Zinraiの分析技術を活用する場は医療の分野にも及ぶ。新しいヘルスケアシステム「Advanced Clinical Research Information System」は、わずか数秒で患者の健康リスクを算出する。
従来の診断では、異なるフォーマットで書かれた紙の資料をベースに、必要な患者の情報を整理する段階で、多くの時間を要していた。Advanced Clinical Research Information Systemは、患者の情報の確認をシステム化することで、医師の診断時間を大幅に削減した。
スペインのサンカルロス医療研究所と行った実証実験では、プライバシー保護のために匿名化された3万6000件以上の患者の医療データと、100万以上の医療関連の学術論文などのオープンデータを、AIが解析することによって、85%以上の精度で自殺、アルコール依存、薬物依存などの健康リスクを算出することに成功した。その結果、医師は患者の問診により多くの時間をかけることができるようになり、医師による診断の時間も半分にまで削減された。
このシステムは、早期の治療や迅速な判断、包括的な視点からの診断が必要な精神医療の分野で期待が高まっている。
Zinraiを活用した商品には、富士通の社内業務で実際にZinraiを使用して得られたノウハウをAIに学習させ、サービス化したものもある。営業の提案書作成を支援するサービスもその1例だ。蓄積された過去の提案書をAIで分析し、再利用することで、提案書作成が効率化できる。
例えば、キーワード検索から提案書のスライドを一覧で表示させたり、絞り込み検索によりスライドを探し出してダウンロードしたりできる。実際に、富士通が社内でこの技術を使用したところ、提案書作成にかかっていた時間がおよそ2時間から14分へと短縮した。
今後は、富士通の社内実践を通して営業業務の分野だけでなく、ものづくりや経営企画、SI、サービス分野でもソリューションを提案していく予定だ。
同社は、上記で紹介した例以外にも、AI分野で著名なフランス国立情報学自動制御研究所(INRIA)と共同研究を行う他、理化学研究所とともに「理研AIP-富士通連携センター」を設立した。他にもGRIDや北米スタートアップなどのパートナーと協業し、AI活用分野の裾野を広げていく。
「蓄積した技術と知見をつなぎ、サービスとして価値を提供するハブとなる」ことを目指すという富士通。今後のさらなるサービスの洗練、汎用(はんよう)に期待したい。
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