国内2000社以上が導入しているといわれるSAP ERPのサポートが2027年末に終了する「Xデー」が迫っています。本連載では「Xデー」以降の未来を考えるため、ERPの最新の技術動向などを多面的にお伝えします。
「SAP ERP 6.0」のサポートが最長でも2027年末に終了する「Xデー」が迫っている。国産ERPを25年以上にわたり提供してきたワークスアプリケーションズが、「Xデー」以降の未来を考えるための情報を届ける。
国内2000社以上が導入しているといわれるSAP ERPのサポートが、最長でも2027年末に終了する「Xデー」が迫っています。
「S/4HANA」へ移行するのか、「第三者保守」を利用した延命を図るのか、「ポストモダンERP」のような形でシステム構成を見直すか、判断する必要があります。
「日本特有」「自社特有」の事情が発生しがちな日本のERP導入の実情を考えると、残された時間は長くはなく、今まさに「自社のERPをどうすべきか」、グランドデザインを改めて考え直すことが求められてます。
本連載では、国産ERPを25年以上にわたり提供し続けてきたワークスアプリケーションズが、「Xデー」以降の未来を考えるため、ERPの歴史や分類、選定ポイント、生成AIを含む最新の技術動向などを多面的にお伝えします。第1回では、多くの企業が直面する「2027年問題」の概要と、対応方針について整理します。
SAPは、国内大手企業を中心に2000社以上の実績を持つ、ERP業界のトップを走るベンダーです。その中でも、「SAP ERP 6.0」(ECC 6.0)は、「R/3」として1992年に登場して以来、「SAP ERP」と名称を変えながら、20年以上にわたり多くの企業に提供され続けました。
しかし、「SAP ERP 6.0」のメインストリームサポート(標準保守)は、2027年には終了すると発表されています。当初の保守期限は「2025年まで」と発表されており、2020年に「2027年まで」延長が発表されたものの、今後についてChristian Klein氏(SAPのCEO)は、「期限を再延長するつもりはない」と発言しています(また、2027年まで延長されたのはエンハンストパッケージ6以降の「SAP ERP 6.0」のみなので、それよりも古いバージョンのSAPユーザーは2025年までの対応が必要です)。
保守サポート期限が迫る中、2000社を超えるSAPユーザーが懸念を抱いているのは、下記の2つの問題かと思います。
S/4HANAへ移行する場合は、多くの金銭的なコストはもちろん、要件定義やシステムアーキテクチャの変更に伴う人的コストが多く発生します。もちろん、他社システムへの移行を図る場合であっても、同様のコストが発生することは避けられません。
「保守切れ」に伴って少なくはない投資が必要になるため、ERPの「あるべき姿」を否応なく検討しなおすプレッシャーにさらされているのが、多くの企業の現状かと思います。
多くのSAPユーザーは、自社のビジネス要件を満たすために個別のアドオン、モディファイなどを行い、企業ごとの「カスタムコード」が存在しているかと思います。S/4HANAを利用するにはカスタムコードはそのまま移行できないため、影響範囲を見積り、必要なコードを移行、テストする必要があり、実現可能性の精査が求められます。
また、他社製品に移行する際も、カスタムで実装した要件を実現できるのかどうかを見極める必要があり、カスタムコードが存在しているほど移行のハードルは高くなります。
それでは、こうしたSAP ERPサポート終了に伴う問題に対して、ユーザー企業はどのように対応していけば良いのでしょうか。
個々の企業の状況に応じて最適な選択肢は異なりますが、大きく下記の4つの方針に大別できるのではないでしょうか。
完全に新規でS/4HANAを「導入しなおす」手法です。インフラ投資の世界で利用される「今まで手がついたことの無い草だらけの土地」を指す言葉になぞらえて、グリーンフィールドと呼ばれています。
メリットは、既存のSAPの利用方法に捉われない移行ができるため、業務の合理化に取り組みやすい点かと思います。一方、データ移行や設定、アドオン開発などをすべて0から行うため、プロジェクトのコストと難易度ともに高いのがデメリットです。他システムへの移行と変わらない手間をかけることになるため、SAPにシステムとして高い評価をしている企業を除くと、この方針を取るメリットはあまり多くないかと思います。
既存のSAPのデータを移行することでS/4HANAへ移行する手法で、一般的なシステムのアップグレード、マイグレーションなどと呼ばれるものとほぼ同義です。グリーンフィールドと同じく、「既に開発されている土地」を指す言葉になぞらえて、ブラウンフィールドと呼ばれます。
メリットは、データを移行できること、業務フローを基本的に変えなくて済むことです。一方で、根本的な業務改善は先送りされやすく、S/4HANAではアーキテクチャやテーブル定義も変更されるため、カスタムコードは開発しなおしになり、コストがかさむケースも多いです。
「すぐに結論を出すのが難しい」という判断から、第三者保守サービスを活用する事例も増えています。「SAPの標準保守を離れ保守料を下げながら、法改正対応や個別開発したコードの保守も行い、10〜15年程度現行バージョンが使い続けられる」といったサービスをうたう企業も出てきています。
「脱SAPまでの時間を稼ぎたい」という場合にはまたとないソリューションですが、第三者保守を利用した場合、SAPの標準サポートに戻れないケースも多いため、SAPの利用停止を明確に考えている企業のみ利用できるサービスと考えるのがよいでしょう。
第三者保守を選択肢に入れたとしても、将来的にはSAPからの移行先を判断するタイミングが来ます。移行に際しては、「すべてを別のERPに入れ替える」だけではなく、適材適所で製品を組み合わせる、「ポストモダンERP」の考え方を取るケースが昨今増えています。
例えば、当社は国産のERPベンダーであり、会計やSCM(サプライチェーンマネジメント)の領域で幅広く製品を持っていますが、全ての領域を使うのではなく、一部の領域だけを利用するケースが増えています。「日本の税務の色が強い固定資産の領域だけ使いたい」「国内は統一して、海外は別製品を使いたい」など、各企業の置かれた状況に応じて様々なニーズがあるため、それに応えられる専門性と柔軟性がある製品が重要です。
こうした考え方を取れば、強みのあるシステムを使うことで個別開発を最小限に抑えられるのはもちろん、中核となるシステムがあることでシステム間の連携(インタフェース)開発がかさみすぎることもありません。もちろん、システム移行に人的、金銭的コストはかかりますが、S/4HANA以降もいずれ来るであろう「次のバージョンアップ」を考えると、本質的な改善のための必要な投資と考える企業が多いのが実情です。
では、こうした選択肢がある中でどのような選択をすべきなのでしょうか。次回以降は、ERP自体の歴史や製品比較の方法、将来実装されていく機能などを見ていくことで、自社のERPの「未来」を考えていくためのコンテンツをお送りします。
次回は「ERPの歴史」をひも解いていくことで、そもそもERPが当初求められていた役割や、本質的な価値について考えていきます。
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