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国産ERPと海外ERP、ここまで違う「設計思想の原点」

海外のERPを採用すれば、世界で最適化されているシステムを利用することで世界に通用するノウハウを取り込むことができます。日本では不思議と、そのまま利用すると業務は効率化されず、カスタマイズを希望する企業が多く存在します。なぜでしょうか。

» 2024年02月16日 07時00分 公開
[佐藤裕樹ワークスアプリケーションズ]

迫る2027年 ERPの未来をどう見極めるか

SAP ERPのサポートが最長でも2027年末に終了する「Xデー」が迫っている。国産ERPを25年以上にわたり提供してきたワークスアプリケーションズが、「Xデー」以降の未来を考えるための情報を届ける。

 ERPとしてのパッケージシステムを検討するとき、ある程度の規模を有する企業ではまず次の点を考慮すべきです。

  • 世界中で利用されている海外産ERPを採用するか
  • 日本に最適化された国産ERPを採用するか

 この2つのうちどちらを採用するかが大きな分かれ道になります。そして、多くのシステム選定の担当者はこの2つの軸で複数の候補を挙げてシステムのコンペを組むかと思います。

 海外のERPを採用すれば、世界で最適化されているシステムを利用することで、世界に通用するノウハウを取り込めるので、自社業務の無駄をそぎ落とせると考える方がいるかと思われます。

 ただ、日本においては不思議とそのまま利用しても効率化されず、カスタマイズが多く発生してしまいます。海外と日本の商慣習の違いも一つの要因ですが、そもそもの設計思想の違いも大きいと考えています。

国産と海外産で大きく異なる「誰のためのシステムか」

 ERPを省略せずに言えば「Enterprise Resouce Planning」です。つまり、日本語に翻訳すると「経営資源計画」となります。経営資源である「ヒト・モノ・カネ」をどのように活用するかを計画するための情報を効率的に収集し、経営者層に情報を提供することを目的に作られています。

 つまり、ERPの主な目的は経営資源の配分の最適化であって、業務の効率化はあくまで従属的な目的にすぎません。海外製ERPはこうした設計思想を踏まえて忠実に設計されていると考えると分かりやすいと思います。従って、優先順位が劣る業務の最適化はテンプレートやアドオンという形で補完されているわけです。

 それに対して、国産ERPと呼ばれる製品群は「ERP」と言いながら、本来の目的とは別の「業務の効率化」を組み込んで提供することが多く見受けられます。

 なぜ、国産ERPの製品群がERPの本来の目的である「経営資源計画」だけでなく、「業務の効率化」の観点を組み込んで開発しているのでしょうか。ここには米国はじめ欧州などの海外と日本の人事制度の違いが大きく影響します。

経験としての入力業務、役割としての入力業務の違い

 ここからはそれぞれの典型例を挙げます。

 日本企業では新社会人として入社して経理部門に配属されれば、ほぼ確実に伝票の入力作業を担当することになります。他の部署からローテーションで回ってきても同様かと思います。

 そこで座学としての簿記がどのように処理されているかを学びながら、業務フローを学びます。時としてローテーションで他部署に配置換えになったり、システムの導入なども経験したりしながら役職が上がっていきます。

 つまり、日本では将来的な経営層の候補社員も入力業務を担当するのです。これは「経営資源」の観点で考えると入力業務の効率化は「ヒト」の効率的な活用に当たるため、重大な観点になってくるのです。

 海外ではどうでしょうか。MBA(経営学修士)を修了した新入社員は最初から幹部候補生としての役割を与えられ、入力業務に従事することはほとんどないでしょう。入力は入力者として雇用された別の担当者が行います。

 これは大きな違いです。入力者に「考えて学んでほしい日本」と「効率的に入力してほしい海外」です。そして、システムを利用する上で効率が上がる最大の要因は「慣れ」です。最初は使いにくいと思っていたシステムも数カ月も使い続けて慣れてくれば、別のシステムに比べれば使いやすいと思えるでしょう。ひたすら入力を繰り返す担当者を配置できる体制であれば、多少使いにくかったとしても慣れてしまえば効率化されるのです。

 このように「多様な経験を積むゼネラリストを生む日本型」と「役割に特化した経験を積むスペシャリストを生む海外型」の人事に対する考え方の違いが、ERPというシステムへの考え方の違いを生んでいるのです。以下が入力業務に対する日本と海外の違いをまとめたものです。

日本型 海外型
業務をする人 幹部候補を含むさまざまな役割の人 入力業務専任の人が中心(幹部候補が携わることはまれ)
担当者に求められること 業務を通じて考えて学ぶこと 効率的に入力すること

日本企業に適したシステムの構築

 では、実際にこうした考え方を把握したとして、自社でのシステム構築にどう生かせばよいのでしょうか。

 まずは、部署ごとに人材に対する考え方が異なるかどうかも把握してください。会社の単一の人事制度の中でも、業務領域ごとに人材に対する考え方が異なることが多いでしょう。例えば経理は「多様な経験を積むゼネラリストを生む日本型」にもかかわらず、財務は「役割に特化した経験を積むスペシャリストを生む海外型」など、近いように見える業務領域でも考え方が異なっている可能性があります。そのため、会社全体の人事制度がどうなっているかだけでなく、人材に対する考え方を部署ごとなどのくくりで把握してください。

 その上で、ゼネラリストとして育てていく考えの業務領域では、日本型の国産ERPの適合度は高くなる傾向が強いでしょう。それぞれの最適解を積み上げることで、部分最適と全体最適のバランスが取れた状態を実現できるかと思います。

 ネットワーク速度が向上したことにより、単機能のシステムの連携によってERPの役割を果たすことも可能になった現在は、業務領域ごとに強みを持ったシステムが生み出され、無限の選択肢を組み合わせることができるようになりました。統合型のERPを1つ選定すればよかった頃に比べて、選ぶ難易度は上がっています。しかし、それだけに自社に最適と思われるソリューションを選択し、構築するプロセスを経て理想の業務を実現できる可能性は広がっているといえるでしょう。

 担当される方はプレッシャーが多く大変かと思いますが、理想の業務を実現するためのパートナーとなるシステムベンダーが皆さまの横につくことを祈っております。

 今回は、海外産と国産のそれぞれのシステムの特性に重点をおいてお話ししました。次回は、先ほども触れた「選択する難しさ」が増しているシステム選定を取り上げます。

著者プロフィール詳細:佐藤裕樹(サービス事業企画本部)

2005年にワークスアプリケーションズに入社し、会計システム事業の立ち上げ期の導入コンサルとしてキャリアを開始。その後、導入手法企画、運用保守などのシステムにおける一通りのプロセスについて経験。小売業を中心にさまざまな業種や規模、地域でのシステム導入、運用改善の提案に参画。

現在は、会計業務を中心に業務改善コンサルタントサービスとして、顧客の問題解決に携わる。


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