ビデオ会議ツールの「Zoom One」が、AI機能を備えた統合コラボレーションプラットフォーム「Zoom Workplace」へと進化を遂げた。その狙いや特徴は。
2024年4月、ZoomはAI機能「Zoom AI Companion」を備えたコラボレーションプラットフォーム「Zoom Workplace」の一般提供を開始した。
従来のライセンス体系である「Zoom One バンドル」は「Zoom Workplace バンドル」にリブランディングされて既存機能のより一層の統合が進んだ他、2023年9月から提供が開始された生成AI機能「AI Companion」などの追加機能が搭載されているが、ユーザーは具体的に何が可能になるのか。
Zoom Oneからの変更点やZoom Workplaceの特徴、機能、他社製品との違い、活用のポイントなどについて、ZVC JAPANの八木沼剛一郎氏(技術営業部 執行役員)に話を聞いた。
従来の「Zoom One」はビデオ会議ツールの印象が強かったが、実際にはさまざまな機能を提供していた。今回のリブランドでは、これらの機能を集約し、AIを横断的に活用することを前面に打ち出し、より効率的な働き方を支援する統合プラットフォームとして生まれ変わった。
Zoom Workplaceへのリブランドには、2つの背景がある。一つは、コロナ禍以降の変化だ。働く場所や働き方に対する人々の考え方が変わり、テレワークが一般に普及したこと。もう一つは、生成AIを中心とするAI技術が急速に発展し、一般のビジネスパーソンにとっても身近になってきたことが挙げられる。
「Zoomはこれまで、コミュニケーションやコラボレーションに関する多様なサービスを提供してきました。働き方やニーズの変化を踏まえ、これらのサービスを集約し、ユーザーの生産性向上と効率的な業務遂行を支援する統合プラットフォーム『Zoom Workplace』を提供することにしました」と八木沼氏は説明する。
Zoom Workplaceに含まれる主なアプリは以下の通りだ。
Zoom Workplaceでは、ビデオ会議やチャットツール、電子メール、スケジュールなど日常業務で利用する多数のアプリケーションが一つのプラットフォームとして提供されている。ユーザーは単一のインタフェースから、タブの切り替えによって瞬時にアプリケーションにアクセスできる。ユーザーの業務を中断させずにシームレスな作業環境を提供できることが、Zoom Workplaceの大きな価値だ。
なおZoomは、日常的なコラボレーションに焦点を当てたZoom Workplaceとは他に、特定の業務や部門のニーズに対応する専門サービス群「Zoom Business Services」も提供している。
Zoom OneがZoom Workplaceになったことで刷新されたポイントを見ていこう。まずは、デスクトップアプリのUIが刷新された他、新機能も追加された。UIについては、従来のダーク/ライトモードに4つのカラーテーマ(クラシック/ブルーム/アガペ/ローズ)が加わり、ユーザーの好みに合わせてアプリの外観を選択できるようになった。
ナビゲーションツールバーのカスタマイズ機能も追加された。チームチャットやカレンダーなどのアプリケーションが表示されているタブをドラッグ&ドロップするだけで並べ替えられる他、タブの表示/非表示も選択できる。アプリストアからサードパーティのアプリを追加することも可能だ。
ビデオ会議機能である「Zoom Meetings」も進化を遂げている。活発に発言している参加者の画面が自動的に大きく表示される「マルチスピーカービュー」(参加者5名超のミーティングで有効)が追加された。参加者を一つのバーチャル背景に配置することで、教室やカンファレンスルームで会話しているような雰囲気を演出する「イマーシブ ビュー」や、生成AIを使ったバーチャル背景(壁紙)などが強化された。
ミーティングに関する情報も集約された。MeetingsタブまたはCalendarタブ(Zoom Calendarまたはサードパーティー製カレンダーサービスを使用している場合)を開くと、そこにミーティングに関する情報がまとめられている。
参加者の他、事前に共有された議題や添付ファイルなどの資料やミーティング前後でやりとりされたチャット、ミーティング後に生成される録画データや後述のZoom AI Companionによる要約などを確認できる。ミーティングに参加していない人でも、前後の文脈を含めてミーティング内容を理解できる。
「Zoom Scheduler」はミーティングを拡充する機能だ。ミーティング時間の設定やカスタマイズできる予約ページ、主要カレンダーサービスとの統合など、多彩な機能を提供する。スケジュール調整にかかる時間と労力の削減につながる。
このような機能は外部のスケジュール調整サービスでも利用できるが、Zoom SchedulerはZoomプラットフォームに統合されているため、アプリケーションを切り替えることなく使える点で使い勝手が良い。
「Zoom Clips」は、ビデオや画面の録画が簡単にできる機能だ。録画したミーティングの全体または一部をトリミングして、アクセス権を付与して共有できる。デスクトップ画面なども録画可能だ。「アプリケーションの操作方法を動画で説明したい」ときに役立つ。
「Zoom Workspaces」の利用ユーザーは、Workspacesタブをツールバーに表示できるようになった。フロアマップを見ながら簡単にオフィスの座席の予約ができる機能だ。利用者は、予約したデスクに到着したらチェックインして、使い終わったらチェックアウトする。これによりフリースアドレスのオフィスにおけるムダな予約がなくなり、スペースの有効活用ができる。
フロアマップを見れば「どの席に誰が座っているか」もひと目で分かり、顔写真アイコンをクリックしてプロフィールを表示させることも可能だ。「あの人がこの席に座っているから、隣に座って話をしよう」といった使い方もでき、コミュニケーションが活発になる。
「Zoom AI Companion」は、これらのさまざまなアプリに組み込まれたAIアシスタント機能だ。ミーティングはもちろん、チームチャットや電話、ノートなど、プラットフォーム全体で利用可能なAIアシスタントとして機能する。
Zoom Meetingsでは、AIが進行中の会議の内容を要約したり、質問に答えたりしてくれる。「アクション項目は何ですか?」と尋ねれば、その時点までの会議内容を踏まえて回答してくれる。
会議に遅れて参加したメンバーに、他の参加者が「ここまではこんなことを話し合っていました……」といった説明をするのはよくある光景だ。Zoom AI Companionを利用すれば、経緯を説明する手間が省ける。
会議終了後には、Zoom AI Companionが自動的に会議内容の要約を作成する。次のアクションポイントも提示するので、効率的なフォローアップが可能になる。その他、会議中に共有されたリンクといった重要な情報も抽出する。
Zoom AI Companionはチームチャットや電子メールとも連携される。途中まで入力した文章を基にAIが続きの文章を予測して提案する機能が便利だ。
クラウド PBX サービス「Zoom Phone」との連携も可能だ。留守番電話に録音されたメッセージをAIが自動で文字起こしする。「タスク」ボタンをクリックすると、「○○さんに折り返しの電話が必要」といったタスクを確認できる(現状、これらの機能は英語版のみだが、今後日本語版にも実装予定)。
Zoom AI Companionは今後、AIアシスタント機能をさらに強化した「Ask AI Companion」の提供を予定している(時期未定)。これは、単体のアプリケーションで稼働するだけでなく、Zoom Workplaceの複数のアプリケーションを情報ソースとして業務を支援する機能だ。ゆくゆくは、Zoom Workplace内だけでなく、MicrosoftやGoogleなどサードパーティーのクラウドサービスに保存されたデータもAsk AI Companionが参照し、複数のソースから適切な情報を収集できるようになるという。
「あの情報ってどこだっけ? 何かの電子メールに書いてあったかな」と思い出せないとき、Ask AI Companionを使えばアプリケーションを横断して検索する。実際には、電子メールではなくチャットに書いてあったということもあるだろう。Zoom AI Companionが、人のあいまいな記憶を補完する。
なお、Zoomは顧客の情報を利用してZoomまたはサードパーティーのAIモデルをトレーニングすることはないと利用規約に示している。
特筆すべきは、このZoom AI Companionを有償版ユーザーに対して追加料金なしで提供している点だ。
「他社のサービスでは、AI機能を付加すると1ユーザー当たり月額数千円の費用がかかるのが一般的です。これに対してZoom AI Companionは追加料金なしで提供しています。これは『より多くのユーザーがAIの恩恵を受けられるようにすべき』という当社CEOエリック・ユアンの考えに基づくものです」(八木沼氏)
ちなみにZoom AI Companionは設定でオンにしないと有効にならない。まだ有効にしていないユーザーは設定を確認するといいだろう。
Zoom OneからZoom Workplaceへのリブランディングに対する市場の反応は、おおむね好意的だと八木沼氏は言う。
「既存のお客さまからもZoom Workplaceは高く評価されています。UIの刷新にもかかわらず、混乱の声はほとんどなく、統合プラットフォームがスムーズに受け入れられました。またZoom AI Companionが追加料金なしで利用できることが決め手となり、新規採用にいたるケースも増えています」
Zoom AI Companionはすでにグローバルで70万以上の顧客アカウントがあり、Zoom Workplaceの競争力強化に一役買っている。しかし八木沼氏は、ユーザーが既存のコミュニケーションツールをZoom Workplaceへと全面移行することにこだわっているわけではないと語る。
「Zoom Workplaceの機能は最大限活用していただきたいですが、他のツールにしかない機能もあるので、それらとZoom Workplaceを併用していただくことも歓迎します。Zoomの強みは直感的な操作性にあります。まずは少し使ってみて、使いやすさを実感していただき、徐々に利用機能を拡大していく。そんな段階的な導入もおすすめです」
Zoom Workplaceは今後も機能拡張が予定されている。直近では、文書の共同編集・管理をする機能「Zoom Docs」が追加される予定だ。プロジェクトに関連する資料やガントチャート、画像・動画などをまとめて管理するプロジェクト管理ツールのようなものになるという。
Zoom AI Companionについては、現在英語版のみで提供されている機能(例:Zoom Phoneの留守番電話文字起こしと要約機能)の日本語版実装や、前述した「Ask AI Companion」の提供、AI精度の向上の他、継続的な新機能の追加も予定している。なおZoomは独自の大規模言語モデル(LLM)開発と並行して、サードパーティーのAI技術との連携も進めており、高精度なAI機能の実現を目指している。
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