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Microsoft 365 Copilotの社内活用、最低限の工夫で最大の効果を得る方法とは?

「社内に根付かない」「活用が広がらない」。Microsoft 365 Copilotの推進担当者なら、一度は頭を抱える課題だろう。だが、ここで必要なのはテクニカルな解決手段ではない。

» 2025年10月31日 07時00分 公開
[太田浩史内田洋行]

 「Microsoft 365 Copilot」(Copilot)は日々の業務に溶け込み、私たちの作業を支援する存在として、多くの場面で使われ始めている。しかし、自社でも導入し、その活用を社内に広げようとするものの、「思ったよりも盛り上がらない」「社内での活用事例が集まらない」「利用者の声が出てこない」といった壁にぶつかることも少なくない。

 なぜ社内での活用事例が集まりにくいのか、そして、進化のスピードに対応しながら活用を定着させるには、推進担当者は何をすべきなのか。具体的な視点と実践的なヒントを交えて筆者なりの考えをお伝えしたい。

著者プロフィール:太田浩史(内田洋行 エンタープライズエンジニアリング事業部)

2010年に内田洋行でMicrosoft 365(当時はBPOS)の導入に携わり、以後は自社、他社問わず、Microsoft 365の導入から活用を支援し、Microsoft 365の魅力に憑りつかれる。自称Microsoft 365ギーク。多くの経験で得られたナレッジを各種イベントでの登壇や書籍、ブログ、SNSなどを通じて広く共有し、2013年にはMicrosoftから「Microsoft MVP Award」を受賞。


“ちょっと便利”では伝わりにくい “使っている姿”が一番の推進力

 Copilotの活用を社内で推進していくに当たり、まずは社内で使われているユースケースを集めてみようと思うものの、これが意外と難しいものだ。Copilotのユースケースはどうしても「個人のちょっとした作業支援」が中心になりがちだ。例えば「メールの要約で内容を理解するのが早くなった」「議事録の下書きにより、作成が楽になった」といった体験は、あまりに日常的で、わざわざ共有するほどでもないと感じる利用者も多い。

 また、以前の記事で紹介したように、Officeアプリなどに組み込まれたCopilotにはワンクリックで利用できる機能も多く、使い方がシンプルすぎて「自分で工夫したわけではなく、ただ機能を使っているだけ」だと思われがちで、活用事例として表に出にくいこともある。さらに、生成AIへの期待の高さのあまり劇的な成果でなければならないと考える利用者にとっては、日々の作業がちょっと楽になっても共有する価値がないと感じてしまう。

かしこまった社内事例やユースケースは集まりづらいことがある。そんなときはいつも使っているありのままの姿を共有してみよう(筆者作成の資料)

 誰もが感心するような立派な事例は確かに見栄えも良い。だが、多くの利用者にとって本当に効果的なのは、「あまりに日常的で、わざわざ共有するほどでもない」使い方だ。

 そして、社内では、他の人が使っているのを見て「自分もやってみようかな」と思う人が多い。「業務改善事例」や「社内ユースケース」といった立派な看板を掲げなくても構わない。まずは日常の中で「便利だった」「助かった」という体験を、そのまま素直に口頭や「Teams」の投稿、「Viva Engage」などで気軽に共有してみてほしい。スクリーンショットや一言コメントを投稿するだけも十分だ。使い続けている姿そのものが、社内における活用推進にとって欠かせないコンテンツになる。

共感が広がると、活用も広がる

 他にも、うまくいかなかった失敗談や、「こうしたらよくなりそう」というアイデアにも、実は大きな価値がある。社内で既にCopilotを使っている人がいる、自分と同じように試行錯誤している人がいる、使ってみたけどうまくいかなかった人がいる――使い続ける様子を見た利用者がそう感じ、共感が生まれることで社内の活用が広がっていくからだ。

継続して使い続けている姿や使い方は他の同僚からも共感を得やすい。社内活用を広げるためのサイクルを回そう。(筆者作成の資料)

 成功事例だけでは共感は広がらない。共感を得るには失敗例も重要だ。立派な業務改善事例や社内ユースケースだけでは利用者の共感は得られないだろう。ときにはCopilotが思い通りに動いてくれない愚痴を共有しあうことも心理的ハードルを下げるきっかけになる。こうしたCopilotを活用しようとするありのままの姿によって、利用を始めようとする他の人を後押しし、そして、使い続けることで共感や気付きを与えられるのではないだろうか。

進化のスピードに追い付くには“継続”が大事

 活用推進担当者が社内でも率先して使い続けるべきもう一つの理由が、Copilotの進化の早さにある。Copilotをはじめとする生成AIは、とにかく進化のスピードが早い分野だ。1年前のCopilotと今のCopilotは、もはや“別物”と言えるほど機能も使い勝手も変わっている。Copilotがリリースされた当初に少し使ってみてうまくいかなかったから「Copilotはまだまだ使いものにならない」と感じ、その後ほとんど使っていないという利用者も多いはずだ。

 しかし、ずっと使い続けている人であれば、「以前はできなかったことが、今ならできる」「新しい使い方がどんどん生まれている」ことを実感できているはずだ。使い続けることでしか、Copilotの進化や新しい活用法はキャッチアップできない。そしてその実感を社内の他の利用者に届けるには、使っている姿を見せることが一番だ。

1年前、数カ月前のCopilotと今のCopilotは違う。今のCopilotを知っているのは使い続けている人だけだ(筆者作成の資料)

“進化”は使ってみてこそ分かる

 特に最近では、Copilotで「GPT-5」が利用できるようになったことで、指示の理解力や会話力、提案力などが大きく進化した。また、回答を生成するために、これまでよりも多くの社内情報を参照できるようになり、より役立つ提案が得られやすくなっている。

 さらに、2025年9月末に発表された「Agent Mode」は、「Word」や「Excel」などでのCopilot利用を大きく変化させる進化になりそうだ。ExcelのAgent Modeについては、「Frontierプログラム」と呼ばれる新機能の先行プレビュープログラムの一つとして既に試用できるが、そのあまりの進化には驚かされる。

 これまでのExcelのCopilotよりも格段に利用者の意図を理解し、推論や検証などの高度な処理をしながらタスクを実行してくれる。これまでのAIが提案を返して人の作業を補助してくれる存在であったとするならば、Agent Modeは人の作業の一部を任せることができるAIだ。こうした進化にいち早く気付き、そしてそれを業務に生かしていくためには、Copilotを使い続けることだ。

新たに発表されたExcelのAgent Modeは、簡単な分析の指示をもとに、Copilotが分析の方針を考え、集計、エラーの対処や正確性の検証、考察までの一連の分析タスクを行ってくれる(筆者作成の資料)

続けることが、現場を変える

 社内でCopilotの活用を広げようとしても、思ったように進まないことが多い。Copilotの活用推進だけを専任で担っている人は恐らく少なく、ほとんどの担当者は他の業務も兼任しているはずだ。時間も取れず、人手も少なく、どうしたら良いのかと悩んでしまう人もいるだろう。または自らの業務とは関係なく、社内でCopilot活用を広めたいという思いから有志で推進活動を行っている人や、これから活動したいと考えている人もいるかもしれない。

なかなか社内推進がうまく進まなくても、自ら使い続けることが推進担当者の一番大切な役割(筆者作成の資料)

 限られた時間やリソースの中で、一体なにができるのだろうと考えたときに、最低限の活動で最大の効果を得られる施策こそが推進担当者が「自分で使い続けること」にあると筆者は考えている。Copilotを使い続けて、その姿を他の同僚とも共有すること。それこそが、推進担当者にとっての一番大切な役割だ。

小さな積み重ねが、働き方を変えていく

 本稿を含む全5回の記事で伝えたかったことは、Copilotの活用推進は、決して派手な成果や劇的な変化だけが価値ではないことだ。日々の「ちょっと便利になった」「前より楽になった」といった小さな積み重ねが、やがて大きな業務改善や働き方の変化につながっていく。Copilotは今も進化を続けていて、その変化をもっとも実感できるのは、やはり使い続けている人だと感じる。

 これからのCopilotは、単なる作業支援ツールから、もっと業務全体を支えてくれる“頼れる存在”になっていくはずだ。Agent Modeのような新しい機能も、実際に触ってみないと分からないことが多い。現場で日々使いながら、「あれ、前より便利になっているな」「こんなこともできるようになったんだ」と気付くことが、次の一歩につながる。自分のちょっとした工夫や気付きが、周りの同僚やチームにも広がっていく。そんな積み重ねが、結果的に組織全体の力を底上げしていくはずだ。

最初は1人のちょっとした便利でも、共有し共感が広がることで組織の働き方を変える(筆者作成の資料)

 まずは、無理なく自分のペースで使い続けてみてほしい。使い続けていると、思わぬ発見や変化に気付くことが増えてくる。みなさんの現場でも「今のCopilot」を試してみてほしい。

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