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「面倒だった隙間の手作業」をカバーする業務支援クラウドとは?すご腕アナリスト市場予測(1/3 ページ)

既存IT資産の移行先ではなく、これまでカバーできなかった隙間を補完する「業務支援クラウド」が大きな潮流に。その実態に迫る。

» 2017年04月26日 10時00分 公開
[岩上由高ノークリサーチ]

アナリストプロフィール

岩上由高(Yutaka Iwakami):ノークリサーチ シニアアナリスト

早稲田大学大学院理工学研究科数理科学専攻卒業後、ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ベンチャー企業などでIT製品およびビジネスの企画、開発、マネジメントに携わる。ノークリサーチでは技術面での経験を生かしたリサーチ、コンサルティング、執筆活動を担当。


 クラウドといった場合、社内設置とクラウドのどちらを選ぶべきかの二者択一を迫られるのではないかと考えるユーザー企業は依然として少なくない。だが、過去にもASP、ホスティング、運用アウトソーシングなど、ユーザー企業はさまざまなIT活用形態を適材適所で使い分けてきた。

 クラウドについても「既存のIT資産を移行する」という発想に加えて、「これまでカバーできなかった隙間を補完する」という視点が重要となる。その最たる例が「業務支援クラウド」だ。業務支援クラウドとは何か、どのような場面で役立つのかを理解すると、クラウド活用の幅も大きく広がってくる。

業務支援クラウドとは?

 既に多くの方がご存じの通り、クラウドには大きく分けてSaaS、PaaS、IaaSという3つの種類がある。SaaSは業務アプリケーションをサービスとして利用する形態であり、PaaSはミドルウェアや開発環境をサービスとして利用する形態、そしてIaaSはサーバなどのハードウェア環境をサービスとして利用する形態だ。

 この中でもSaaSについては非常に多くのサービスが存在する。会計、販売、人事、給与、グループウェア、CRMなど、社内設置で利用されてきた業務アプリケーションの多くがSaaSでも提供されている。

 一方、昨今では「名刺管理サービス」のような新しいタイプのSaaSも登場してきている。これらは業務アプリケーションとしては広く普及しておらず、多くの企業が手作業でカバーしていた業務をサービス化したものだ。

 前者では既存の業務アプリケーションをクラウド移行すべきかどうかの判断が必要となるが、後者は手作業で行っていた業務をサービス化する、または既存の業務アプリケーションに追加する形での導入が主体だ。

 このように前者と後者では導入のいきさつが大きく異なるため、ユーザー企業としても両者を切り分けて捉えておくことが大切となる。そこで、ノークリサーチでは後者に該当するSaaSを「業務支援クラウド」と呼び、既存の業務アプリケーションを移行する流れとは区別している。

業務支援クラウドの位置付け 図1 業務支援クラウドの位置付け(出典:ノークリサーチ)

 こうした「業務支援クラウド」が登場した背景は何だろうか。前述の「名刺管理サービス」を例として考えてみよう。「名刺をスキャンして電子データとして管理する」という機能であれば、既存の人事、給与アプリケーションに実装することは可能だ。

 しかし、機能を追加すれば、それだけパッケージ価格も上がってくる。ユーザー企業としては名刺を電子化するためだけにプラスの金額を支払うことは難しいだろう。つまり、手作業で行っている業務を効率化したいというニーズは潜在的に存在していたものの、

  • 課題1:パッケージ価格が上がるほどの金額は払えない
  • 課題2:支払う金額に足るだけのメリットが見込めない

といった点が課題となって、名刺管理のような業務は「業務アプリケーションではカバーされない隙間」となっていたわけだ。

 だがクラウドが普及するにつれて、アプリケーションをクラウド形態で構築、運用するためのコストが下がってきた。つまり、IT企業がSaaSを安価に提供できるようになってきたわけだ。その結果、ユーザー企業に対する価格も下がり、課題1が徐々に解消されてきた。

 また、IT企業もクラウドに関する経験を積み、クラウドならではのメリットを訴求できるようになってきた。例えば「名刺管理サービス」であれば、「名刺を交換した顧客の情報を拠点間やグループ企業間で共有できる」などの利点が考えられる(ただし、その際は名刺を差し出した本人に了承を得ることが望ましい)。こうして課題2の解消も進み、業務支援クラウドが数多く登場するようになってきたわけだ。

 このように業務支援クラウドを理解する上では

  • 背景1:SaaSを安価に適用できるようになった(課題1の解消)
  • 背景2:これまでにない新たなメリットが生じた(課題2の解消)

の2つを同時に押さえることが重要となる。「単に安く利用できるSaaS」ではなく、「どんなメリットがあるのか」を常に意識することが大切だ。

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