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ドローン映像をリアルタイムに暗号化する「動画データ完全秘匿中継」とは?5分で分かる最新キーワード解説(4/4 ページ)

» 2017年06月07日 10時00分 公開
[土肥正弘ドキュメント工房]
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「動画データ完全秘匿通信」の課題と今後

 テロ対策など施設セキュリティがますます重要になっている今、重要施設の警備のためのドローン使用ケースはこれからどんどん増えるに違いない。そのとき、機密データの横取りや、制御の乗っ取りによるドローン奪取などの不正行為の可能性は、できる限り減らしておかなければならない。現状ではドローンのリモコン操作や自動航行のための通信は既存の一般的な暗号化技術さえ利用していないことも珍しくなく、ドローンの役割が重要性を増すほどに、運用はハイリスクなものとなっている。

 「動画データ完全秘匿通信」は、ドローンの制御データと映像データの両方を、不正行為から完全に防御できる仕組みを持っている。しかもリアルタイム映像監視に好適な低遅延での映像伝送を低コストに実現できる技術でもある。中継ドローンや撮影ドローンの台数を増やせば、監視エリアはどんどん広げられる。

 取材したNICTの佐々木氏は今後の課題として「真性乱数生成のスピードアップ、どんな電波環境の場所でも同期ズレを最小限にする信頼性の向上、さらに鍵管理・配布の運用上の問題」の3点を挙げる。真性乱数の生成や鍵配布に関しては、量子雑音を用いた高速乱数生成と、量子暗号鍵配送技術が課題解決につながると考えている。これには光検出器の低コスト化が条件の1つになるが、超高感度のアレイ型CMOSセンサーが主に自動車搭載用途で量産されようとしており、その応用が突破口になるのではないかと見ている。

 佐々木氏は、「現在のMPEG-4映像品質を、もっと高精細・高品質の映像とし、スタジアムなどでの監視用途に実用できるようにしたい。さらに飛んでいるドローンとの間に暗号化通信を確立したり、東京・大阪間での真性乱数表共有ができるような鍵配信ネットワーク作りにも挑戦したい」と抱負を語った。

 とはいえ、一定のエリア内でのドローン業務なら、この技術の応用に特段のコストもかからない。佐々木氏によると、仕様が分かれば暗号化チップ、メモリ、マイコン、指向性アンテナをドローンに搭載(推定10万円程度)するだけで、3日程度でシステム運用開始可能ということだ。

関連するキーワード

ドローンの自律航行

 ドローンがGPS信号や映像センサーなどの情報をもとに自身の判断で姿勢や航路を決める自動飛行方法。ドローンは一般的にはラジコンのような人間の判断によるリモート操作で航行するが、特に物流や施設・設備管理などの産業からは人手を省略できる自律航行に期待が寄せられている。

「動画データ完全秘匿中継」との関連は?

 ドローン操縦のための制御データを暗号化するのが「動画データ完全秘匿中継」の1つの目的。撮影ドローンや中継ドローンを自律航行させることで、最適な映像捕捉やデータ中継に役立てることができる。

ワンタイムパッド

 送信する情報と同じ長さの真性乱数を暗号鍵として用意し、はぎ取り式メモ(パッド)のように、1回暗号化を行ったらその分の暗号鍵を使い捨てる方式。いったん暗号化された情報は、暗号化時と同じ暗号鍵がなければ復号できない。同じ暗号鍵(=真性乱数表)は1度しか使えず、送信情報が異なれば別の暗号鍵が必要になる。この方式では、同じ暗号鍵を持っている相手以外は理論的に暗号解読できないことが証明されている。

「動画データ完全秘匿中継」との関連は?

 動画データ完全秘匿中継技術ではワンタイムパッド方式でドローン制御データと映像データを暗号化して送信する。事前に地上局と各ドローンはあらかじめ用意された真性乱数表が入ったUSBメモリを装着し、それを用いて暗号化と復号を行う仕組みをとる。ドローンの航行持続時間はバッテリーの問題から約1時間。その映像送信に要する真性乱数表のサイズは、設定画質に応じてサイズが異なるが、MPEG-4映像なら5〜6GB程度で十分だ。

真性乱数

 乱数はさまざまなアプリケーションや暗号化技術で利用されているが、そのほとんどは決まった計算アルゴリズムで作り出されたもので、厳密に言うと偏りや周期性が必ずある「疑似乱数」である。それを解析すると、乱数が推測できることになり、暗号解読が可能になる。一方、どのようにしても予測できない完全にランダムな数字の並びのことを「真性乱数」といい、これは計算アルゴリズムではなく、予測不能な物理現象をもとにして生成しなければならない。例えば、物質の「熱雑音」あるいは量子力学でいう「量子雑音」などによって生成する。

「動画データ完全秘匿中継」との関連は?

 本文中の実験においてワンタイムパッド方式の暗号化に用いる乱数表は、半導体の熱雑音を利用して生成した真性乱数でできている。現在小型の真性乱数発生器で秒当たり2MBの真性乱数を生成することができるが、もっと簡便・高速に真性乱数が生成できることが望ましい。

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