単一の業務モジュールでのクラウド型ERP利用から発展し、横展開で他の業務もクラウド型ERPに乗り換えていくという流れが一般的だろう。
前項に続き、人事給与モジュールを導入済みの場合で想定してみよう。
特に中小企業の場合では、人事給与と会計を同じ部署あるいは同じ担当者が兼務していることもあるだろう。その際に同じユーザー画面や操作性で、これらの機能を使うことができるのは、利用開始までの期間や慣れるまでの時間を大幅に短縮することにもなる。
また両方とも同じクラウド型ERPのモジュールなので、後から利用を開始したモジュール用にイチから部門データなどを登録し直す必要もない。この点でも、クラウド型ERPの利用を拡大していく際のハードルは非常に低いといえるだろう。
クラウド型ERPのモジュールの中で、最初の導入検討対象になりやすい人事給与や会計は、端的に言えば、どんな企業においても、処理の内容にそれほど大きな違いがあるわけではない。
もちろん経営管理を強化するために、多様な管理会計項目を設定したいというニーズもあるだろうが、ベーシックな事務処理自体が大きく変わるわけではない。そのため、個別業務パッケージからの移行や必要な機能の精査にそれほど多くのパワーはかからないといえるだろう。
一方で、「販売管理」や「生産管理」などは、自社の競争優位性を担保するための業務という色合いが強く、独自の業務プロセスを構築している企業も少なくない。そのためクラウド型ERPで対応する機能モジュールが提供されている場合でも「いきなり販売管理や生産管理までクラウド型ERPに置き換える」という選択をすることには、慎重にならざるを得ない。
そこでまず人事給与や会計はクラウド型ERPのモジュールを利用し、販売管理や生産管理は既存の手組みのシステムやパッケージを残して、クラウド型ERPとの連携を取るという対応が現実的な解となる。この場合には、各システムからCSVなどでデータを吐き出してバッチで連携するなどの選択肢が考えられる。データ連携機能やツール類はクラウド型ERPのサービスプロバイダーが提供してくれる場合がほとんどだ。
しかし、クラウドERPの利用メリットを享受するために、販売管理や生産管理もクラウド型ERPのモジュールで置き換える場合は、かなり大掛かりなプロジェクトになることを理解しておく必要がある。
利用する範囲が広がれば広がるほど、「全社業務を横串で見ることができる」とか、「業務を標準化することができる」といったERPの恩恵を受けやすいのだが、その半面として、業務プロセスやシステム上で見直しを検討すべき要素が増えていく。このため、多くのコストやマンパワーを投下する必要がある。この点については、かけられるコストや自社の成長スピードなどを十分に考慮した上で、クラウド以前に“どこまでERP化するか”を見極める必要がある。
上でも少し触れたように、人事給与や会計だけでなく、販売管理や生産管理などを含めて一気に置き換えを図る場合、オンプレミス環境へのパッケージ導入か、クラウド型か否かにかにかかわらず、乗り越えなければならない幾つかのステップがある。
まずは現在の業務プロセスを洗い出して「フィット&ギャップ分析」を行う。ここで、不足機能がある場合には対処方法を決定する必要がある。また、名寄せやIDの付け変えが必要な各種システムのマスターデータ整備/統合も必要だ。
次に、カットオーバー後の運用体制、例えば「マスターの更新は、誰が、どんな手順で行うのか」などを決めておく。そしてユーザー教育を行い、運用テストを行った後に本番稼働を迎えることになる。
ここまでのトータルの導入期間としては、クラウド型ERPの場合では、導入プロジェクトに要するのが約5カ月、本番環境の安定稼働を検証し終わるまでに約3カ月というのが、1つの目安となる。オンプレミスのERP製品導入では、関連機器の調達やアプリケーションの改修などが必要であれば、さらに長期間のプロジェクトとなる。
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