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【事例】AsanaからNotionに移行した企業が語る、Notion AIを全社導入して見えた景色

従業員200人規模のファストドクターは、「Notion AI」を導入してどう仕事を変革しているのか。

» 2024年12月24日 08時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]

 「Notion」はWikiやメモ、プロジェクト管理、ドキュメント管理などさまざまな機能をオールインワンで搭載した状況共有ツールだ。近年はAI機能を搭載してナレッジ集約機能を格段に進化させた。従業員200人規模のファストドクターは、「Notion AI」を導入してどう仕事を変革しているのか。

※本記事は2024年11月7日に開催された「Make with Notion Showcase Tokyo」イベントでの講演を編集部で再構成したものです。

Notion AIを全社導入して何が変わったのか

ファストドクターの執行役員CTO 西岡悠平氏

 「Notion AIの進化がすごい。従業員に情報を活用するモチベーションが生まれ、記録する情報が増え、さらに活用効果が高くなるループができた」と語るのは、医療プラットフォーム事業で活躍するスタートアップ企業、ファストドクターの執行役員CTO(最高技術責任者)の西岡悠平氏。

 業務効率化のためのツールは多種多様で、SaaS(Software as a Service)だけでも数万を数えるビジネスツールが登場している。こうしたツールに社内の情報が散在し、データを探す時間に手間取ることも少なくない。

 ファストドクターは「あの情報はどこだっけ」と探す時間をなくすことに取り組んでいる。

 2016年に創業した同社は、複数の診療科に対応するオンライン診療や往診を支援するプラットフォームを運営。医療へのアクセス性を高めるとともに、医療者の業務負担を軽減することに取り組んでいる。「医療の課題をテクノロジーで解決する」というコンセプトを掲げ、自社も早期からクラウド型のプロジェクト管理ツール「Asana」をはじめ各種のデジタルツール、クラウドサービスを使って効率化を図ってきた。

 しかし、さまざまなツールを各部署や個人で利用するうち、セキュリティと管理性の課題に直面するようになった。機微情報を取り扱うことも多い同社では、ただ業務効率だけを追求していればよいわけではない。2023年から、より信頼でき、また利用者から信頼されるIT利用環境を再構成するための議論が始まった。

 管理性を高めるためにはツールの恣意的な利用を制限し、セキュリティを標準化して集中管理できる体制が求められる。そのために各種ツールの認証を一元化するSSO(シングルサインオン)の導入を始めた。しかしそれを全社適用するとなるとライセンスのグレードアップが必要になり、コストが壁になる。コストを抑制するためには既存ツールの統廃合が避けられないということも議論された。

 その状況の中、一部の部署では既に利用しているNotionを、全社で活用できるのではないかと考えたという。「Notionの利便性は私自身が知っていましたし、当社開発部門にすでに導入していてその良さを他の部門にも徐々に広めている状況でした」(西岡氏)

 Notionのエンタープライズプランでは、高度なセキュリティ設定やシングルサインオン機能、SCIM(System for Cross-domain Identity Management)といったユーザー/ドメイン管理機能が備えられている。これを利用すれば、さまざまな現場ツールを統合できるのではないかと考えたという。

 しかしコスト面で容易に導入には踏み切れなかった。現場からも「いまはNotionを使っていないから必要ない」「コストを部門負担するとなるとアカウントを減らさなくては」「新しいツールに移行すると逆に生産性が下がる可能性もある」などと否定的な意見も挙がったという。

 それでも西岡氏がNotion全社導入を諦めなかったのは、「Notion AI」の利用価値に気づいていたからだ。

 「全社でAI機能を含むNotionを導入することは、社内の情報バリアをなくすことになる。AI機能があることで生産性が全く異なる」と西岡氏。「価格、セキュリティ、従業員の生産性のバランスを全体会議で考えた。使いたい人だけが使えばよいというのでは今までと同じ。そこを変えて全社の全体最適が図れるデフォルトツールとして導入すべきだとCEO(最高経営責任者)/CFO(最高財務責任者)には提案した」(西岡氏)

 例えばNotionで作ったドキュメントは、アカウントのない部署ではPDFに変換してから共有するといった煩雑な作業が発生していた。資産となるストック情報が埋もれてしまう懸念もあった。Notionの全社利用が進めば、これらの課題の解消にもつながる。

 西岡氏には、AIは生産性を大きく変える要素になるという確信もあった。最初からAIオプション付きのライセンスを提案したのは、Notion AIの進化によってを高いROI(費用対効果)を引き出せると考えたためだ。

 「AIをうまく活用できない人は今後、生産性のボトルネックを抱えることになる。全従業員にAIを使ってもらって活用スキルを底上げすることが肝心だ」と西岡氏は言う。

 西岡氏の提案に基ついて、全社標準ツールとしてNotionおよびNotion AIを導入することが決まり、既存のツールで実施していた業務をNotionに移行した。

 「移行作業は、大変なことになると予想していました。さまざまな業務で使われていたAsanaをNotionに移行することが心配でしたが、移行の意味を全社に丁寧に説明した上、AsanaをきちんとクローズしてNotionに移行する手順も示した後に移行ツールを利用したところ、みんなの気合いが入ってスムーズに移行ができました。フォーム機能の移行には運用の工夫が必要でしたが、今は『Notionフォーム』がリリースされていますね。もう少し早く提供してもらえればよかった(笑)」(西岡氏)

Notion AIを使ってみて変わったこと

 全社でNotionおよびNotion AIを展開すると、西岡氏も予想していなかったことが起きた。Notion AIには、ユーザーの質問に対して、AIがNotion内の情報を基に回答を生成する「Notion Q&A」という機能がある。入社手続きについて質問すると、答えとともに適切なドキュメントを示すことが可能だ。導入当初は、Notion Q&Aを使って、情報の検索スピードが上がることを期待していた。

 しかし、全従業員がこの機能を使いだすと、思わぬ効果が見えてきたという。

 「最近、Notionで情報発信するケースが増えてきた。情報の取得がしやすいので、多くの従業員が参照や再利用をしてくれるようになり、それに備えて『とりあえず今ある情報を書いておこう』というモチベーションが高まっている。そして、情報発信量が増えるほど参照、再利用の機会が増え、結果としてNotion Q&Aやナレッジ共有の効果、価値がさらに高まる。このサイクルが繰り返されることで、NotionやNotion AIの効果、価値が高まる。実は、こうした自然発生的な活用が始まるのは予想外のことだった。社内では『Notionに聞いてみたら?』という言葉がよく聞かれるようになった」(図1)。

図1 Notion AIにより情報取得と情報発信のループが拡大(出典:ファストドクターの提供資料)

 具体的な現場の声としては次のような感想が上がってきた。

  • 情報のキャッチアップが圧倒的に速くなった
  • 「Slack」「Google Drive」、Notionから情報を抽出できる
  • 過去の成果物のリンクが迅速に取り出せる

 情報発信についても次のような声が上がった。

  • CSVからテーブル定義を作ってくれて、そのままNotionページとして保存できて便利だ
  • Notion AIの出力に加筆してドキュメントを作れる
  • Slack URLを貼り付けるだけでNotionが内容をまとめる
  • PRD(プロダクト要求仕様書)を書くのが楽になる
  • シーケンス図を作るのに「Notion+Mermaid」で効率がアップする

 西岡氏は「Notion Q&Aは検索機能の代替になりつつある。Slackの情報もGoogle Driveの情報でも一発でNotionで検索できる。しかも抽出した情報に社内情報を重ねて新しい情報を作ることもできる。これは他のAIツール単体ではできない。私自身、社内のお別れ会で乾杯の音頭をとる際にNotion AIにベースを作ってもらった。その人のエピソード、思い出を加えた文章が出てきた。これは他のツールでは難しいことだと思う」と語る。

 このように同社のNotion AI活用シーンは広がっている。分散している社内情報がNotion AIによって統合的に活用できるようになってきた。

 「『Notion+AI』はドキュメント作成の労力を軽減してドキュメント量の増加を招き、それによりQ&Aの価値が上がることでさらに利用が促進される。読まれるから情報発信も続くというループが回り出している。このように情報流通がスムーズになると、事業の成長スピードも上がる。AIオプションをパッケージしてこそNotionの価値が高まる」と西岡氏。

 トップダウンで全社導入を始めた同社だが、従業員の自然発生的なモチベーションで活用が広がっている。従業員数200人規模の会社で、Notion AIが事業にプラスの効果をもたらしている代表的な事例だ。

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