以下では業務支援クラウドの具体例を列挙するが、上記に述べた点を踏まえて「どのようなメリットがあるのか」という観点でグループ分けしながら解説していくことにする。
このグループに属する業務支援クラウドはユーザー企業にとってもなじみ深いものが多い。具体的には「交通費精算サービス」「クレジットカード決済サービス」などが該当する。
交通費精算サービス
ICカードや乗り換えサービスとの連携による効率的な交通費精算を行う。(例)ソウルウェア「kincone」
クレジットカード決済サービス
タブレットとクラウドを用いて手軽にクレジットカード決済システムを構築する。(例)Square「Square」
どちらも以前からSaaSに近いサービスは存在していたものの、価格の高さや設備投資が必要であることが障壁となっていた。だが、前者では乗換案内サービスとの協業により利便性の高いサービスを手軽に提供できるようになったこと、後者ではスマートフォンを用いてカード読取装置を代替できるようになったことで導入障壁が大きく下がった。他にも「利用しているサービスの中で、もっと手軽で便利なものはないか」を再確認すると、グループ1に該当する業務支援クラウドが見つかるかもしれない。
企業内には「手作業で行うのは面倒だが、外注するほどのコストはかけられない業務」も多く存在する。そうした手作業の負担を軽減し、業務を効率化するために有効なのがグループ2に属する業務支援クラウドだ。具体的には先に述べた「名刺管理サービス」や「オンラインマニュアル発行/管理サービス」などが該当する。
名刺管理サービス
個々の社員が所持する顧客の名刺を集約し、顧客情報を共有する。(例)サンブリッジ「SmartVisca」、Sansan「Sansan」
オンラインマニュアル発行、管理サービス
業務マニュアルをデジタル化し、スマートデバイスなどで最新版を共有する。(例)スタディスト「Teachme Biz」
グループ2の業務支援クラウドでは「利用する社員の意識を変えること」も重要となる。例えば、「名刺管理サービス」を導入しても、営業社員が訪問前に名刺データをチェックし、客先で「御社の**部署のxxさんも弊社のお客さまですよ」と言えなければ十分な効果は期待できない。
また「オンラインマニュアル発行、管理サービス」を導入しても、顧客から出た苦情やクレームを即座にマニュアルに反映して従業員に周知させる流れを構築しなければ、紙のマニュアルと大差はない。業務支援クラウドのメリットを享受できるかどうかはユーザー企業側の取り組み姿勢も大きく関係してくるわけだ。
会計の仕訳処理や人事の労務手続きは専門知識が必要となるため、会計士や社労士などの士業に作業を委託する必要が生じることもある。だが、作業そのものは一定のルールに従った事務処理なので、企業としては「社内の人員でカバーできれば、コスト削減につながる」と考えるのが当然だろう。
実際、士業に委託していた業務の一部を担うことのできる業務支援クラウドも登場してきている。これがグループ3に該当し、具体的には「会計管理の簡略化サービス」や「労務手続き簡略化サービス」が該当する。
会計処理の簡便化サービス
手作業やMicrosoft Excelで行っていた会計処理の作業負担を軽減する。(例)freee「freee」、マネーフォワード「MFクラウド会計」
労務手続き簡略化サービス
社会保険や雇用保険などの労務手続きをオンラインで手軽に行う。(例)KUFU「SmartHR」
ただし、「こうした業務支援クラウドを利用すれば、士業が不要になる」というわけではない点に注意が必要だ。会計士が担う役割は仕訳処理だけではなく、経営に関する助言を得ている企業も少なくない。グループ3の業務支援クラウドを活用する際には士業とも相談しながら、クラウドを活用して省力化する部分と士業というヒトから支援を受ける部分をどう切り分けるかを判断することが重要となってくる。
グループ4は該当する業務アプリケーションや職責が存在しなかったものだ。具体的には「社員のモチベーション向上」や「人材データベース」などが該当する。
社員のモチベーション向上
業務状況を基に社員の心理状態を可視化し、カウンセラーがチェックする。(例)エール「YeLL」、キーポート・ソリューションズ「Willysm」
人材データベース
社員情報を顔写真とともに管理し、閲覧、検索できる。(例)カオナビ「kaonavi」
従来、「社員のやる気を引き出す」という取り組みは各部署の上司が個々の裁量で行い、社員は同僚との交流などを通じて「社内で人脈を広げる」ための術を身につけていった。しかし、昨今では会社帰りの飲み会も減り、働き方も多様化している。そのため、人材の交流や育成を支援するための仕組みが必要となっているわけだ。このようにグループ4の業務支援クラウドは社会や働き方の変化によって生まれてきた新しい分野ともいえる。
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