ドローンを利用した動画中継を実証したこともすごいのだが、それよりも重要なポイントは、この技術が動画データのリアルタイム完全秘匿通信を実現したことだ。無線通信の暗号化にはWEP、WPA、WPA2やIPsec、SSL/TLSが用いられているが、それらは計算機性能の上限を見込み、実用的な時間内での解読可能性が低いことを前提にしたものだ。
一方この技術が採用したワンタイムパッドは、解読不可能なことが理論的に証明されている。解読可能性が低いのではなく、どんなに計算機性能が上がっても解読できないのである。しかも上述の暗号技術よりも上位レイヤーでの暗号化であるため、それら既存暗号技術を組み合わせることも可能であり、安全の上にも安全を期することにつながる。
ワンタイムパッド方式の堅牢性は、データと同じ長さの乱数表を用い、乱数表は使用した直後に消去されることで実現される。例えば現在一般的に安全とされる秘密鍵暗号のAESは最大256ビットの鍵長が使用されるが、この実験では12Mbpsで15分間の映像撮影を想定したため、鍵長=乱数表のサイズは約11Gビットに及ぶ。
その代り、短い鍵長を利用する暗号技術で必要な複雑・大量の計算処理が不要であり、データと暗号鍵のXOR(排他的論理和=足し算)だけで暗号化が行え、受信側の復号も同様にシンプルにできる。その処理は計算性能が貧弱なCPUでも十分高速に実行可能なので、暗号化通信モジュールは軽量、低コスト、低消費電力にでき、ドローン搭載へのハードルを低くする。しかも処理に時間を要しないので遅延を最小限にすることにもつながる。
また暗号の堅牢性を確保するために、もう1つの技術が使われた。乱数表の作成に絶対に規則性や再現性のない「真性乱数」を利用したのだ。一般的な計算処理によって作り出す疑似乱数ではなく、予測不可能な物理現象を用いて作り出した乱数が真性乱数だ。
この実験では、半導体の熱雑音を利用する物理乱数生成器を使用し、あらかじめ幾つかの真性乱数表を作成、地上局と各ドローンが共有できるよう同一乱数表をUSBメモリに保管し、飛行前に地上局と各ドローンに接続して利用した。実運用ではドローンのバッテリー交換のタイミングで別の乱数表が保存されたUSBメモリに交換する方法での乱数表共有を想定している。
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