電波の向きを変えるビームフォーミング技術などである程度は解決可能だが、利用場所や利用方法を含めた検討が必要になるだろう。
減衰の問題に対しても、指向性の制御も含めたアンテナ利得向上技術が研究されているが、今のところ無線LANとして利用する場合は30メートル程度までが実用的な通信距離といわれている。
ただし、直進性と大気中の減衰という特徴は、逆手に取れば通信範囲を限定できるということでもある。これは近接通信を前提にすればむしろ長所になる。
非接触型のICカード、あるいは通路に設置したゲートでの情報通信などのような用途を想定すれば、せいぜい遠くても数十センチ程度の通信距離でよい。他の通信機器などに影響を与えずに、特定デバイス間で大容量通信ができる利点を生かしたアプリケーションが考えられるだろう。
雑音の問題は多値変調技術と関連している。著名な「シャノンの定理」と呼ばれる情報理論では、「伝送路容量=帯域幅×log2(1+(信号の電力/雑音の電力))」という関係が成り立つ。つまり帯域幅と信号/雑音比が通信速度を決めるということだ。
電波法で帯域幅と信号の強度は決まっているので、雑音の大きさが速度を左右することになる。高速な通信を行うには多値変調が不可欠だが、そのためには高い信号/雑音比が必要で、信号強度が変えられないなら雑音を下げる必要がある。
IEEE 802.11ay準拠の低雑音の発振器やRF回路を設計、開発している東工大では、60GHz帯で64QAMを通すことに世界で初めて成功しており、4チャネルをボンディングして42.24Gbpsでの通信を実証している(図2)。
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