ひと昔前のソリューションは機能だけで差別化できるものが数多く存在していたが、SaaS全盛の現在では、選び方のポイントも変わってきている。結局2つに集約されてしまうポイントとは何か。
筆者は企業におけるソリューション活用事例を取材している。多くの企業に共通しているのが人材に関する課題だ。ソリューションを導入する目的は千差万別であるものの、管理者と利用者の双方にとって扱いやすいものが求められていると感じる機会がこれまで以上に増えてきた。業務効率化のために導入したソリューションだが、結果として持続可能な基盤づくり、つまり“スペシャルな人材でなくても基盤運用ができるかどうか”が大きなカギとなっている印象を受ける。
ひと昔前は、機能だけで差別化できるソリューションが数多く存在していたが、SaaS全盛の今では、サービス側のプロダクト改善がバージョンアップを待たずに進み、より使い勝手のいいものが随時提供される。その結果、機能差は時間差に置き換わっているといっても過言ではないだろう。また、多くのサービスが 「Amazon Web Services」(AWS)や「Google Cloud」(GCP)、「Microsoft Azure」といったメガクラウドで展開されていることから、セキュリティやガバナンスの面で差別化が生まれにくく、製品選定のポイントにはなりにくい。
その結果、ソリューション選びのポイントを聞くと、「ユーザー体験のいいもの」「管理負担がないもの」という2つのポイントに絞られる。正直記事を制作する立場としては、ソリューションが異なっていても選定のポイントは同じという既視感を味わうわけで、「結局そこか」とつぶやいてしまう。この2つのポイントも、具体的に解決したいことを抽象化すると、今いるメンバーに対して負担がかからないもの、つまりは現場から総スカンを食らわないものが求められる。いわば、時間と費用をかけてようやく採用できた人材を手放さないよう、使い勝手のよさが最優先されていることに他ならない。
ソフトウェアの品質を確保しようとテストを繰り返すQA(Quality Assurance)エンジニアにとって使いやすい環境を整備した企業も、製造現場で実直に働く人が社内で目立つよう情報発信できる社内SNSツールを導入した企業も、最終的にはメンバーの会社に対するエンゲージメントを高めてられるかどうかを重視していた。ある企業の広報部門では、顧客やマーケットに向けた対外的な発信よりも、社内メンバーにやりがいを感じてもらえるような、インターナルコミュニケーションの充実を中期経営計画の注力施策に据えていると語っていた。
また、デジタル空間でメンバー間のコミュニケーションを円滑にしながら、オフィス空間を整備し、気軽に会話が生まれやすい物理空間でのコミュニケーション環境に積極的に投資する企業もある。「コロナ禍で従業員が集まる機会が減ったことで、より採用しづらい状況が続いている。自社のビジネスを伸ばすことよりも、組織をどう維持するのかが喫緊の課題なのは否定できない」と吐露する場面も。製造現場に業務基盤を整備するプロジェクトに携わった管理者の取材では、「ローコードソリューションを選ぶ際に、メンバーに触ってもらったうえで決めました。機能よりも“一番楽しそうに触ってくれた”ソリューションだったことが一番の動機です」というコメントが印象的だった。
企業が求める要件を実装してサービスに落とし込むには、とにかくユーザーの声が聞ける場面を増やすしかない。その影響もあるのか、「ユーザーの声を聞きたい」と、カスタマーサクセス部門の担当者を取材に同行させるベンダーも多い。取材陣のメンバーが増えてしまい、会議室に収まり切れなくなってしまうのには閉口するのだが。
多くのSaaSがAIエージェントに駆逐される時代はいずれやってくるのかもしれないが、いずれにしてもユーザー志向のプロダクトが増えることは歓迎すべきことだ。UIやUXが重視される今の時代、どのような答えをサービス提供側が示してくれるのか、興味が尽きないところだ。
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